85日目 どこのだれ日記「その人らしさ」

栗が美味しい。栗のパンをもらって、栗おこわをもらって栗そのものをもらって、パンの耳にたっぷり栗ジャムを塗って食べている。

身ばれしないように日記を書いている。

だからあんまり込み入った内容や仕事の事など詳しくは書けない。でも見る人が見ればばれるんだろうな、という程度の脇の甘さである。

別段、ばれたら絶対に困る、というようなことが書きたくて隠しているわけでもない。気付いたとしても、どの私も本当の私だからそっとしておいて、というくらいの話。

匿名性が悪、と見なされることがあるけれど私はそうでもないな、と思っている。実名が何かを証明してくれたり担保してくれるともあまり思わない。

その人はその人でしかないな、という感じ。

匿名になったとたん、悪意を剥き出しにする人が実名の時には信用出来る人物だなんて思わない。

年に一、二度手紙をくれる友人がいる。その子が突然大学を中退して以来、一度も会っていない。中退した理由もその後の日々も知らない。

それでも学内で偶然会うたびにリュックからおすすめの本や漫画、音楽を出してかしてくれたので、その子の見てきた世界を私はよく知っている。

十何年経っても変わらず時々送られてくる葉書に、その子が今何をしているかは書いていない。でも相変わらずその人だなー、という空気がそこに流れている。

外から定義出来るような情報をすべて取っ払っても、最後まで残るその人らしさって、その人が何を見て生きてきたか、ということに尽きると思う。

そういう、ひとつひとつの言葉の隙間から見え隠れする、その人の身体から薫る香りのようなものは、匿名になったくらいじゃ、消えない。

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