今、なぜファッションがおもしろいのか

ファッションの背景変化

論争のないファッションはナンセンス。変化こそ、ファッションの本質 *1
エディ・スリマン|CELINE

まさに、ファッションは根本的な変化の時代に入ったように思える。だとしたら、エディ・スリマンの言うとおり、今はこれまでにないほどファッションがおもしろくなっていく時代だとも言える。ファッションはいつの時代も社会変化の側面を担ってはきた。女性にスタイルを渡したココ・シャネルはその代表格である。ただ、現代の変化というのはより全人類、生命的なことであったり、地球レベルの背景がある。社会構造変化も包含しつつ生物・自然的な構造変化を背景にしている。インターネットがその変化の同時性をつくっていることもあるし、分かち合う人間の知性も高まってきている。そういった中で、社会的な回答をファッションとして示すということは、かしこまる事ではなく、むしろ、もっと強く、解放的に表現されることを求められているように思う。

変化の正体と、求められていること

例えば、10年前はファッションはもっとコマーシャルとの結びつきが強かったように思いますが、今はユニークであることが受け入れられるようになっていますし、それらが注目されるようになってきているのはいい風向きだと思います。ファッションに関して一つだけわかっていることは、ずっとポジティブなものであり、常にポジティブであるべきものということです *2
ラフ・シモンズ

私の思う変化とファッションへの期待というのは、このラフ・シモンズの言葉に凝縮されている。コマーシャルになったファッションに対して、買う・着る側の人間も懐疑的な眼差しを向け続け、あらゆる制約・ルールは瓦解しはじめ、本質的な価値に向かいだしている。その過渡期の中、ストリートはより支持されいるようにも思われる。ストリートはいつも社会、そして若者の代弁者である。ビッグメゾンもそういった流れを受け、デザイナーを大胆に刷新しながら、大きな変化を自ら進みはじめている。ファストファッションブランドもそうだ。今ファッションは、社会的であることもそうだし、ユニークであることも、そして、何より魂を感じられるような”ポジティブ”であるか、が問われているのだと思う。

ファッションはもはや流行ではない

商業的に生み出されるトレンド(流行)は通用しなくなり、結果としてトレンド自体がより普遍的なテーマに移行していった。もしかしたら、従来的なファッションの新しい試みというのもやり尽くしたのかもしれないし、それ以上に世の中の感情的な優先順位が明らかに変わったのかもしれない。もう、ファッションは流行ではなくなる。より普遍的な問いをポジティブに答えていくことがファッションが果たすべき役割である。

将来、ファッションブランドのベースは、社会活動になるだろうと個人的には確信しています。そうでなければブランドは生き残れない *3
デムナ・ヴァザリア|VETEMENTS|BALENCIAGA

芸術が普遍性を求めるものだとしたら、その役割とは、ファッションの芸術的側面の発揮だと思っている。いま、ファッションにおけるクリエイションの情熱の置き所は、流行ではなく芸術的側面にきっとある。ファッションとアートは共鳴されなければならない時代に突入している。

プラダの服は、着てくれる人のさまざまな面や性格、考えを反映している。トレンドというより、コンセプトから生まれた服ね *4
ミウッチャ・プラダ|PRADA|MiuMiu

ファッションが芸術性を帯びるとき、ブランドは個人に宿る

ファッションが芸術性を発揮するとき、ブランドはかつてないほど個人に宿る。多くはきっとデザイナー個人に。ビッグメゾンのクリエイティブディレクターの移籍や登用が話題になっているように。芸術作品とオーディエンスを橋渡すものにキャプション(美術館で作品の横とかにある小さな張り紙みたいな解説)がある。誰の作品で、その作品の意図などが記述されているあれだ。衣服にもそういったものが求められると思う。今は都合よくソーシャルメディアがその役割を遺憾無く発揮している。創作過程であるとか、本人のメッセージであるとか、まさに芸術作品におけるキャプションのような役割を果たしている。個人的に、デザイナーがソーシャルメディアをやらないといけないとは思っていないが、ファッションの芸術側面を伝えるにあたり、キャプションをどのように顧客に表明していくか(態度をとるか)は考えるべき重要な題材になっている。

この加速度的な変化の中だからこそ、GUCCIのアレッサンドロ・ミケーレやOFF-WHITE/LVのヴァージル・アブロー、冒頭のエディ・スリマンはわかりやすく一層台頭したように思う。他方、ラフ・シモンズは”業界的な”時間軸から距離を置き、創作活動に集中することを選んでいる。やり方の選択肢は多岐にわたるし、ブランドが個人に宿るからこそ態度そのものもキャプションになるゆえ、どれがこの変化における正解というわけでもない。ただ、ファッションはこれからもっとおもしろいものになると感じている。


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