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螺旋階段をのぼる"D2C" vol.2

螺旋階段をのぼる"D2C" vol.1で、D2Cを考えるにあたって1つ目のアナロジーとしての製造小売を取り上げた。今回は2つ目のアナロジーとしてDCブランド(特にデザイナーズブランド、D2Cと紛らわしいですがDC)を取り上げる。ここでは、ファッション・アパレル分野での話にはなりますが、同時代に建築であれインテリアであれモノ(プロダクト)にまつわる近しい変化はあったように思う。

DCブランド:価値観が変わる、ポストモダン

DCブランド
1970年代末、1970年代前半に散見された既製服の画一化傾向が顕在化し、業界の停滞と商機減少に対して、1960年代まで日常的であった、個々の家庭での自作服および街中の洋装店での注文服による多様性と個性とを新たな方法によって復活させ、そこに商機の活路を見出すことが図られた。
Wikipedia

例として衣服の話になるけど、VANとかJUNといったマンションブランドから、上記のような背景を経る中で、1980年あたりからDCブランドが一気に立ち上がった。川久保玲とか三宅一生、山本耀司、今でも国際的に活躍するデザイナーたちが脚光を浴びた。ありきたりではなく、デザイナー自身の個性、感性を活かしたブランドが注目された。

多くは、マンションの一室で小さな生産規模を手作業で行うところからはじめ、後の東京ファッションウィークの原型となるものを自分たちで立ち上げ発表を行い、その前衛的なデザインや、これまでにない衣服の着こなしを広め、路面店や百貨店への販路も拡大していった。

衣服を通じて、これまでの概念を壊し新しい時代を作ろうとしたデザイナーたち。ファッションの中心地は意識的に銀座から原宿・表参道に移り、素人がモデルになったりした。それぞれのバラバラな強い個性、テイストであるけれども、新しい時代をつくろうとするベクトルのみでDCブランドとしてひとかたまりに呼称され、ファッション誌も大きく取り上げることで、その活動はムーブメントになった。

そして、このムーブメントを引き起こしたものはポストモダン、価値観の変化であると思う。デザイナーも顧客も、画一的な世の中に対し多様であること、異なることを求めていた。経済的な不景気は時代を見直す景気にはなったのかもしれない。機械的・合理的に成長したのちに、このような価値観の変遷を辿るのはなんとなく想像はつく。

「ポスト・モダニズムは新しい派閥とかジャンルの問題なのではなく、ルネッサンスよりもはるかに巨大な時代の転換を意味している」
マイケル・グレイブス
「ポストモダニズムはカルチャーの復権する時代であり、自然と都市の共生を目指す時代であり(中略)、変化することの自由さであり、あらゆる形式の寛容さである。複合であり、混和であり、超越であり、遊びの時代である」
AXIS 第2号

大切なことは、価値観が変わる中で、何を表現したいのか、つくり出したいのか、”モノ”や”ものづくり”に込められる想いがはっきりと表明されることであり、モノそのものの力強さである。そして、今は当時のポストモダンよりもきっと、大きな変化を迎えようとしている時代にあるように思う。そういった時代背景の中にあるD2Cである。

いま、不可逆な消費価値観の変化

たぶんD2Cの根幹はここにあるのかなと思っている。いわゆるミレニアル世代であり、デジタルネイティブであるZ世代がついに顧客像の中心に移ってきて全体としての消費価値観もソーシャルグッドに大きく変わり始めた。これは流行りと言った類のものではなく不可逆な変化になると思っている。また、この世代の情報流通は基本的にスマートフォンであり、インターネットであり、ソーシャルメディアである。

この2つの変化は実際に、いろんなことを変えつつある。単純に必要とされる(選ばれる)ものが変わり、必要とされないものには声が上がる。情報の伝え方は必然的に変わらざる得ないし、抗えない。結果として、市場でトップシェアを誇る既存商品は苦戦し、選ばれないものになっている。顧客ニーズの細分化といった淡い話ではなく、明らかに変わる次の価値観にモノとして的を得ないと届かない

D2Cにおいて、もしかしたらvol.1であげた街の豆腐屋さんが持っているようなこだわりとして、変わりゆく価値観にあうモノが必要とされている。過去にDCブランドは雑誌がその価値を広める媒介となったけど、D2Cにとってはそのモノを知らせ、触れてもらう場として今は直接的に透明性を持って声を届けコミュニケーションするソーシャルメディアが主となる。まず、モノありき、この時代に必要とされるモノを具体的に特定し、実現させ、執着を持って訴え続けること、この順番でD2Cは始まるべきであるはず。そういう意味では、DNVB(Digitally Native Vertical Brand)の方が、フィーチャーされる言葉としては適切ではあるんだろうなあとも。

おまけ)この時代に必要とされるD2Cなモノの観点

長くなってしまいそうなので簡単に結論だけ。以下のうちのどちらかが、いまD2Cとして、モノをつくり直販していくことに意義を見いだせるのかなあとは思う。

1. 直販する自体で意義を持ちうるモノ
既存流通を飛ばすからこそ提供できる価値があること。カテゴリーおける機能不全部分の余剰コストを削減することで適切な価格を打ち出すモノ
(例:手頃で品良いモノがなかったメガネとかシェーバー、カスタムオーダーなど)

2. 既存の市場にはなかったモノ(結果としていわゆるニッチ)
価値観の変遷の中でこそ生まれうる、これからの世代(ミレニアルズやZ世代)が支持するモノ。リベラル、自然体、自分らしさ…
(例:メンズに特化したパンツとか、サステナビリティー重視なモノなど)


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