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【今日コレ受けvol.051】それでもなお

一緒じゃないほうの時間に、その人の”不在の存在感”を感じるのが好きだ。
恋人だけじゃなく、友人でも推しでも死んだ親でも、「じゃないほうの時間」に思い浮かべる人がいる人生は豊かだなと思う。

じゃないほうの時間【さとゆみの今日もコレカラ/第65回】

元旦の地震以降、何も書けなくなってしまった。
正確に言えば、仕事の原稿は書いているので、自分の言葉をつむぐことができなくなった。
私は、どちらかと言えば共感力が低いタイプの人間だと思っていたので、少し意外だった。

11月の末に、石川県に取材に行った。北陸自動車道には日本海が見える区間がある。その日は突然雹が降り出すような不安定な天気で、荒波の押し寄せる荒れ狂った海に恐怖心を覚え、強風に煽られながら慎重に車を走らせた。

さとゆみさんがおすすめしてくださった書評は、大分を旅しながら本に書かれた江戸時代の女性を思い浮かべて、豊かな時間を過ごした経験を書いたものだ。楽しく過ごす現在に、江戸時代の旅する女性の高揚感が入り混じって、ワクワクが増幅された。

そうか、知るということはこんなにも世界を広げてくれるんだなあ。現在と過去が交錯し、旅が何十倍にも豊かになる。

江戸時代の女性たちと共に、旅をした夜『江戸の女子旅 旅はみじかし歩けよ乙女』

翻って、今は、石川県に暮らす人と出会ったからこそ、日本海の荒波に恐怖心を抱いたからこそ、過去と現在が入り混じり、マイナス方向に感情が揺さぶられている。

知るということは、世界を広げてくれる。けれどそれはポジティブな方向への広がりだけではない。忘れたと思っていた、自分の奥底に残っている、マイナスの感情を呼び起こすこともある。

それでもなお、知ること、旅をすることを、やめるつもりはない。喜びも痛みを知っているからこそ、届けられる言葉があると思うから。


毎朝7時に更新、24時間限定のショートエッセイCORECOLOR編集長「さとゆみの今日もコレカラ」。「朝ドラ受け」のように、その日の「今日もコレカラ」を受けてそれぞれが自由に書く「遊び」です。

じゃないほうの時間【さとゆみの今日もコレカラ/第65回】


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