有頂天

ど緊張の初打席の翌週、またも代打で出場機会が与えられた。デビューの緊張感に比べたらほとんどカタさもとれ、今回はヒットを打ってやろうという気持ちを持つくらいの余裕の気持ちで打席に入った。そして簡単に初球に手を出してしまい、平凡なフライが打ち上がった。正直打ち損じた感じだった。ところが、である。その打球はセカンドとセンターの間にポトリと落ちて、記録はヒットとなった。前回のヒット性の当たりがアウトに、今回の平凡なフライがヒットになるのだから野球は深い。ただ、自慢するような打撃ではなかったのは確かだった。それなのに、このヒットが私を天狗に返信させた。
私は小学校3年時に数ヶ月学童野球に所属したことはあるが、ほぼ未経験者だった。新チームの選抜からも漏れて、上級生になってもレギュラーになれるかさえわからない身分だった私が、いつのまにかベンチに入り、同期のスター候補だったショウヘイやカズキよりも先にヒットを記録したのだから仕方ない。同期でいちばん早くヒットを打った選手という自尊心が芽生えていた。カズキが先を越された悔しさを露わにしたことがさらに私を助長させた。
家に帰った私は父親から、記録はヒットだったがデビュー戦のほうがよい打撃だったと指摘されたが、そんな声は聞こえなかった。私は有頂天になっていた。
そんななか、私のスタメンデビューが決まった。この試合で結果を出せば秋の新人大会のレギュラーも可能性が出てくる。もうこの勢いで背番号4をもらう。私の描いた青写真は木っ端微塵に砕かれた。

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