はじめてのバッターボックス

1学年上の先輩たちは粒揃いだったため、自分らの代で練習試合に出たものはカズキひとりだった。ショウヘイはデビュー前にケガで離脱していたし、新チーム結成時に選抜された、マナブもヨウジも出番はまだなかった。
そんなところへショウヘイの代役でベンチ入りした私がカズキに続くふたりめの一年生デビューのチャンスがやってきた。小学校3年生のときに、たった3ヶ月の野球経験しかない私には、もちろん人生初めての試合出場である。父親や兄もギャラリーに混じって見守ってくれていた。
忘れもしないN中学との練習試合。9月最初の週末だったと思う。ただ、どんな展開だったか、何回だったか、誰の代わりの出場だったかは記憶にない。打席に向かう記憶も全くない。とにかく、誰かの代打だった。
ド緊張のなか打席に向かった。審判に挨拶する余裕などない。押しつぶされそうな重圧のなか打席に入った。初球は投げた瞬間それとわかるボール球だった。これでほんの少し緊張がとけた。続く第二球は、おあつらえ向きの直球がど真ん中にきた。体が勝手に反応した。ボールに向けて振ったバットの芯がボールを捉えた。監督の「ヨシっ」という声が聞こえた。手応えがあった。
ボールがバットから離れた瞬間、これは多分ヒットになる、と思った。たったコンマ数秒の間に初打席初ヒットだ!という歓喜のシナリオが頭を駆け巡った。しかし次の瞬間、センターに抜けそうな当たりをセカンドが飛びついて捕る景色に遮られた。気づいたときは、ボールは一塁手のミットに収まっていた。私はまだ一塁ベースに辿り着いていなかった。

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