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札束無情 (1950)

原題 Armored Car Robbery
公開 1950年
配給 RKO Radio Pictures
製作国 アメリカ

監督 リチャード・フライシャー
脚本 アール・フェルトン
撮影 ガイ・ロエ

出演 チャールズ・マッグロウ/アデル・ジャーゲンス/ウィリアム・タルマンほか

■あらすじ(引用)

ロスのリグレー野球場近くで現金輸送車を襲撃した強盗団一味のボス、バービスがたまたま通りかかったパトカーの警官の一人を殺した事から状況はにわかに緊迫していく。犯罪者たちが警察の捜査によって次第に追いつめられて行くというケイパーものだが、襲撃そのものを描くことより、犯罪の背後にある犯人たちの動きと仲間うちで巻き起こる不信や疑念、それに肉薄する警察の捜査が独特の小気味よいリズムとアクションで綴られていく。『その女を殺せ』とと共にフライシャーが’50年に撮ったノワールの傑作で、その後の映画人生の転機を告げた作品となった。

ブロードウェイ

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Armored Car Robbery

68分の尺でこれだけの密度の映画を作れるからフライシャーは偉い。徹底的に無駄を削ぎ落とし、娯楽映画の骨格となる部分を心理によろめくことなく活劇で観客に提示する。映画の面白さとは本来こういうものだよと、3時間超の映画をだらだらと撮り続ける最近の映画監督たちに教えてあげて欲しい。もちろん、短ければ良いというものではないし、フライシャーの経済的な語りは当時のB級映画のシステム中で構築されたもので、今の時代にそれが求められているのかということもある。ただ、徹底的に削ぎ落とされた骨太なスタイルは今観ても魅惑的だ。

物語は一本の通報から始まる。野球場で強盗事件が発生したとの通報を受けてロサンゼルス市警は現場に急行する。到着してみると、そこでは事件は発生しておらず、通報はいたずらだとわかる。そんな警察の様子を時計を確認しながら見ている男がいる。強盗団のボス、バービスである。強盗前に、警察が通報を受けて現場に到着する時間を計っているというシーンだ。

劇場で登場人物の関係性を端的に示し、強盗前の打ち合わせのシーンではブラインドを下げれば地図があらわれ、次のシーンではもう強盗が始まっている。このテンポの良さ。描くべき主題は強盗よりもその後ゴタゴタにあるから、このスピード感なのだろう。

強盗後のカーチェイスではバービスが後部座席の窓を拳銃で突き破り、一発の銃弾で警察の追跡を振り切るという離れ業を見せる。
検問でのスリリングなやりとり、負傷した仲間の処遇、当然のような仲間割れ、この手の映画では目新しくもない展開が続くが、どれもフライシャーの明快な演出のおかげで退屈しない。
この映画のスピード感に拍車をかけているのが、警察の優秀さで、迷いのない捜査でバービスたちを追い詰める。
バービスに連れ去られた部下が撃たれ、彼からバービスたちが高跳びしようとしているとの情報を得た警察は空港に向かう。空港ではプロペラ機がすでにエンジンを回していたが、管制から離陸許可がおりない。駆けつけたパトカーが飛行機の周りを取り囲む。業を煮やしたバービスは飛行機から降りて、滑走路を走って逃走を図るも、対向からやってきた飛行機に轢かれてしまう。
絶命したバービスの鞄から大量のお札が舞い上がるラストシーンは素晴らしい。

この完璧なラストシーンは、映画を問わずいろんな創作物に影響を与えていると思う。偶然みつけたのが、ハードボイルド劇画を描く佐藤まさあきの『LEADEN CROSS 鉛の十字架』に収録されている短編「喪服につけたバッヂ」にこのラストシーンが引用されていた。

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