呪箱を置く人

4:鎮座する氷

 厭らしい真紅色の燭台が映える黒いテーブル席に、心の中すら映し出す様な漆黒のジャケットを羽織り、ダメージ加工された茶色いチノパンを履いたフランクリンが座っている。向かいにはシックな酒場には場違いな、如何にも探検家といった小汚い作業服姿の中年男性が座っており、何やら隠密に会話している。小汚い探検家は頭をボリボリと掻きながら、疲れ切った表情で会話の続きを始めた

『だがな、あそこには間違い無く埋まってるぞ。私が長年探し求めていた鉱石だ、あれさえ手に入れば私達は世界を変える事になる。フランクリン、君の野望だって叶える事が出来るんだ。それは人々の幸福を意味する、そうだろ?』フランクリンは手元にある分厚いグラスを指で撫でながら、少量となった琥珀色の酒に鎮座する氷を見つめている。冷酷に、無表情で、まるで姿なき何者かの話に耳を傾けている様にも見える

『頼もうか?』言葉に反応する様にフランクリンは視線を探検家に向けた。探検家は顎でグラスを指す、すると我に返った様にフランクリンは口を開いた『いや、いい。……どうせ奢るのは俺だろ』探検家は笑いながらカッティングボードに乗ったチーズを摘んでいる、フランクリンは言葉を続けた

『最近同じ夢を見るんだ、鼓舞する様に何度も何度も呪いをかけてくる。革命を起こせ、お前にはその使命があるとそいつは俺に囁く。正直洗脳されそうだ、俺もそいつと似た様な考えを持っているんだろう。どの道ジノリの行く先は絶望しかない、しかもそれを引き寄せているのは同じ人間なのだから遣る瀬無い。アマデウスの、汚ねェ面した議員共、上院だろうが下院だろうが関係ない。俺はあいつらを一掃する、俺自身が必要悪となる。ヱビス、だからこそ俺は躊躇している』

探検家は呆れている、チーズは乾きを失い爛れた。そしてこのフレーズは合言葉の様になっていた『だから…ヱビスじゃないと何度言えば…』

探検家の名は、ヱルヴィス能収といった


つづく–––

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