ナボ マヒコ(Nabo magico) 2

店に入ると客はまだ誰もいなかった。カウンターの中でタバコを吸っていたマスターが僕の顔を見て、いらっしゃい、と言うがその声に元気がない。

僕はカウンターの一番奥の席に座ると、とりあえずビールを注文した。

「かずちゃん、今日はマグロ良いの入ってるよ。」

「そうですか。でも今日は、あんまりお金持ってないし...  焼き鳥ありますか?」

「焼き鳥、ハイ勿論。焼き鳥一丁、カウンターね!」

マスターの声に奥の方で眠そうな声が、ハーイと答えた。僕は多少失望しながら運ばれてきたビールを飲んだ。と言うのも、この時間帯は、いつもなら少なくとも二、三人は常連客がカウンターに陣取っていて、その中には、たまに結構可愛い女の子がいたりするのだ。

今日は常連ギャル来ませんねえ。そうマスターに尋ねると

「あかん、みーんなNavidadのvacaciones(クリスマス休暇)でどっか行っとるわ。」

と大阪出身の彼は、肩をすくめながら関西弁で答えた。

三本目のMahouビールを飲み終えて僕がトイレに立とうとしたその時、ガラリと戸の開く音がして客(おとこ)がひとり入ってきた。

僕よりもかなり背が低く、それでも1メートル50センチ程はあるだろうか。ざん切り頭がやけに大きくてそのアンバランスさのせいて余計に小さく見えるのは確かだった。

そして、見ていると何だかそいつに吸い込まれてしまいそうな大きな目玉が浅黒い顔の中に行儀良く並んでいた。

男は所々染みの付いた赤いウインドブレーカーを着て、下は灰色のジャージをはいていた。男が僕の方をじっと見つめるので、僕はなるべく目を合わさないようにしながら階段下のトイレへと降りて行った。

トイレから戻ってみると、僕の座っていた椅子の右側の席ひとつ空けた所にさっきの男が座ってビールを飲んでいた。急に他の席に移るのも何か白々しい気がするし、かと言って帰るにはまだ飲み足りなかった僕は、仕方なく元いた席に戻ることにした。(つづく)

なんと、ありがたいことでしょう。あなたの、優しいお心に感謝