曲がったことが嫌いなへそ曲がりじじい
亡父のことである。
うちは裕福ではなかったし、父は定年後も健康だったので、
役所の嘱託員をしていた。
ある日、自転車置き場管理人希望者への説明会に、
説明役として出席した。
管理人の仕事の中に、次のような意味の条項があった。
「モシ強盗侵入セシ時ハ、サスマタヲモッテコレヲ退治スヘシ」
管理人希望者の大部分は、定年後の延長雇用も切れた老人である。
1人が不安そうに手を挙げたそうだ。
「あのう、この文はつまりどういうことでしょうか…?」
父は言った。
「あー、これね。万一のときは皆さんさすまたがありますから使ってください、程度のことで、相手が武器持ってたら危ないからね!
逃げてください。」
みなさん、一様に安堵なさったとか。
なぜ、私がこの話を知っているのかというと、
家で父が怒りまくっていたからである。
「誰だ、こんなこと書いた馬鹿は!
老人が強盗と戦えるわけないだろうが!」
父は、当然のことながら、説明が悪いと(年下の)上司に叱られたらしい。
「だから言った。『あなたこの時給で命かけられますか?』ってな。」
在職中、出世しなかったのも無理はないなぁー。
曲がった道を真っ直ぐ歩いて、
いらん穴に落ちたり、壁にぶつかったり、
それでもこんちくしょうと真っ直ぐ生きた父であった。
とりわけ、権力に阿るのが嫌いであった。
まぁ、傍からみればへそ曲がりのくそじじいである。
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