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貧困はすぐそばに #私と健康で文化的な最低限度の生活 #マンガ感想文

私の家は貧乏だった。

でも、それは村に大きな団地ができて農地を売った土地成金が多かったのと
新しい団地にハイソな若い夫婦が多く引っ越してきて
リカちゃん人形が買ってもらえないとか
母の古着を仕立て直して着ているとか
そういうのが目立っただけで、

すき焼きの肉はちくわ

そうすれば「健康で文化的な最低限度の生活」より少し上を暮らしていけた。大学にも行かせてもらえたし。(母がそれこそ爪に火をともして貯金してくれていたんだけど。一部借金もした。)

大学に行けたから教師になれた。最初の配属先がいわゆる「困難校」、
家庭に事情を抱えている生徒が山ほど、
生活保護をもらっている家庭もあった。

だから、このセリフがこたえた。

していない!

生活保護をもらっている家庭で、手続きをしてアルバイトをしている生徒はいた。そうすれば全額没収はされない。家庭のためや自分のために使うことができる。

印象に残る生徒がいる。
高校を出たら働きたい。母子家庭で生活保護受給者である。
勉強ができない。
成績は、お助け問題や補習でなんとか進級するレベル。
成績会議には必ず上がる常連。
ベテラン教師には、もしかしたら軽い学習障害があるかも、と言われていた。

就職希望の彼は、工場のラインのように同じところに立つ作業はできないという。
自動車の整備工が志望だと。
でも、学校に通う余裕はないし自分ももう働きたいと。

時代は就職氷河期だった。

給料をもらいながら整備工の資格を取る求人が激減した。
今、あるかどうかわからないが、当時はそういう求人があった。
数少ない求人の倍率が上がる。

私「アルバイトのことは、家計を助けるため、だからね」
彼「え?俺、自分のために使ってますけど」
私「生活保護受給が減るからお母さんに渡している分があるでしょ!」
彼「はぁ」
私「それに、バイト代で君が夕飯食べたら、家計を助けてるの!」
彼「はぁ」

彼は自動車が好きだ。
面接うけはものすごくいいのに
テストで落ちる。
私は、彼の学力の面倒までは見る余裕はなかった。

全社落ちた。

高卒の求人は学校を通す。夏休みには決まる。
希望の職種がなくなった。
先輩教諭に、臨時募集を毎日チェック、と教えられた。
「高所作業車作業員」の募集が来たのはもう冬。

先輩教諭に、「担任」が「直筆」で「一筆添える」といいと教えられた。

母子家庭で、家計を助けるためにアルバイトしていると書いた。
アルバイトしていても遅刻も欠席もほとんどないと書いた。
書きながら泣けてきた。

じっと座っているのは苦痛なのに、
分数の割り算がわからないのに、
授業をうけてギリギリ進級している彼!

彼の能力は学校では光らないが、仕事では発揮される。
バイト先でも褒められていたらしい。

就職が決まった。

「いやぁ、本当にいい生徒を紹介いただいて!」
と、お礼の電話が来た。

だけど、「健康で文化的な最低限度の生活」作中の高校生は、バイト代全額返金だ。
知らなかったから。
手続きを知らなかったから。
「不正受給」として。

この話はドラマ化もされている。
そういう子もいるんだな、で流されているかもしれない。
意識しなおして欲しい。
私たちの社会は、確かにこういう層をかかえ、
彼らもまた一生懸命生きて働いて社会を支えているんだと。

生活保護受給者は、怠け者でも社会の荷物でもない。

そして、生活保護は他人事ではない。

私は、職場での事故が原因で働けなくなった。
もしも、夫がいて家計を支えてくれなかったら、
専業主婦という名の無職として生きていくことはできなかった。
専業主婦がやれる家事ができてない私は無職だと思う。

もしも、私が独身だったら、生活保護を受けるしかなかったのではないか。

事故で!

事故は、誰の身にも突然起こる!

私は「生活保護」には関心が高い方だったかもしれない。
こんなことがあった。

「ごーしちご」という川柳俳句コミュニティがあって、
字数制限はTwitterより少ないが、ほどほどに交流できる場であった。
そこを利用していたら、大晦日に、

”これから死にます”

と、投稿があった。

少しずつ情報を聞き出した。
彼は、今日アパートを追い出された、という。
そのアパートは、生活保護受給者支援団体が借りていた。
彼はその団体にほぼ全額生活保護費を渡していた。
色々な名目で。
その生活保護受給者支援団体が雲隠れした。
家賃が払えない。所持金はほとんどない。立ち退き請求されていた。
とうとうアパートを追い出された。一文無しだ。
年末で、役所も休みで夜で他の支援団体も電話が通じなくて。

そう、持っているのは携帯電話だけ。

貧困ビジネスだ!

そのうちに
”無銭飲食して警察に捕まろうと思います”
やった。
だが、警察では説教されただけで釈放された。

そこまで私と数人が彼から情報を聞き出していたのだが、そこに、
”相手にしない方がいいですよ”
”うそに決まってます”
というレスがついた。

”嘘でいい 騙す方より 騙される”
本来五七五コミュニティなので、そう返した。

はっきり言って私は役立たずで、
他の人が
”渋谷まで歩けますか?”
”ホームレスに炊き出しをしている”
”その団体に相談すればいい”

彼は、とにかく屋根のある所に行くことができたと。

自分が悪質な貧困ビジネスに騙されたとわかったが、
悔しくても、所在もわからないし、立証できないし、
訴えることはできないと。

プロフィールから、年配の男性のようだった。

その後、
まともな支援団体につながって
アパートに入ることができて
明るい句を「ごーしちご」に投句したりしていたが、
「ごーしちご」が閉鎖されたので、
私とのつながりは切れた。

「健康で文化的な最低限度の生活」最新刊9巻は、
貧困ビジネスがテーマだ。
昔より、巧妙になっているらしい。

他人事、ニューステーマのように読んで欲しくない。
生活保護は、いつ、誰が受給することになってもおかしくないことで、
それは私かもあなたかもしれないのだから。

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