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市場流通と産直流通どちらが良いのか!?青果流通の仕組み<概要編>

<業界内の人間がなぜ青果流通について書こうと思ったのか>

 普段当たり前のようにスーパーや八百屋に並んでいる野菜やくだもの(以下:青果物)。当然ですが、これらの青果物が消費者の手に届くまでには、産地の畑で青果物を育てる"生産"、畑から消費地まで青果物を運ぶ"流通"というプロセスが存在します。

 私自身、中学生の頃から将来は農業、特に青果流通の分野で仕事がしたいと考え、新卒で就職した商社を3年で退職し、起業。実際に業界の中に入ってみて思ったことは、驚くくらい業界の中の情報が外の世界にないということでした。

 最近、農業・青果の分野で働いてみたいという人やこの分野に興味があるという人とたくさん会う機会があるのですが、話をしてみると業界の仕組みや実情を正確に且つ客観的に理解している人がとても少ないように思います。

 ただ、それはその人たちの問題というよりは(正直なところ私もこの業界に入るまではほとんど何も知らなかったので)、農業や青果の分野に関する体系化された情報や現場の情報がほとんどないことが原因だと思っています(もちろん、業界の複雑さも半端ないのですが・・・)。

 5年前にこの業界に飛び込み、卸売市場での仕事や有機農産物の産直プラットフォームの構築、産地の自治体との協業による青果物の輸出や中央卸売市場での買参権取得による青果店の運営(現在都内3店舗)、植物工場の立ち上げや青果流通特化型のSaaSの運営など、業界内において様々な取り組みをしてきました。

 だからこそわかった業界の構造や実情をこの機会に改めて自分の中で整理すると同時に、この業界に興味を持っている業界の外にいる人たちにできる限りわかりやすく農業や青果流通の分野について知ってもらいたいと思ったのがnoteを書こうと思ったキッカケです。

<農業と一言でいうけれど・・・>

 青果流通について書く前にひとつ重要なこととして、よく"農業"に興味があるという人がいますが、それはある意味"工業"に興味があると言っているのと同じようなものだとよく思います。

 工業の中に自動車や航空機、半導体や産業用ロボットなど様々な分野があるのと同じように、一口に農業といっても、その中には野菜や果実、畜産や米、花卉など様々な分野があり、同じ農業といっても生産、流通、消費の方法は異なっています。

 また、野菜や果実といっても品目(野菜や果実の種類)によって生産や流通の方法が全然違っていたりします。なので、まずは"農業"というのは非常に大きなくくりの名称であることを理解することが大切だと思います。

 そうした前提のもとで、大きな数字を押さえておくと、まず国内の農業総産出額は9兆3,000億円です(2017年農林水産省「生産農業所得統計」)。その内訳を見ると、畜産の割合が最も大きく約35%、次いで野菜が約25%、米が約20%となっています。

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 農業総産出額のピークは1984年の11兆7,000億円で、当時は米が金額、割合の両方において非常に大きなポーションを占めていました。2017年の総産出額は9兆3,000億円とピーク時から2兆4,000億円減少しています。ただ、このことから30年前と比べて農業全体が縮小していると考えるのは少し早計です。

  近年の農業産出額の減少は、米の生産量(及び金額)の減少が大きな原因であり、野菜について言うと、35年前と比べて産出額は逆に約5,000億円増加しています。もちろん、販売単価の上昇が生産量の減少を補っているという側面もあるものの、市場規模という観点では野菜の市場規模は増加していると言えます。

 このように、"農業"という大きな産業を一括りでみてしまうと産業規模は縮小しているように見えるのですが、それぞれの分野によって実際は置かれている状況は大きく異なっているということを理解することが重要です(もちろん、農業全体で共通する課題もたくさんありますが・・・)。

<青果流通の全体像>

 上記を踏まえた上で、青果流通の話に戻る。青果流通の全体像を把握するには、まず下記の図をご覧ください。

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 これは国内の青果流通をほぼ100%網羅した図です。左側の生産者(グレー)から右側の消費者(オレンジ)まで様々な流通経路を通って青果物は消費者のもとへ運ばれています。

 流通総額は野菜が約2兆5,000億円、くだものが約7,000億円で青果の合計でいうと3兆2,000億円となっています。青い四角で囲まれた部分を通る流通が卸売市場流通であり、一般的に"市場流通"と言われています。

 産地で栽培された農産物はざっくりと大きく分けると、この市場流通か、それ以外(市場外流通)のどちらかの方法で消費者へ供給されます。

 よくある誤解としては、"市場流通はどんどん衰退していて、市場外流通がどんどん増えている"という一般的なイメージです。完全に間違ってはいないものの、青果業界の中にいる人間としては、この一般のイメージはある部分ではYES、ある部分ではNOというのが正確なところだと思います。

 「え、市場流通の割合って数字でみると確実に低下しているよね?」という質問に対しての答えはYES です。2018年の青果の市場経由率は58%と確かに数字だけみると30年前の80%強から低下しています。

ただ、実態を正確に理解する上で重要なのはこの"青果"の部分をもう少し分解してみることが必要です。

 市場経由率が低下している大きな原因の一つは加工用のくだものです。加工用のくだものは海外から輸入される外国産であることが多く、近年、この加工用の原料については市場を通さず、輸入元である商社が直接食品加工会社などへ販売を行うケースが多くなっていて、このことが青果物の市場経由率低下の大きな要因となっています。

 では一般的に私たちがスーパーなどの小売店で購入する国産の青果物についてはどうかということで見てみると、未だ実に約8割が市場流通によって消費者のもとへ届いています。

 すなわち、世間では時代遅れで非効率なイメージの卸売市場流通は依然、青果流通(特に一般の消費者が消費する野菜やくだもの)の基幹的なインフラとしての役割を果たしており、業界内で流通について少しでも知っている人間からすると市場流通不要論は青果流通の実情を知らない人の意見だと思ってしまいます。

 一方で、市場外流通の中でも市場流通と対立軸で描きやすく、新しい流通として一般的にメディアなどに取り上げられることの多い、産地直送取引や直売所、マルシェなどの"産直流通(上の図でいう下の部分)"について見てみると、青果流通全体にしめる割合は未だ1割程度というのが実情です。

 2010年頃から様々なIT系のスタートアップがこの産直流通(特にCtoCやBtoC)の分野に参入したのですが、本当の意味で成功している事業者は非常に少ないです(有名どころのサービスの事業者や投資家、関係者とあらかた話はしました)。

 かく言う自分の会社も2016年に"お気に入りの農家さんを見つける"をコンセプトに農家と消費者を直接繋ぐインターネットを使った有機農産物の産直プラットフォーム"toriii(トリー)"をスタートしたのですが、事業としては非常に厳しかったです。この産直流通の難しさ(事業としてのスケールの難しさ)については別のところで説明します。

 次に、青果流通の流れを例をあげながら流通方法別に説明していきます。

<卸売市場流通(市場流通)の流れ>

 まずはじめに卸売市場流通(市場内)におけるプレイヤーについてざっとみてみると

○ 卸売事業者
農林水産大臣の許可を受けて、出荷者(生産者や産地の流通事業者など)から販売の委託を受けた品物を、仲卸事業者や売買参加者へ販売する事業者。"大荷受"と呼ばれることもあります。売買参加者である弊社の目線から見ると市場のボスキャラ的存在です。

○ 仲卸業者
卸売事業者から買い受けた品物を市場内の店で、小売事業者など市場に買い出しにやってくる人たちに販売する事業者です。

○ 売買参加者
仲卸事業者と同じく、卸売事業者や仲卸業者から商品を買うことができる事業者(八百屋などの小売店)。ちなみに、弊社は現在、東京都中央卸売市場豊島市場にて売買参加者となっています。

○ 開設者
市場の運営・施設の維持管理、業務の許可・指導監督を行います。言うなれば、市場のオーナー。卸売事業者はこの開設者から委託を受けて市場を仕切っています。中央卸売市場であれば都道府県・市などの自治体が開設者となっており、地方卸売市場の場合には民間の会社が開設者となっている場合も多いです。

 次に、具体的な卸売市場のモノの流れについて、私が京都出身なので、例として京都で生産された野菜が市場流通で東京の消費者の手元に届く流れを説明すると

①京都の生産者によって栽培された作物は、地元の"農協"または"地場商社"(業界では地場商人とも呼ぶ)、"出荷組合"などの流通事業者(出荷組合は生産者が集まって作っているケースも多い)へ持ち込まれます(場合によっては流通事業者が畑へ集荷に来るケースもあります)。

また(生産者自身が)地元の卸売市場へ商品である農作物を持ち込む場合もあります。
※ よく青果物は農協を通さなければいけないと誤解している人もいるのですが、そのようなルールや法律はありません。

②複数の生産者から集められた青果物は、上記の流通事業者たちが巨大なトラックや鉄道を手配し、まとめて東京の市場へ輸送されます。

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③市場へ到着した青果物は、市場に1〜2社程度存在する"卸売事業者"(イメージとしては市場を仕切っている会社)が受け取ります(時間的には夕方から夜にかけて市場へ持ち込まれます)。

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④青果物は翌朝以降、"卸売事業者"によって"仲卸業者(仲介業者)”や"売買参加者(八百屋さんなど)"へ販売されます。

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⑤ 販売された青果物は、仲卸業者であればスーパーなどの量販店や食品加工業者、飲食店などへ、八百屋さんなどの売買参加者であれば飲食店や店頭で一般の消費者へ販売されます。

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 ざっとものの動きだけを見ると、市場流通ではこのような流れで産地から消費地まで青果物が移動します。

 実際は各事業者間の販売形態や決済の仕組みなど上には記載していない重要なポイントがあるのですが、その話は別途卸売市場に関する詳細の説明のところで詳細を書きたいと思います。

 ここでよく出る意見が、"このご時世、仲介業者多すぎない?"というものです。

 たしかに、上記の流れだけを見るとそう感じるのですが、青果という商品の特性と実際にそれぞれのステージで行われるやりとりや各事業者のもつ機能を理解すると、必ずしもただの仲介業者が多い非効率な仕組みではないことが分かるのですが、その話もまた別のところで詳しく書こうと思います。

 この質問に対する重要なポイントは、本当に市場流通で出現する上記のプレイヤーたちがそれほど機能をもっていなくて、仕組みとして非効率的であるならば、(生産者も消費者もバカではないので)とっくの昔に市場流通はインターネットを使った新しい流通事業者たちにとって変わられているということだと思います。

 しかし、実際は上で述べている通り、直近の10年をとってみても市場流通が依然大きな役割を果たしており、逆にインターネットを使った新しい事業者たちは苦戦しているのが青果流通業界の実情です。

 また、他にも市場流通のデメリットの部分で"流通日数の長さ"があげられることもありますが、ふつうにいくと産地で収穫された青果物は当日、または翌日には卸売事業者の元(市場)へ届けれられ、早ければ出荷の翌日、遅くとも翌々日には卸売事業者から仲卸業者などを経由して小売事業者へ販売されています(もちろん、東京で販売する場合、関東近郊の産地と九州や北海道などの遠隔産地では流通日数は1日程度ずれます)。

 上記は世界でみても例を見ないすごい青果流通網であり、よく日本の青果物の品質が海外と比べて高いと言われる理由の一つは、全国に作り上げられたこの青果流通網のおかげであるところが大きいと思います。

 ただ、一つ注意が必要なのは、上記の流通日数は、生産者、介在する各流通事業者が最早で青果を流通させた場合の話です。実際は別のnoteでも書こうと思いますが、様々な理由からどこかの事業者のところで青果物が滞留することも多く、スーパーなどの量販店の野菜の鮮度が良くなかったりする理由もこのあたりにあったりします。

 次に市場流通を利用する生産者と消費者のメリット・デメリットをまとめると

<市場流通のメリット(対生産者)>
○ 数量が多くても販売してくれる

○ 出荷先の与信管理の必要がない(販売代金は5日程度で市場から確実に入金される)

 ○ 顧客からのクレーム処理に対して(直接)対応する必要がない。

<市場流通のデメリット(対生産者)>

○ 販売価格が市況に左右される=価格の決定権がない(所得が不安定になりやすい)

○ 市場の買い手(量販店など)の性質上、商品の質が良くても差別化しずらい(他の生産者の商品と混ざってしまう)

○ 作り手である生産者の情報が産直流通よりも消費者へ伝わりづらい
<市場流通のメリット(対消費者)>
○ 物流コストを抑えられるため、宅急便を使う産直流通と比べて購入価格が安く抑えられる

 ○ 全国の産地から一年を通して安定的に青果物が供給される

<市場流通のデメリット(対消費者)>
○ 市況に青果の価格が左右される(小売価格が不安定になりやすい)

○ 生産者の情報がわかりづらい

<市場外流通(産直流通)について>

<市場外流通(流通事業者による直販パターン)>
 生産者によって栽培された作物が、地元の"農協"または"地場商社"、"出荷組合"などの流通事業者へ持ち込まれた後に(または流通事業者によって集荷された後に)、市場を通さず、直接スーパーなどの量販店や食品加工工場、飲食店、個人消費者などに出荷、販売される流通です(青果流通の図の下から3本目の矢印)。

<市場外流通(生産者による直販パターン)>
 生産者の直販に関しては、個人消費者や飲食店向けにお野菜セットなどを生産者自身が配送(遠隔地の場合には、宅急便などで直接発送)するパターン、地元スーパーなどに直接持ち込み販売をするパターン、生産者のもつ直売所(よく畑の前などにある小屋に野菜がおいてあるようなイメージの直売所)やJAなど第三者が運営する直売所や道の駅、マルシェなどに出品(出店)をして直接消費者へ販売するパターンなどが存在します(青果流通の図の下2本の矢印)。

 次に市場外流通を利用する生産者と消費者のメリット・デメリットをまとめると

<市場外流通のメリット(対生産者)>
○ 販売価格の決定権がある(市場価格と比べて価格が安定する)

○ 市場流通と比べて中間流通事業者が少ない分、販売代金から引かれる手数料が少ない

<市場外流通のデメリット(対生産者)>
○ 生産した数量が多い場合、すべての農産物を販売するのが難しい

○ 出荷に宅急便を利用する場合、送料の負担が大きい(自身で配送する場合には配送コスト(時間と手間)が大きい

○ 顧客からのクレーム処理に一つずつ対応する必要がある(間に流通事業者が入る場合はその限りではない)
<市場外流通のメリット(対消費者)>
○ 生産者の情報がわかりやすい(安心感) 

 ○ 鮮度の良いものが手に入りやすい

 <市場外流通のデメリット(対消費者)>
○ 宅急便を使用する場合、送料が高いため商品価格が高くなりやすい

○ 一年を通して安定的に同じ商品を購入することが難しい

<市場流通と産直流通ってどちらが良いの!?>

 こうして説明すると、「結局のところ、市場流通と市場外流通(産直流通)だとどちらが良いの?」という質問が必ずでてきますが、その質問に対する自分の答えはシンプルで

"それぞれの生産者と消費者次第。以上!"

という感じです(笑)

 一口に生産者といっても、少ない品目(品目=作物の種類)を大量につくっている生産者、珍しい野菜やくだものなど多品目を少量ずつ作っている生産者で作り方も売り方も全然異なりますし、農薬や化学肥料の使用の有無、消費者との関わりに対するポリシーの違いなどでもベストな流通方法はそれぞれ異なっています。

 消費者も、鮮度さえ良ければ農薬や化学肥料の使用については気にしないという消費者もいれば、農薬使用の有無、作り手の顔が見えることを重視する消費者もいます。

 野菜やくだものの値段についても、とにかく安いものがほしいという消費者もいれば、値段はある程度高くても構わないので、自分の納得できる野菜やくだものがほしいという消費者もいます。

 だれが正解というものはもちろんなく、流通もそれぞれの生産者や消費者に応じていろいろな選択肢があるべきですし、それぞれが最適だと思う流通を使えば良いのではというのが個人的な意見です。

 また、実際のところ、生産者も消費者も市場流通か市場外流通かの一択ではなく、市場にも出しながら、地元のスーパーへ直接販売、直売所でも販売している生産者もいれば、普段使いの野菜は直接生産者から買いながら、その他の野菜やくだものについてはスーパーや八百屋で買うという消費者もたくさんいます。

 現在の青果流通は、白か黒かというよりは、グレーの濃さが様々という表現が一番ピッタリだと思っています。

以上、青果流通の実情をまとめると

○ 国産青果物においては、この10年間、その割合は約8割を占め、市場流通が依然重要なポジションを占めている。

○ 世間的にはよく取り上げられる産直取引については、実態としてはそれほど大きく伸びてはいない(伸び悩んでいる)。

○ 市場流通も市場外流通もそれぞれメリット・デメリットがあり、生産者、消費者それぞれのやり方や考え方によって最適な流通方法は異なる(現在はそれぞれの流通をミックスして利用し、全体で最適な販売、購入をする生産者や消費者が多い)

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