娘と母のとある日曜日

何人かのスーツを着た男女。互いに何度か会釈をし、それぞれ別々の方向へ歩き始める。

片方は、三人のグループだった。初老の男性と、青年。そして青年の母親と思われる女性の三人である。もう片方は女性がふたり。こちらは若い女性とその母親だった。
ふたつのグループは正反対の方向へと歩いていく。自然と、すぐにある程度の距離ができた。きっと今振り返ったとしても、相手の表情を見て取ることはできまい。既に、それなりの距離がひらいていた。

若い女性と母親は、相手のグループが十分に離れたのを見計らって話し始めた。

「んで、どうなのよ」

「うん、パスかな」

「……ま、そんなもんよね」

母親の投げかけた言葉に、若い女性はそっけなく答えた。しかし母親のほうもそれを予測していたらしい。気の知れたふたりのやりとりを見る限り、どうやら今回の件に関する母と娘の見解は一致しているらしかった。

君江は、そもそも何かを期待していたわけではなかった。娘の写真を見た先方から、しつこく見合いの話を持ちかけられ断りきれなくなった、それだけのことだった。娘の奈央美が拒否したなら、何度せがまれようとも断り続けるつもりだったが、奈央美は案外すんなりと見合い話を受け入れた。

君江にはなんとなくわかっていた。

かすかな興味本位と、母親を困らせないための気配りと。
奈央美はそういう子だった。生まれて初めての見合いの席を終え、それでもやはり、奈央美は奈央美だった。

「あなたには言ってなかったけどね、私もお父さんと出会う前に、一度お見合いしたことがあるのよ」

「へぇ、初耳。んで、どうだったの」

「うん、パスかな、ってかんじ」

「えへへ」

奈央美は照れ笑いでもするかのように、少しだけ嬉しそうに笑った。

春先のここちよい風が通り過ぎ、かすかに親子の髪を揺らす。
喫茶店のショーウィンドウに飾られたプラスチックのいちごパフェ。それに見とれて思わず足を止めてしまう、今やすっかり大人になったはずの我が娘。

甘い物が大好きだった幼い頃と、ちっとも変わらないその姿を眺め君江はうふふと小さく笑った。

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