理由がいりますか

今、このとき。

私の目の前にいる女性は、なんということもない普通の日本人で、それらしい特技や実績を持つでもなく、極めて美しいわけでもなく、普通に歳を取り、今日は月の物のせいなのか極めて機嫌も悪く、最終的には居間でそのままタオルケットにくるまって寝息を立てている。

世の中には、輝かしい実績を持つ女性、社会で活躍する女性、世に認められるわけでなくてもその人の属するコミュニティのなかでは十分に魅力を振り撒いている女性など、いろんなひとがいるけれど。
私の愛したその人には、特別なものは何もない。

いろいろ考えてみたんだけど、本当に何もない。
パソコンやデジタル家電の扱いがうまいわけでもなく、スマートフォンの設定も一人じゃできない。ぜんぶやってあげた。人とのコミュニケーションが上手なわけでもなく、両親とうまくやる器用さを持っているわけでもない。自分の親のことくらい自分でやってほしいが時々自分が仲介しなければならない。数字に強くて家計のやりくりに長けているわけでもなく、料理がうまいわけでもなく、裁縫が得意なわけでもなく、掃除が得意なわけでもなく、家事の才能があるとはお世辞にも言えない。人を笑顔にするような明るい性格でもなく、かといってなんでも黙って受け入れるような寛容さは持ち合わせていない。哲学的なちょっと難しい話は通じないし常に感情的だし忍耐力もないし他人ばかり責める。資格は車の免許くらいしか持ってないし履歴書に書けることと言ったらせいぜいレストランで働いてましたくらいのことしかない。まあ、履歴書に書けないような夜のお仕事の経験ならあるんですよ。私はあんまり聞きたくないから尋ねませんけど。

でもそれでもいい。

私はその人を大切に思うから。だからそれで、いいんだと思う。何故に自分がこの人を大切に思うのかが自分でもわからないけど、でもそれでいいと思う。そういうことにしないと、大事に思うことができない気がするから。

どんなことにも、白黒つけようとする人いるでしょ。他ならぬ家内はそういう人なんだけども、別に大切に思うことの理由をハッキリさせる必要なんてないと思う。それが偽りの想いだと考える人もいるかもしれない。ちゃんと言葉で説明できないなら本当の意味で理解できてるとは言えないとか、言いたくなっちゃう人もいるかもしれない。

でもそれでもいいんだ。

私はその人のこと、大切に想うのだから。その事実だけでは、ダメですか。人の想いに、人の心に、理由がいりますか。

いらないよ。大切なんだ。それでいいじゃないか。

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