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赤信号で一歩踏み出して、怒られた男の子

2019年8月29日木曜日。18時。
目の前で赤信号待ちをしている5歳くらいの男の子の背中が見える。

左隣にはお父さんらしき人。男の子の少し後ろには、お母さんらしき人がいた。

まだ信号は赤だったが、何かの拍子に男の子が一歩を踏み出した。右手から走ってきた車が目の前を走り去り、一瞬時間がとまった。

「何してんの!! 赤でしょ!? 信号見えないの? バカなの?」と、矢継ぎ早にお母さん。

男の子は最初何が起きたか分からない様子だったが、数秒後アイスが溶けるように顔をゆがませる。

「う、う、うわ~ん、わ~~~ん」ぽろぽろと涙を流しながら続ける。

「うっ、うっ、うっ。もう…… お母さんなんて、知らない~」泣きながらポカポカと両手を振り回して、お母さんを叩いている。

少しトーンを下げて、さっきよりゆっくりした口調でお母さんがいった「信号よく見なさいよ」

隣にいたお父さんは一連の出来事のあと「びっくりしたな」と男の子に話しかけた。



お母さんが伝えたかったのは「死なないで」という思いだったと思います。

私もお母さんですが、母にとって最大の恐怖は、わが子が死ぬこと。そして自分が助けられないこと。子どもは小さければ小さいほど弱く、わが子の命を守らねばというプレッシャーは鉛のように重いです。

お父さんの「びっくりしたな」という言葉はあたたかく、本当にありがたい。でもそんな優しい言い方じゃ、この子はどれくらい危険なことをしたのか分かってくれない…!

だから厳しく突き放す。その痛みで危険であることを分かってほしい。そう思って出た言葉ではないでしょうか。


お母さんは「言い過ぎた」と、ちょっと後悔していると思います。

「お母さん、大丈夫、大丈夫! 伝わってるから!」

と、同じく信号待ちをしながら念じ続けた、夏の夕方。


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