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超短編恋愛小説

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2016年6月の記事一覧

noteで知り合った二人

#小説 #超短編小説

いらっしゃいませ。

bar bossaへようこそ。

雨が続く東京にも一日だけ少し赤い満月が夜空に浮かんだ。ストロベリー・ムーンと呼ぶらしい。イチゴの月。名前って本当に大切だ。イチゴの月。ストロベリー・ムーン。何度も呼びたくなってしまう。ストロベリー・ムーン。

そんなイチゴの月が渋谷の夜空に現れた頃、ちょっとシャイな印象のメガネをかけた30代前半くらいの男性がbar b

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岡本さんとタカシくん

#小説 #超短編小説

いらっしゃいませ。

bar bossaへようこそ。

雨も上がり、初夏の爽やかな風が心地よい夜、おだやかな笑顔の岡本さんが来店し、こんな話を始めた。

「林さん、僕、今、好きになった女性がいるんです。その人、ご主人が浮気して別れてて、8才の息子さんのタカシくんって子が1人いるんです。

その彼女、38才なんですけど、見た感じはまだ30才くらいで、でも落ち着きや、時々見せ

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坂野さんの最後の恋

#小説 #超短編小説

いらっしゃいませ。

bar bossaへようこそ。

夜は深まり、店内もほぼ満席になった。あちらの席では男性が彼女に何か耳打ちし、それを聞いた彼女が嬉しそうに笑った。こちらでは女性二人組がまたいつものように「最近は良い男がいない」という話をしている。

そんなざわついた夜、10年ぶりだろうか、以前、渋谷の近所の会社でお勤めだった坂野さんが来店した。

「いらっしゃいませ。

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聡美さんの悩み

#小説 #超短編小説

いらっしゃいませ。

bar bossaへようこそ。

夏が近づくと日が暮れるのが遅い。その日は土曜日で、僕が開店の準備をしていると、年は40歳くらいだろうか、以前はずいぶん綺麗だったんだろうなという印象の女性が入り口で「ちょっと早いですけど良いですか?」と言った。

僕は「どうぞ」と伝えると、彼女は恥ずかしそうにカウンターの一番端の席に座った。

「オレンジジュースをくだ

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