みんながパンに夢中な時は自分だけの煎餅を探す

先日、渋そばの入り口で「駅そば評論家の鈴木弘毅さん絶賛のビリからネギそば」という貼り紙を見かけました。

その鈴木弘毅さん、なんと駅そばを1万杯食べているそうです。

毎日休まずに1杯駅そばを食べたとして、27年かかります。

おそらく1日に2杯、駅そばを食べている日もあるのでしょう。でも最低20年間はずっと毎日食べなきゃ1万杯にはいかないでしょう。

でもそれだけ食べたらかなり説得力がありますよね。20年間ほとんど毎日駅そばだけを食べ続けているって聞いたら、「いやあ、あの人の駅そば知識には負けるよ」ってみんな思いそうです。

そういう一つのことだけをずっとコツコツとやり続けられる人って本当に強いですよね。

たまに本当に「音楽」が好きな人とか「食」が好きな人とかで、人生すべてがそれだけって感じで、のめり込み方がハンパないと「うわあ、負けるなあ」ってよく思います。

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よく言われることに、「ネタ集めるのって大変ですよね。どうしてます?」ってものがあります。

僕は「街で現場で拾う」です。たまにネットの中や本の中ということもありますが、基本的には街です。

例えば渋谷を歩いていても、しょっちゅうキョロキョロしながら、妻に「あのご夫婦見て見て。なんか全く同じ顔で同じ体型で同じ服装だよね」とかって言うので、妻に「あなたはキョロキョロし過ぎ。今度からキョロ吉って呼ぶよ!」って言われています。

でも、そういう街ならではの情報って「僕ならでは」って思うんです。

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よく思うことがあって、もし僕が研究者になっていたら、絶対に「フィールドワーク」をやってたと思います。

「うわ、この民族ってこんな求愛の仕方をするんだ」とか「なるほど。この村では男性はこういうことをすると他人より偉いことになってるんだ」とか、そういうのを実地で現場で発見したり分析したりするのが得意分野だっただろうなと思います。

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で、たまに「林さん、ベッキーのことは書かないの?」とか「東京カレンダーのことの林さんの意見が読みたい」とかって言われるのですが、僕はそういうところに切り込んでも武田砂鉄さんやナンシー関には勝てないんです。

そういう「大ネタ」って何千人もの人がテーマにして書くから、僕くらいの才能では「上の方」に行けないんです。

だから僕は「街に出て誰も気付いてないことを拾う」しかないんです。

先日も、カウンターで悪い男性から「カフェや居酒屋で働いている可愛い女性の誘い方」というのを教えてもらって、「いやあ、バーテンダーやってて良かった」と痛感しました。

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冒頭の「駅そばを1万杯食べた人」も、ある瞬間に「俺は本格的な蕎麦屋さんを回るのよりも駅そばにこだわった方が良いなあ」って気付いたんだと思います。

「自分が何が比較的得意で、何だと誰も手を出していなくて、何だとみんなが面白がってくれるか」っていうのを考えるのも一つの生き残る手のような気がします。

もちろん「書くこと」だけじゃなく、「お店」でも「サービス」でも他の「コンテンツ」でも同じですよね。

みんながパンを作って「今はパン」って時に、その中で一番目立つのって難しいけど、地道に煎餅にひたすらこだわるとそこには必ずマーケットはあります。

それで僕は街に出て、キョロキョロして、妻に「キョロ吉」と呼ばれているというわけです。

みんながパンに夢中な時は自分だけの煎餅を探してみるのもひとつの手ですよね。

#コラム

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