一生のうち一回しか恋は出来ない国の話

その国では「恋は一生に一回しか出来ない」という決まりになっていました。

そしてあなたもご存知のように、誰かの一回だけの恋が両思いになることなんてめったになく、ほとんどの人たちが片思いの恋をしました。

小さい頃からお父さんやお母さん、そして学校でも「簡単に恋に落ちてはいけないよ」と教えたのですが、それでもみんな思春期になったり、大人の入り口に立ったりすると、誰かに恋をしてしまい、そしてほとんどが片思いで終わってしまいました。

そしてその国の人たちは、恋は一生のうちにたった一回だったので、それが片思いの恋であっても、自分の恋をいとおしく思い、大切にしました。

その国のほとんどの人たちにとって「恋とは片思いのことであり、その片思いの恋を死ぬまでずっと大切にすること」だったのです。

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それでもその国の人たちは人口が減り、国が滅んでしまうのを避けるため、違う人のことを恋している片思い同士の男女を無理矢理結婚させました。

国民のほとんどが両思いの結婚ではなく、他に片思いの恋をしているのに結婚という状態だったので、みんなは「結婚とは家庭とはそういうものだ」と、それを納得しました。

片思い同士で結婚した夫婦は「あなたはどんな人に恋をしているの?」と新婚旅行や新しいマンションの食卓で話しあいました。

そして、PCやスマートフォンを開けて、片思いの相手の写真や、SNSなんかを見せて、「僕が恋しているのはこんな女性なんだ」「私が恋している男性はこんなに素敵なの」と、お互いの片思いの相手を自慢しあいました。

そして二人は「片思いってつらいね」「僕らの子供にはこんなつらい恋はさせたくないね」と言って、冷たいベッドの上でそっと抱き合いました。

#超短編小説

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