どちらの子供?

先日、20代半ばでふっくらとした笑顔が魅力的な女性が来店し、洋なしのカクテルを飲みながらこんな話を始めた。

「林さん、私、最近、妊娠がわかったんです。

でも、相手が二人の可能性があって、どちらかわからないんです。一人は入社してからずっと好きだった人でやっと最近デートもして、これから付き合いたいなって思ってた人で、もう一人は学生時代から飲み仲間でついつい酔った勢いで寝てしまった人なんです」

「両方とも避妊はしたんですか?」

「したはずなんです。でも妊娠してるし、どうだったかなあって自信がなくて」

「二人には伝えたんですか?」

「伝えました。

ずっと好きで付き合いたいなあって思ってた高田さんはこう答えました。

『こういうことを言う男って本当にヒドいとはわかっているんだけど、僕、ちゃんとコンドームをつけたんだよね。本当にヒドいことを聞くんだけど、僕以外に可能性のある男性ってもしかしていたりする?』

酔った勢いで寝てしまった小林さんはこう答えました。

『そうかあ。できちゃったかあ。コンドームってあてにならないんだなあ。じゃあ結婚しようか』」

「誰の子供かわからないというのは二人には伝えたんですか?」

「はい。これは正直に伝えようと思って、『実はもう一人可能性がある人がいる』と二人に言いました。

すると高田さんは『本当に失礼なんだけど、産んでしまってから、どちらかに責任をとってって言うつもりなの? もし僕の子供だったとして僕が結婚したり養育費を払ったりするのが筋だと本当に思う?』と言いました。

そして小林さんに言うと、こう答えたんです。

『そうかあ。俺の他にも男がいたんだ。悔しいなあ。それであの博美と寝た夜の次の朝、なんか博美は冷たかったんだ。俺、正直に言うとずっとずっと博美のことが好きだったんだけど、博美、全然俺に対してそんな感じじゃないし、俺、ただの友達で良いからずっと一緒にいたいなあって思ってたんだ。

でも、あの日、博美がすごく酔っぱらって寂しいって言うから俺も酔った勢いで誘っちゃって。

博美、お願いだから俺と結婚してほしい。そして産まれてきた子供の血液検査はやめよう。俺、怖いもん。二人の子供だよ。一緒になろう』」

「そしてどうしたんですか?」

「どうしたと思いますか?」

「うーん、やっぱり博美さんのことを愛してくれている小林さんを選んだんですよね」

「違います。子供はおろしてしまいました」

「そうなんですか」

「これで小林さんと結婚しても本当に幸せになれるかどうか自信がなかったし。大体、小林さんとは酔った勢いだったし、高田さんの言うこともすごく正しいと思いました。

やっぱり私、高田さんみたいな人が好きなんです。

私、今までいつもいつも自分の人生は流された方を選んでいたなってやっと気がつきました。

簡単に酔った勢いでセックスをしてしまった私が悪いんだし、全部、流れにおされて結婚して、なんとなく疑惑が残ったままだと、子供も小林さんも私も幸せにはなれないはずです。

これからは全部、私が自分の行動に責任を持って男性を選ぼうと決めました」

「なるほど」

「林さん、何か私の新しい恋のためのお酒をいただけますか」

そう言って、彼女は洋なしのカクテルを飲み干した。

#小説 #超短編小説

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