西崎憲さんに「才能」について聞きました 前編

僕が選曲したCD『Happiness Played in the Bar -バーで聴く幸せ- Compiled by bar bossa』の発売記念イベントで作家/翻訳家/作曲家の西崎憲さんをゲストに迎え、「才能」について聞いてみました(11月27日渋谷HMV&BOOKS)。

1973年に青森から単身でミュージシャンになろうと東京にやってきた西崎さんはどんな音楽活動をしていたのか

林 西崎さんの年表を作ってましたら、18才で東京に出てきたのが1973年で、まだパンクも始まってないんですね。どんな音楽をやってたんですか?

西崎 ハードロックかな。ツェッペリンとかの。元々はPP&Mとかのフォークとか、その後はビートルズとか聞いて。BBキングとかも聞いて。

林 高校生の時はバンドはやってたんですか?

西崎 小さいバンドをやってました。二人でアコースティックで。

林 フォークっぽい感じで、日本語ですか?

西崎 日本語でした。

林 そして東京に出てミュージシャンになろうって思ったんですか?

西崎 なんかね。バンドやろうって思った(笑)。一人暮らしでアルバイトとかやって。

林 音楽仲間とはどうやって知り合ったんですか? ライブハウスで働いたりとかしたんでしょうか?

西崎 昔、新宿にタローという歴史あるジャズ喫茶があってね、そこでしばらくコーヒー出したりとかしてた。

林 昔だと、雑誌とか楽器店とかで「バンドメンバー募集」とかってありましたが、そういう感じですか?

西崎 そうです。そういう感じで3つか4つバンドをやったのかな。

林 ハードロックですか?

西崎 いや、もうその頃はね、ポップなものが良いなと思ってて、すごくポップなバンドをやったかな。

林 その頃だとシュガーベイブとかはっぴいえんどとかですが、チェックしてましたか?

西崎 はっぴいえんどは好きでした。シュガーベイブは意外とそうでもなかった。

林 やっぱりはっぴいえんどの日本語はすごいと思いましたか?

西崎 うん。やっぱり松本(隆)さんのあれは初めてだったんで、その意義はすごいなと思った。

林 西崎さんと同世代の人からよく聞くのが、その当時、ジェイムス・テイラーとかキャロル・キングがいて、同じような感覚ではっぴいえんどやユーミンが日本にもやっと出てきて、良いなって思ったって。

西崎 そうですね。シンガーソングライターにはどっぷりはまりました。なんか細野晴臣さんも歌い方にすごく悩んで、ジェイムス・テイラーの歌い方を取り入れて成功したっていうのを聞いた。

林 西崎さんはそういうバンドをやりながら、芽は出ず?

西崎 うーん、そうねえ。バンドでは結構近いところまで行ったんです。例えば槙原さんと同じコンテストに出て、優勝、副賞みたいなとか。あとチャラさんと同じディレクターに声をかけてもらったりしたんだけど、最後のところがだめで(笑)。それから一緒にバンドやってた人がおニャン子クラブのディレクターになって、そのつてでおニャン子クラブの曲をかくようになった。

本当は文学を書きたいのに、ライターをやっていると才能が擦り切れるという説は本当なのか

林 音楽で食べていきたい場合、例えばこういうCD屋やライブハウスでバイトしたり、あるいは音楽ライターをやったりして、周辺からちょっとづつ近づいていくという方式があると思うのですが、それはやらなかったんですか?

西崎 音楽ライターをやりながら、ミュージシャンになるっていうのはあまりないんじゃないかな。メーカーで勤めてミュージシャンという人もいるにはいるけど、どっちかというとそこまでうまくいくって感じじゃない。

林 話はずれるんですけど、「作家になりたいんだけど、とりあえずライターをやる」っていう人がいますよね。この商業ライターをずっとやって、依頼を受けた原稿をひたすら書き続けていると自分の中の文学への思いみたいな感性が擦り切れてしまって、作家にはなれないという説を聞いたんですけど、どう思いますか?

西崎 擦り切れるかな。結局、作家は自分の好みで好きなことを書くのだけど、ライターの場合は人の好みで書かなきゃいけない。それでボツにされたりするから。それはメンタル的にはすごく厳しいと思う。人のために書くことを10年くらいやったらもう復帰は出来ないんじゃないかな。

林 音楽もそういうことってありますか?

西崎 音楽をやめたのも、ほとんど歌謡界がいやになったから(笑)。3、4曲アイドルをやって、それから声優さんのアルバムとか作ったんだけど、結局そこから逃げ出したっていう負い目がずっとあって。今年、久々に歌謡曲の作曲の仕事が来たんだけど、それが10回書き直しがあって、ボツになった。

林 もうイヤになった。

西崎 もう業界自体の問題なんですよ。おれのところに来るまでに40人の作曲家に持って行って、41人目が自分という。

林 へええ。

西崎 ディレクターがもう曲をすごく直していくんです。ここは高くした方が良いとか言って、直して10テイクくらい作って、そして連絡がなくなるという。そして「どうなりました?」って連絡をすると「ブームの宮沢さんに決まった」って言われるという。はははは。そういうものです。それで、41人が全員ただ働きなんです。そして飲み会に3回か4回かつきあって。ある種の地獄です。

林 なるほど。

西崎 で、一番良いのは自分でやることかなと。

売れるものを作る才能について、そして才能とクリエイトはちょっと違う

林 アイドルの話で聞きたかったことがありまして。リトル・クリーチャーズの鈴木正人さんっていう人がいるんですね。僕、すごく才能がある人だと思っているのですが、中山美穂やUAやボニーピンクをやってるんですけど、一度、「歌謡曲ですごくヒットしそうな曲ってどうして書かないんですか? そういうの簡単じゃないんですか?」って聞いてみたんです。そしたら彼が「いや、もう自分はクラシックとかジャズとか洋楽ばっかり聴いてきたじゃない。それで歌謡曲のヒット曲を作るのってすごく難しいんだよ」って言ってたんです。そうなんですか?

西崎 とてつもなく難しいんですよ。自分が敗北感があったのは、それなんです。おれ、書けなかったじゃないかって。すごく難しいことが出来なかったんじゃないかっていう敗北感がずっと20年、30年とあるんです。才能が足りなかったんじゃないかって。

林 難しいんですか?

西崎 難しい。こうやって転調して、サビが来てって、頭で作っていって、その後、何かが入らない。魂が入らない。

林 すごくキャッチーな曲って難しいんですか?

西崎 もうひとつの問題はそのキャッチーな曲とディレクターのキャッチーさとあうかどうか。ディレクターが指定して、「じゃあここは八分で刻んで」とかって言われて直してもキャッチーにならない。

林 それはキャッチーは偶然でしかないってことですか?

西崎 そう。そしてその書き手の勢いみたいなものが出てないとだめかな。例えば平山さんっていう人のかくモモクロの曲を聞いたんだけど、すごいですよ。「日本製の黒人音楽が作りたい」って言ってる人で。圧縮された音で、メロディが音階とかじゃなくて。で、その曲とかは「なんか特別な曲だな」って聞いて思う。だからそういう説得力のある曲をつくらないといけない。おれ、そういう曲が出来たの、おにゃんこクラブで2曲だけですから。それで終わってしまった。ははは。

林 それって「才能」なんですかね。僕、最近、才能についてすごく考えてまして。

西崎 はははは。

林 僕、才能についてみんなから聞いた話を集めてまして。例えばジョン・レノンとかポール・マッカートニーとかっていったすごい天才は別として、他の人の才能はみんなだいたい同じらしいんです。同じなんだけど、ちょっとしたタイミングとか、コミュニケーション能力とか、ちょっとした差でしかないって聞いたんですけど、どうですか?

西崎 才能って細分化しないとと思う。大ざっぱな話じゃないんじゃないかな。普通の人は「才能がある」っていうと「売れているものを作る才能」のことだと思っている。でも「売れているものを作る才能」が全てかというとそういうわけではない。例えばヘンリー・ダーガーとか、誰も見てくれないのに何千枚の裸の少女の絵を描いていて、それが価値がある。もちろん売れているものと才能を結びつけるのは良いんだけど、でも才能とクリエイトというのはちょっと違うと思う。例えばサザンオールスターズさんとか槙原さんとかあのくらいの立ち方が商業的には一番いいんじゃないかな。フランク・ザッパとか売上げ的はあんまりじゃないですか。

林 ああ、大衆に受けるかどうかっていう問題ですかね。大衆に受けることが才能があると僕は勘違いしている?

西崎 例えばおれ、すごいキャッチーな曲を作っているって思って、出しても「うーん」って思われちゃう。「弱い」とか「変わりすぎている」とか言われて。じゃあおれに才能がないのかって言うと、またそれも違うと思う。おれは売れない曲を作る才能がある(笑)。

翻訳家になるきっかけは好きなことを続けただけ

林 1973年に東京に出てきて、1985年に作曲家デビューするまでの間、ずっと音楽家志望のままだったんですか?

西崎 いや、途中で翻訳をやり始めてたかな。

林 (会場に向かって)ここでこの話を聞いているみなさんに、お伝えしたいのですが、西崎さん、外国に行ったこともないし、大学にも行ってないですし、その当時、think の過去形が thought というのも知らなかったそうです。

(西崎さんに向き直して)さて、ある日、突然、「翻訳家になろう」って思ったんですか?

西崎 うーん、翻訳はね。ある作家の全作品が訳されているわけじゃないんで。ある程度読んだらなくなっちゃうんです。例えばA・E・コッパードとか、短編が3つか4つしか訳されてないんですよ。でもおれ、ものすごく読みたくて。それじゃあ英語で読むしかないなと。で、すごく気が長いんで。トイレとか行くと、文法書を読むわけ。山手線とかに乗ると、文法書を見ながら読んで、寝る前も読んで。この恐ろしいほどの気の長さが幸いしたのかも。ははは。

林 すごいですね。

西崎 うーん、こういうのが良いのかどうかっていうのはわからなくて。無駄かどうかってわからないし。本当に無駄になるかもしれないし、でも気長にやっていくしかなくて、好きだからやるっていうのが良いんじゃないかな。

林 それなんでしょうねえ。

西崎 だって林さんだってそうでしょ。ブラジルに行ったりして。

林 ああ、そうですね。夢中になってましたからね。好きだから飛びついて真剣にやってしまうっていうのが良いんでしょうね。

西崎 そういう心性を持っているっていうのも才能かなって思う。意外に「これやっても無駄だ」って言う人が多いような気がする。それが全然わからない。

林 ああ、それ今、話題ですね。最近の若い人は「そこにそれだけ時間やコストをかけても結果が戻ってこないのならやる必要がない」って考えがちらしいですね。

その翻訳の本を出すきっかけは?

西崎 藤原義也さんっていうすごく有名な編集者の方がいて、日本で2番目に翻訳に対して厳しいという人で、なんで2番目なのかよくわからないけど(笑)、そういうキャッチコピーのついている人で、まあおれが言ってるんだけど。その人がちょうど国書刊行会に入って間もないところで、ちょうどそこで自分の企画を上に出して、自分の本が出始めた頃だった。

それでその藤原さんに友達を介して、「私はこういうアンソロジーを出したい」って手紙を書いた。で、会ってくれることになって、ここでおれ、すごくばかなんだけど、普通スーツとか着るでしょ。でもその時よれよれのTシャツとジーンズで行って、いま考えるとまずいなあって。

林 それって30代ですか?

西崎 20代の終わり。

林 ああ、20代の終わりだったらそれで行っちゃいますね。

西崎 で、それ、3冊のアンソロジーなんだけど、収録作を130作くらいリストを作って、「この中から選びたいんです」って言って、でも全部読んでなかったんだけど。

林 すごい! 若い時ってそういうはったりって必要ですよね。

西崎 で、サンプルの翻訳を作って、それを気に入ってもらえた。いまになって藤原さんと話して、「すごい人が来た」って思ってもらえたらしくて。

林 もしかしてはったりとかTシャツが良かったのかもしれないですね。

西崎 ははは。それが『怪奇小説の世紀』3冊、国書刊行会から出たんです。

林 じゃあやっぱり翻訳家になりたいというのではなくて、ミュージシャン志望でやりながら、本が読みたくて英語で読んだだけなんですね。だったら翻訳してみようかなって感じなんですね。

西崎 そうです。すごく単純でこの人の本が読みたいと思ってて、じゃあ訳したら他の人もその本が読めるから、みんな喜ぶよなあと思っただけなんです。

林 いや、というのは若者でよくありがちな、18ぐらいのときに「ただ有名になりたい」というのが目的で、役者になろうとか作家になろうとかっていう人がいると思うのですが、あれ、だいたいダメなんですよね。それよりも、ただただ好きなことを夢中になってやっていくと、たまたま翻訳家になれたって方がうまくいくんです。

西崎さんの岡村靖幸力

西崎 なんか「人に好きになってもらう」とか「人と仲良くなる」とかっていうのでずっとやってきたかなって思う。

林 西崎さん、人をたらしこむんですよね。

西崎 すごい言葉だね。

林 いや、僕、人に好きになってもらう力っていうのが、成功するひとつの才能だと思っていまして。この人、応援したいなとかって思わせる能力のことを僕は岡村靖幸力って呼んでまして。「私が応援しなきゃ」って思わせる力っていうんでしょうか。

西崎 ああ、岡村靖幸、好きな人多いよねえ。わかんないんだよね。女性が好きなのかなあ。

林 いや、男性も好きですよ。というか、西崎さんにもその岡村靖幸力があるんです。真摯で愚直で何かを追い求めてて、カッコ悪いんだけど、それを応援したくなるっていう感じといいますか、西崎さんにもそれがあるんですよね。

西崎 カッコ悪いんだ(笑)。でもカッコ悪いっていうのが良いのかもしれない。無我夢中なのってカッコ悪いから。

撮影 筒井奈々

後編はこちらです→ https://note.mu/bar_bossa/n/nd5b6d34fa28f

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この記事は投げ銭制です。この後、オマケで僕のちょっとした個人的なことをすごく短く書いています(大したこと書いてません)。今日は「昨日、春風亭百栄さんと」です。

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西崎憲さんに「才能」について聞きました 前編

林伸次

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