ロンドンのサンドイッチ屋の思い出

そのサンドイッチ屋はイギリスのロンドンにあった。

当時、私が通っていた英語学校のすぐ隣にあり、広さは20坪くらいだったと思う。店内に入ったすぐのところにショーケースがあり、中にツナと黒オリーブをあえたものや、エビとゆで卵をあえたものといったサンドイッチの具材があった。

お客はそこでサンドイッチを注文して、テイクアウトすることも出来たし、一緒にコーヒーを注文して店内で座って食べることも出来た。

           ※

二十歳の頃、大学を中退して、借りていた部屋も全部引き払って、ロンドンに行くことにした。

当時、CD屋でバイトしていた私は、エヴリシング・バット・ザ・ガールやアズテック・カメラといったイギリス発のネオアコースティック・ムーブメントが大好きで、とりあえずロンドンに行って、現地でロンドンの音楽関係の友人をたくさんつくって、できればそのままロンドンに住み着いて音楽の仕事をしてみようと考えた。

そして昼も夜もアルバイトをして、50万円くらい貯金してロンドンに渡った。

ロンドンについて、安いB&B(イギリスの安ホテル)に居をかまえて、さっそくある有名なDJバーに行ってみた。

そしてそのDJバーのカウンターの中のスタッフ達にすごく勇気を出して、下手な英語で「ワタシ、コノオンガクガ、ダイスキデス」と言ってみた。

するとそのカウンターの中のスッタフ達は全く聞こえていないフリをして私のことを無視した。

まだ若くてナイーブだった私はすぐに店を出て、地下鉄に乗って、B&Bに帰った。

そして次の日、そろそろ洗濯でもしようと思い、B&Bの近くのコインランドリーに行った。

イギリスのコインランドリーの洗濯機は日本のとは違い、取り出し口が正面についたタイプのものだった。それで、どうやって使うんだろうと思い、近くにいたおばあさん二人組に「ツカイカタヲ、オシエテクダサイ」と言ってみた。

すると一人のおばあさんが「どこから来たの?」と言うので「ジャパン」と答えると、「すごく遠いところね。あなたの国にはこういうのはないと思うけど、これは自動で服を洗う機械なの」と説明し始めた。

それからも何度か街でイヤなことが重なり、「そうか。日本人である自分はここでは人種差別をされているんだ」とようやく気がついた。

『地球の歩き方』を読むと、みんな楽しい体験や素敵なお店のことばかり書いてあったけど、どこにも「日本人は差別されます」とは書いていなかった。

そして初めての憧れのロンドンでそんな経験をして、私は今すぐにでも日本に帰りたくなった。

ちなみにbar bossaを開店してすぐに常連になったブラジル音楽好きのイギリス人がいて、その時の経験のことを話したら、「日本人だって僕たち外国人のことを差別するよ」と言った。確かにそうだと思った。

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その後、私はあまりにも悔しくて、まず英語を上手くなって、友達を作ろうと決め、英語学校に通うことにした。

英語学校では韓国人女性二人組と仲良くなった。

そしてある日のこと。授業が終わった後に「お腹がすいたから隣のサンドイッチ屋に行ってみよう」と私が提案して、3人で行ってみた。

そしてそのサンドイッチ屋に入ると、ショーケースの向こうの金髪の天パで眼鏡の小柄な男性店員に「ホワイトorブラウン?」と言われた。

私は意味がわからずに固まっていると、その店員は英語学校が隣だから私のような外国人に慣れていたのだろう、右手に白いパンを、左手に茶色いパンを持って、ゆっくりと「ホワーイト・OR・ブラーウン?」と発音してくれた。

それで私が「ホワイト、プリーズ」と答えると、「イエス!」と言って、またゆっくりとした発音で、ショーケースの中の今日のサンドイッチの具材を端から説明してくれた。

途中で私が「パードゥン?」と言うと、彼が「これは鶏だよ。こういう奴しらない?」と言って、鶏が鳴く物まねをして私たちを笑わせてくれた。

それで私とその韓国人女性二人組はそのお店のことが大好きになり、ほぼ毎回、授業の後はそのサンドイッチ屋に通うことになった。

私たちが店内で、同じようなアジア人の顔をしているのに、下手くそな英語で話しているのを見て、周りのお客さん達はチラチラと怪訝そうに見たが、そのサンドイッチ屋の店員はそういう状況に慣れていたのだろう、ニコニコと対応してくれた。

そこのコーヒーが日本では飲んだことのないタイプの味がしたので、一度、おもいきって「コーヒーオイシイデスネ。ナニヲツカッテイルンデスカ?」とその店員の彼に質問したことがあった。

すると彼は厨房からネスカフェの大きい瓶を持ってきて、私に見せて「ウインク」した。

そして韓国人女性二人組に「シンジー!!」とおもいっきり笑われた。

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「イギリスには美味しいものがない」というのは定説のように語られる。

確かにどのお店もそんなに美味しいとは感じなかったのだが、そのサンドイッチ屋だけは本当に美味しかった。

でもあんなに美味しく感じたのは、あのお店の店員が本当に私たちに親切だったからなのかも知れない、と今になって思う。

               ※

先日、渋谷の富士そばでお蕎麦を食べていたときのこと。韓国人の若いカップルが店内に入ってきた。四苦八苦して、やっと自動券売機で食券を買ったあと、カウンターの方に行って、その食券を渡した。

するとカウンターの中の店員のおじさんが「お蕎麦とうどん、どちらにされますか?」といつものように質問すると、その韓国人カップルはすごく困った表情で「スイマセン。ワカリマセン」と答えた。

私は立ち上がって間に入ろうかなと身構えていたら、その店員のおじさんが右手にうどんが入ったボウルを、左手に蕎麦が入ったボウルを二人の前に見せて「フイッチ?」と言った。

すると韓国人カップルは表情を明るくさせて、蕎麦の方を指さした。

たぶん彼らは韓国に帰って「渋谷に富士そばというすごく美味しい蕎麦屋があるから行った方が良いよ」と友人に伝えるだろうなと、私は思った。

#エッセイ

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林伸次

渋谷でボサノヴァとワインのバーをやってます。http://www.barbossa.com/  『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』https://goo.gl/u2Guu1 韓国人ジノンさんとのブログhttps://goo.gl/B9MH6n

コメント10件

さまーさん 本当に、現地の人との出会いでその国の印象って違いますね!
そうなんです…cakes & 林さんファンとして、地中海の最東部から更新を心待ちにしています!
楽しく読みました。素晴らしい出会いあったんですね。
ロンドンのBank駅の近くで働いていた頃、
教会裏のサンドイッチ屋で
milkteaとムサカ(三角の肉詰めの揚げパン)
をよく注文してました。
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