「もし」を考えることはそのことの本質的なことを考えること、と大村雅朗の本がすごく面白かったこと

あなたは今までの人生の中で「もし、あの時、違う道を選んでいたら、自分の人生はどうなっていただろう」って考えることってありますか?

例えば、「あの時、あの人と結婚していたら」とか「あの時、あの人に出会わなかったら」とか、そういうことって人生にありますよね。

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一方で「歴史に"IF"はない」っていうのもよく言われます。

でも、「IF」って、考えてみますよね。

「もし日本が3年前に降伏していたらどうなっていただろう」とか「江戸幕府が続いていたらどうなっていただろう」とか、色々と想像してみると、逆に「太平洋戦争って何だったんだろう」とか「明治維新って何だったんだろう」っていう本質的なことが見えてきます。

同様に「あの日、雨が降って、あの人に出会えなかったら」っていうのを想像するのも、「自分の人生」を見つめ直すのに「有効」なような気がします。

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大村雅朗という46才の若さで亡くなった作編曲家はご存じですか?

松田聖子の『スイート・メモリーズ』の作編曲をしたり、大沢誉志幸の『そして僕は途方に暮れる』や渡辺美里の『マイ・レボリューション』の編曲をしている人です。

この『大村雅朗の軌跡』という本が出ていて、先日読み終わったのですが、これがすごい名著なんです。→ https://goo.gl/egPaSE

こういう故人とかつて交流のあった人たちにインタビューをして、その故人の素顔にせまるというスタイルの本、すごくたくさんあるかと思うのですが、その他の本と、この本とで大きな違いがあるんです。

この本は、全ての人たちに「もし大村雅朗が今生きていたらどんな音楽活動をしていたと思いますか?」という質問をしているんです。

例えばジョン・レノンの本を作ったとして、ポールや死ぬ前のジョージやリンゴやオノ・ヨーコやあるいは周りの他のジョンのかつての友人なんかにインタビューがとれたとしますよね。

その彼らに「ジョン・レノンが今生きてたらどういう活動をしてたと思いますか?」って質問すると、どういう答えが戻ってくるか想像できますか?

たぶん人それぞれ、みんなが違うことを答えるはずなんです。

例えば「すごくITや、今ならAIに興味を持っていて色々と試みていたと思う」とか「政治活動をしていたと思う。今ならイスラムとの対話の代表になっていると思う」とか「映画を作っているんじゃないかなあ」とか「イギリスの田舎に引っ込んで3年に1枚くらいプライベートな雰囲気のアルバムを作っているんじゃないかな」とかって感じで、それぞれが違うことを答えるはずなんです。

そしてその「たくさんのジョンと近かった人に、『もし』を聞くことってジョンの本質的なところが浮かび上がってくる」と思うんです。

そしてこの本では「もし大村雅朗が生きていたら」を質問しているのですが、やっぱり全員が全く違う答えを返していて、これがすごく興味深いんです。

例えば「今の音楽業界だとすごく苦しむから、どこかで辞めているかもしれない」とか、「クインシー・ジョーンズのようなプロデューサーになってると思う」とか、「宇多田ヒカルさんと組んでいたら面白いかな」とか、「坂本龍一みたいな位置になっていればいいかな」とか「和太鼓などをフィーチャーした音楽をやっていると思う」とか「映画音楽とかやってるんじゃないかな」とか「音楽は辞めてスペインあたりでいそうだよね」といった感じです。

これ、どうしてこういう「もし生きてたら」の答えがバラバラになるかというと、それぞれの人たちに大して、彼が「違う顔」を見せていたからだと思うんです。

人って、当然ですが、ひとつだけの顔ではなくて、色んな面を持っていて、違う人と会うときは違う顔を見せるものですよね。

こういう本の面白さって、「え? 彼にはそういう意外な面があったんだ」っていう発見があって、大村雅朗のイメージがより一層深みが出て、魅力的になってくるのが「醍醐味」だと思うのですが、「今彼が生きてたら?」を質問することによって、それに大成功しているんです。

ちなみに八神純子と、おそらく恋愛的感情ですれ違っているんですね。

そして八神純子が「大村さん、自分の本を作ってくれてるって知ったら照れまくると思いますね」って答えていまして、この言葉を本の最初の方に持ってくることで、読者全員が「大村雅朗に対してすごく好印象を持つ」という効果が生まれているんです。

まあ企画から、取材力から、色んな大物が喜んで参加してくれているところから、配置や編集のしかたまで、とにかく素晴らしい本に仕上がってまして、僕、大村雅朗について、全く予備知識はなかったのですが、完全なファンになってしまいました。

本当は大沢誉志幸や小室哲哉や渡辺美里のことも書きたいのですが、そちらの方は是非、本を手にとって読んでみて下さい。とにかく、「へええ、そうだったんだ」って思うことばかりです(まあでもこれは僕がリアルタイムで体験しているからかも…)。

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僕、ノンフィクションを書いてみたいなあ、とか、人にインタビューをするのって面白いなあとか、色々と考えているのですが、この本は本当にひとつ飛び抜けて素晴らしいです。

「今、彼が生きていたらどういう活動をしていると思いますか?」という、たったひとつの質問を全員にすることで、こんなに人によって違いが出てきて、故人の印象に深みが出てくるなんて知りませんでした。

いつかこの手法、真似しようと思いました。

#コラム

色んな質問に答えた本が出来ました。『ちょっと困っている貴女へ バーのマスターからの47の返信』 https://goo.gl/dZ32IW 立ち読みできます!
https://goo.gl/Q6mRvL

bar bossaに行ってみたいと思ってくれている方に「bar bossaってこんなお店です」という文章を書きました。→ https://note.mu/bar_bossa/n/n1fd988c2dfeb

この記事は投げ銭制です。この後、オマケで僕のちょっとした個人的なことをすごく短く書いています(大したこと書いてません)。今日は「昨日、初めて」です。

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「もし」を考えることはそのことの本質的なことを考えること、と大村雅朗の本がすごく面白かったこと

林伸次

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林伸次

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