バー・ムーン・ビーチ 指輪をなくした彼女

はにかんだ笑顔が素敵な30歳くらいの男性が来店した。

彼は「この間、子供が生まれたんで、シャンパーニュ、いただけますか」と言った。

「そうですか。おめでとうございます」と言いながら、私はブルーノ・パイヤールのシャンパーニュを開け、彼の前に出した。

「ありがとうございます」と言って、シャンパーニュに口をつけると、彼はこんな風に話し始めた。

「彼女との初デートは時間旅行だったんです。

もちろん時間旅行は結構な金額がかかるんですけど、彼女が『一度、世界が作られているところを見てみたいな』と言ったからちょっと奮発したというわけです。

でもデートは時間旅行にして大正解でした。

何もない乾いた土地に大量の水を流し込んで、海を生み出している時は二人で感動してつい涙が出ましたし、空に雲を作っている時には彼女もちょっと手伝ったりして可愛い雲をたくさん生み出しました。

世界は夜を作る頃になってきたので、そろそろ元の世界に帰ろうかと話していると、彼女が指輪をなくしたことに気がつきました。

『あの雲を作っているときに空に置いて来ちゃったのかなあ』と彼女は言って一度空に戻ったんですけど空はもうすっかり夜になっていて小さな指輪を探すのは到底不可能になってました。

それで一応、雲を一緒に作った天使に『こんな指輪なんだけど』と伝えたんですけど、ほとんどあきらめて帰ることになりました。

帰りのタイムマシンの中で彼女から『お婆ちゃんのお婆ちゃんのお婆ちゃんからずっと女の子だけに代々受け継がれてきた指輪だったんだ』と教えてもらいました。

その後、僕らは結婚して彼女が赤ちゃんを産みました。

赤ちゃんは可愛い女の子で、お医者さんが『あれ、この子、何か握ってますよ』と言いました。

そしてお医者さんが手を開かせるとそこには彼女の指輪がありました。たぶん、天使があの後、見つけてくれて、赤ちゃんを使って僕たちに届けてくれたんです」

そういうと、彼はシャンパーニュを飲み干し、「マスターもシャンパーニュ、いかがですか?」と言い、私たちは天使に乾杯をした。

#小説

bar bossaに行ってみたいと思ってくれている方に「bar bossaってこんなお店です」という文章を書きました。 

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バー・ムーン・ビーチ 指輪をなくした彼女

林伸次

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林伸次

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