フジモトマサルさんの思い出

フジモトマサルさんが亡くなられましたね。

僕がフジモトマサルさんの作品に出会ったのはブック・ファーストがまだ東急本店の向かい側にあった頃、平積みになった文庫本の『長めのいい部屋』 http://goo.gl/GWIUCW をなんとなく手に取ったのがきっかけでした。

この作品、未読の方は是非、読んでいただきたいのですが、名作なんです。

「擬人化されたシロクマや羊がちょっとした事件をおこす」という、ただそれだけのマンガなのですが、登場人物を動物にするというそのズレだけで、どういうわけだか世界がすごくおかしくて面白くて可愛くて、そして幸せな気持ちで満たされるんです。

もちろん画力の素晴らしさや、シロクマがペンギンを好きになるという不思議な設定すべてが考えつくされているから僕がどんどんフジモトマサル・ワールドに引き込まれるのだとは思うのですが、そういう分析なんかは越えた「すごく閉じた小さな世界観」に僕は共鳴してしまったんだと思います。

そうなんです。フジモトマサルさんが描く世界はすごく「閉じている」んです。

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「フジモトマサルさんが好きだ好きだ」ってずっと言ってたら、西崎憲さんがbar bossaに連れてきてくれたことがありました。

すごくお洒落な方で、バーでのお酒の飲み方もとびっきりカッコいい方でした。

もうとにかくフジモトマサルさんの作品が好きだったので、おもいきって「bar bossaで原画展をやっていただけませんか?」と提案してしまったことがあります。

すごく好意的なお返事をいただいたのですが、作品はPCを使っているので、いわゆる「原画」と呼べるものがないというお話で、企画は頓挫してしまいました。

「何か上手くやれる方法があれば良いですね」なんてお話はしていただいていたのですが、話は止まったままでした。

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実は僕の自宅とフジモトマサルさんの自宅がすごく近所だと判明して驚いたことがありました。

「これは絶対にすれ違ってますね」なんてお話をしたのですが、それから一度だけ道ですれ違ったことがありました。

僕は車の種類がわからないのでうまく説明出来ないのですが、ちょっと四角くて小さい車体で布の屋根がついている車をお洒落に乗りこなしている横を、僕が犬の散歩をしていてすれ違いました。

「あ、フジモトマサルさんだ。やっぱりお洒落だなあ。個展の話、もう一度、声をかけたいなあ」と思ったのを覚えています。

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フジモトマサルってどんな絵を描く人なんだろうって思った方、最近だと『村上さんのところ』という本の絵を描いています。

安西水丸さんが亡くなって、今度は誰が村上春樹を描くんだろうって思っていたら、フジモトマサルさんですごく嬉しくなったのを覚えています。

僕は安西水丸さんもバーのカウンターを挟んで、担当バーテンダーとして接客したことがあります。すごくお洒落な方で、本当にカッコいい飲み方をされる方でした。

そしてフジモトマサルさんも本当にカッコいい飲み方をされる方でした。ロンサカパ・センテナリオの23年ものをオン・ザ・ロックでお出ししたら、指で軽く氷を回していたのを思い出します。

プロフィールを見ると1968年生まれだから、僕のひとつ上ですね。

ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

#コラム

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