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バー・ムーン・ビーチ 恋を失った男性

恋を失った男性が来店した。

男性が、「何か苦いお酒をください」と言うので、私はフェルネ・ブランカをすすめた。

男性はフェルネ・ブランカを飲むと、ひとこと「苦いですね」と言った。

私は「どんな風に恋を失ったんですか?」と聞くと、「糸電話なんです」と、ひとこと呟いて、こんな風に話し始めた。

「彼女が紙コップのようなものを差し出しました。

僕が不思議そうな表情をすると、彼女は「これ、耳に当ててみて」と言いました。

『こう?』と僕がそれを耳に当てると『そう』と彼女は答えて微笑みました。

『ほら、これ』と彼女は同じような紙コップを僕に見せ、そして突然、遠くに走っていきました。

そうか、これは糸電話なんだと僕は気づきました。

彼女はもう見えません。

かなり遠くまで行ったようです。

僕は耳に紙コップを当てたまま彼女の一言目を待ってみました。

何も聞こえません。

いや、正確に言うと彼女が走っている靴の音と彼女の『ハッハッ』という息が聞こえてきました。

僕はちょっと不安になってくるけど、しばらく耳に当てたまま待ってみました。

彼女が突然立ち止まる音が聞こえました。

そして紙コップから『ねえ、魔法って信じる?』という声が聞こえました。

僕は紙コップを口に当てて答えました。

『いや、そういうのはあんまり…』

『そう答えるってわかってた。

いつもあなたはそうだもん。

でも、不思議じゃない?

糸がないのに私たち話が出来ているの』

『ほんとだ。あ、これ新種の携帯電話?』

『なるほど、そんなリアクションかあ。残念』

『残念?』

『私、あなたに恋の魔法をかけたの。

今日がその魔法が消える日なの。

私たち、魔法なんてなくても上手くいくと思ってたんだけどなあ』

『え、どういうこと?』

『ごめん、もう遠くまで来ちゃった』

そういうと彼女の声は消えてしまいました」

恋を失った男性は、フェルネ・ブランカに口をつけ、「マスター、やっぱりこれ、苦いですね」と言った。

#小説

お酒やバーについての僕の本です。『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?』 https://goo.gl/QGdp48

bar bossaに行ってみたいと思ってくれている方に「bar bossaってこんなお店です」という文章を書きました。 

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