ワルツ・フォー・デビー

#小説 #超短編小説

デボラはプエルトリコ系で、肌は浅黒く、髪の毛はチリチリで、背は低く、男の子とよく間違われた。

クラスの女の子たちはもうすっかり女性の身体になった人たちばかりで、みんな豊かなブロンドやブルネットの髪を誇らしげにしていた。

デボラはクラスに好きな男の子がいた。その男の子は身長が高く金髪だったのだけど、デボラにも他の女の子と同じように平等に優しくしてくれた。

デボラはクラスの仲の良いアジア系の女の子スーに、その男の子のことが好きだと言うと、スーは「デボラ、何、勘違いしているの? あの男は偽善者なのよ。みんなに平等なフリをしているけど心の底では私たちのことは蔑んでいるのよ」と言った。

デボラはそんな考え方があるなんて気がつきもしなかったので、びっくりしてしまった。

でも、デボラの恋心はおさまらなかった。

いつか私の胸も大きくなって、身長も高くなって、クラスの誰よりも綺麗なレディーになるんだ、そしてその時になったら、彼に告白するんだと思った。

 ※

デボラの家にはお母さんとお婆ちゃんしかいなかった。

デボラのお母さんは、昔はとても美人で女優志望だったのだが、当時、ちょっと有名になり始めたバンドのドラマーと恋に落ちて、結婚してデボラを産んだ。そしてデボラがまだ3歳の時、ドラマーのお父さんは他に女が出来て、家を出ていった。

そしてデボラのお母さんは近所のダイナーでウエイトレスを始めた。

だからデボラが学校から帰ってくると、お母さんはまだ仕事中で、デボラはお婆ちゃんといろんな話をした。

お婆ちゃんは英語はあまりうまくなく、スペイン語訛りの英語をしゃべった。

デボラは「ママは昔、すごく綺麗だったんでしょ」とお婆ちゃんに聞いた。

お婆ちゃんは「もちろんさ。でもデボラ、お婆ちゃんもすごく美人だったんだよ。お婆ちゃんはそりゃもうママ以上さ」と言った。

「お婆ちゃんも美人だったの? じゃあ私も美人になれる?」

「デボラも絶対に美人になるよ。あと何年かしたら、デボラも誰か素敵な男の人にダンスパーティに誘われるから。その時には一番綺麗なドレスを着て、誰よりもカッコ良く踊らなきゃダメよ。踊りが下手な女の子はちっとも魅力的じゃないからね」

「女の子は踊りが上手くなきゃダメなの? 美人でスタイルが良ければいいんじゃないの?」

「美人なだけじゃダメさ。踊りが上手い女の子は男が惚れるんだよ。デボラがフロアーでくるくる回ると男はもう見とれちゃうはずさ」

「お婆ちゃんは踊りは上手いの?」

「もちろんさ。じゃあ私と今から一緒に踊ろうか。私がステップを教えてあげるよ。私のステップでもう何十人もの男が私に惚れちまったんだよ。さあこっちにおいで。今から踊るよ」

お婆ちゃんはゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばしてステップを踏み始めた。

お婆ちゃんのステップは本当にカッコ良かった。

デボラはお婆ちゃんがフロアーで男たちを魅了していたのを、確信した。

そしてデボラも立ち上がり、お婆ちゃんと一緒にステップを踏み始めた。あと何年後かに、美人になって男たちを魅了するために。

僕のcakesの連載をまとめた恋愛本でてます。「ワイングラスのむこう側」http://goo.gl/P2k1VA

この記事は投げ銭制です。この後、オマケでこの話を思いついた経緯を短く書いています。

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