ラブレター

「ねえ、住所教えてもらって良いかな」

「どうして?」

「これから毎日ラブレターを書く」

「え、そういうの迷惑」

「でもほら、毎日、どれだけ君のことが好きなのか、一生懸命に書いた手紙が届けば、君の心も少しくらいは動くかなと思って」

「あなたが私のことを好きなのはもうじゅうぶん知ってるから。そういう何か怨念みたいなのがこもった手紙が届くってちょっと鬱陶しいかも」

「読みたくなければ捨ててもらってもかまわない」

「そんな捨てられないって。私もそこまで嫌な女にはなれないから」

「じゃあ、気が向いたら読んでよ」

「だからあなたが私のことを好きって言うのは知ってるから。他にはどんなことを私に伝えたいの?」

「まず最初は、どうしてこんなにたくさんの男と女がいるのに、こんな風に僕と君が出会えたか、その運命みたいなものを書く」

「あのねえ。別にあれは出会いなんかじゃないから。あれが運命の出会いなら、そこらじゅう運命だらけよ」

「そう。実は世界はそこらじゅう運命だらけなんだ。でもみんなその運命に気づかずに、途中であきらめたり投げ出したりしちゃう」

「はいはい。じゃあ運命の次は何を書くの?」

「君が世界で一番可愛い理由を一から順番に書いていく。例えばさっきからずっと笑わないで、ブスッとしている君もすごく可愛い」

「はいはい」

「というわけで住所を教えて」

「私は返事は出さないからね」

「返事なんていいよ。君が読んでくれればそれだけで良い」

「別に毎日ラブレター読んだからって、あなたのこと好きにならないからね」

「うん、かまわない。僕が君を好きな気持ちが伝わればいいから」

「だからそれは知ってるって。先に言っておくけど、私、一生懸命とかそういうので心が動いたりするタイプじゃないからね」

「もちろん知ってる」

「私のこと、可愛いとか書いても、あなたのことは好きにならないからね」

「わかった」

#超短編小説 #会話スケッチ

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この記事は投げ銭制です。この後、オマケで僕のちょっとした個人的なことをすごく短く書いています(大したこと書いてません)。今日は「昨日、レコードを売ったのですが」です。

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