最初のバイトと、この秋に本を出すこと

学生時代、一番最初にやったアルバイトがどういう職種だったのかというので、その人のことをある程度、判断できると僕は思っています。

例えば居酒屋なのかスターバックスなのか。あるいは小さい本屋なのかそれとも工場なのか。あるいは出版社やイベント会社みたいなところなのか。そういう「一番最初に選んだアルバイト」って大きくその人の人生に影響を与えるような気がします。

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僕は、東京に来たばかりの18才の時、学生街の古い喫茶店でバイトをしました。

マスターはたぶんそのとき、60代半ばくらいだったと思います。「茨城からでてきて、どこかの喫茶店で修行をして、自分自身のお店を都内に構えて、お子さまを大学卒業までさせた」という方でした。

コーヒーは大手の業者から豆を仕入れて、午前中にたくさん作り置きしておいて、注文があったら小鍋で温めなおすスタイルでした。

食事はナポリタンとエビピラフがありました。

スパゲティは午前中にたくさん茹でおきしておいて、注文があるとハムとタマネギとピーマンを炒めて、スパゲティを入れて、ケチャップと塩コショウという、いわゆるオールドスタイルのナポリタンで、エビピラフは業務用の冷凍したのを袋から出してフライパンで炒めるというものでした。

そのマスターには「林くんは四国から出てきたばっかりだから、スパゲティなんて食べたことないでしょ」というフレーズを何度も何度も言われました。

おそらく昔の地方出身の学生バイトは「僕、スパゲティって食べるの生まれて初めてです」っていう人が多かったのでしょう。

お店は大学のすぐ向かいだったし、学生の数にくらべて喫茶店はあまりなかったので、「お客ゼロ」なんて瞬間はめったになく、僕はそこそこ入っていると感じていたのですが、マスターとしては「忙しい頃はホントずっと満席だったんだけどね」とよくこぼしていました。

1987年でしたから、カフェバー全盛期で、あと喫茶店と言えば、そのお店で自家焙煎をして、一杯一杯丁寧にドリップで入れるお店が流行りだしたころでした。

お店が閑になるとマスターが必ず言うことがありまして、「林くん、このお店、全部改装して、ログハウス風にしたら良いなあって思うんだけどどうかなあ」というものでした。

当時、1987年で、すでに「ログハウス風」というのはお洒落ではなくなっていまして、僕としてはちょうど一周まわって、「ナポリタンが美味しい昔ながらの喫茶店」というのに魅力を感じていたので、「そうかあ。経営者ってこういう風に考えているんだ」ってすごく勉強になりました。

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僕と妻は新しいお店が好きなので、いろんなところに行っては「なるほど。今はこういう感覚なんだよね」なんてことをよく話し合うんです。

例えば、これからは「お酒に頼る」のって無理だなっていうのは痛感しています。もう若い人はお酒を飲まないですよね。

「夜」って感覚も今は違うんだろうなあって思います。bar bossaは開店当初から「照明の暗さ」ってずっと同じなのですが、ここ数年は「暗い! 何にも見えない」ってお客さまにたまに言われるんです。

実は開店当初は「バーにしてはちょっと明るくて、ちょっとカフェ寄りな雰囲気」という印象だったはずなのですが、今はもうどのお店もすごく明るいし、暗いお店はなくなっちゃったから、bar bossaが一番暗いお店になっちゃったんですよね。

あともう少し頑張れば、bar bossaも20年選手になれるので、「老舗」って言えるし、一周まわって、「やっぱり暗いバーって良いよね」って若者に言われる側になれるとは思うのですが、まだ19年目です。

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僕はこういう「時代によってお店やメニューの流行りや廃りがあって、本当に街やお店って生きているんだなあ」って感じとることが好きなんですね。

そういう「本当に飲食店って面白いなあ。良い仕事を選んだなあ。いろんなお客さまと出会えて本当に楽しいなあ」って感じの「本」を秋頃に出す予定です。

書き下ろしもたくさんあります。よろしくお願いいたします。

ホント、飲食店って生きていて面白いんです。

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冒頭のマスターは、10年くらい前に何かの用事でたまたま西武新宿線に乗ったら、電車の中で見かけました。挨拶しようと前まで歩いていったのですが、マスター、もうすごくお爺さんになっていて、たぶん僕のことは覚えていなさそうだったので声をかけるのはやめにしました。

その喫茶店があったところ、どうなっているんだろうと思って、去年、その辺りを妻と歩いたら、全く景色が変わっていて、浦島太郎状態でした。もちろんお店は跡形もありませんでした。

#コラム

僕のcakesの連載をまとめた恋愛本でてます。「ワイングラスのむこう側」http://goo.gl/P2k1VA

この記事は投げ銭制です。この後、オマケで僕のちょっとした個人的なことをすごく短く書いています。今日は「僕の好きな街、ベスト3」です。

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最初のバイトと、この秋に本を出すこと

林伸次

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林伸次