バー・ムーン・ビーチ 窓と扉
今夜は、少しうつむきがちだが、明るい笑顔の女性が来店した。
彼女は、「何か華やかな気持ちになれる飲み物を」と注文したので、私はライチの香りがするゲヴェルツトラミネールという品種の白ワインを出した。
彼女はそのワインに口をつけるとこんな風に話し始めた。
「私の部屋は窓も扉もなくて、暗くてとても寂しかったんです。
このままではいけないと思って、腕があるので有名な初老の大工さんを呼んでこう言いました。
『私の部屋は暗くて誰もいなくてとても寂しいの。
なぜなら部屋には窓も扉もないから。
どちらかをつけようと思うのだけど、窓と扉の違いを教えてもらえますか?』
その大工さんはこう答えました。
『窓は光や風が入ってきます。
そしてあなたは窓から外の世界が眺められます。
でも、窓からは誰も入ってきません。
扉は色んな誰かが入ってきます。
時にはあなたを騙そうとする人やあなたを襲おうとする人も入ってくるかも知れません。
でも、世界のほとんどの人が悪い人ではありません。
そしてここが何よりも大事なのですが、扉があるとあなたがその暗い部屋から出ていくことが出来ます』」
「そして扉を付けてもらったんですね」と私が言うと
「はい」と彼女は答えて、ゲヴェルツトラミネールを少しだけ飲んだ。
お酒やバーについての僕の本です。『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?』
bar bossaに行ってみたいと思ってくれている方に「bar bossaってこんなお店です」という文章を書きました。
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