さよならの国6
坂道をゆっくりと下っていくと湖に出た。
引き返そうと思ったのだけど、岸辺に小さなボートを見つけた。
湖の向こう側にはいくつか明かりが見えた。ボートに乗ってこの湖の向こう側まで行ってみようと決めた。
湖の水は透き通っていて、底の方まではっきりと見えた。ボートを漕ぎ進めると、湖の底の方に小さな街が見えてきた。
街には小さな公園があって、すべり台で小学校低学年くらいの男の子が遊んでいた。
男の子が僕の方に気がついて、手を振ってきた。僕もボートから身体をのりだして、男の子に手を振った。
男の子が「危ないよ。落ちちゃうよ」と僕に向かって叫んだ。
その男の子の顔が誰かに似ているのだけど、僕はいったい誰だったか思い出せなかった。
ボートを漕ぎ進め、湖の真ん中あたりまでたどりつくと、ボートが10艘くらいあり、それに乗った人たちが、湖に何かを投げていた。
近づいてみると、投げているのは花だった。
みんなボートにたくさんの花を積み込んでいて、その花を湖に投げていた。いや、放していたという言葉がいいだろうか。
クロッカス、カトレア、デイジー、アネモネ、薔薇、クチナシ、クレマチス、百合、ダリア、カンナ、梅、ハイビスカス、サルビア、マーガレット、秋桜、ベゴニア、菊、ビオラ、チューリップ、金木犀、ラナンキュラス…
多くの花たちが湖に放たれていた。そして花たちはやがて沈みはじめ、湖の底の方へとゆらゆらと散り始めた。
湖の底の方にいた子供たちが上を見上げて、両手をあげているのが見えた。
その子供たちの頭上にたくさんの花たちが揺れ落ちた。ゆっくりとゆっくりと花は子供たちに舞い降りた。
子供たちはクレマチスをアネモネを、好きずきに掴み胸元で抱きしめた。
僕はさっきのすべり台の男の子を探したら、その男の子もダリアやハイビスカスを掴み、胸元で抱きしめていた。
ボートに乗った人たちは全てを放ち終えると、何も言わずに僕が来た岸辺へと戻っていった。
僕は湖の向こう側へとボートを漕ぎ始めた。
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この記事は投げ銭制です。この後、オマケでこの話を書いた経緯をすごく短く書いています。
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