ムーン・リヴァー

#小説 #超短編小説

彼女が初めて僕の部屋に泊まった夜、季節は秋で、窓を開けるとちょうど涼しい風が入ってきた。

僕は夜中の2時に目を覚ましてしまって、ずっと可愛い彼女の寝顔を見つめていることにした。

彼女は赤ちゃんのようにぐっすりと眠っていたので、キスしたいなと思ったけど、起こしてしまうから僕はぐっと我慢をした。

夜空の雲が途切れて、月があらわれた。満月だ。月の明かりが彼女を照らし、彼女がそれに気がついて起きてしまった。

「ごめんね。起こしてしまった?」

「ううん。大丈夫。あ、今日は満月だったんだね。ねえ、ムーン・リヴァーって曲あるじゃない。あれ、どういう歌詞だっけ?」

「そういえばどういう意味なんだろう。あの映画にそんな月の川のシーンなんてなかったし」

「月には誰がいるの?」

「お餅をついているウサギかな。あとかぐや姫もいるよ」

「たぶんそれだ。その二人が川に関係しているはず。ねえ、続きを考えて」

「うーん、かぐや姫がある日、『ボート漕ぎをしたい』って言い出したんだ。でも、月には川がないから、ウサギに命令して、川をつくらせたってどうかな。ウサギが河川工事している歌じゃない?」

「なんか全然ロマンティックじゃない。もう少し考えて」

僕は困ってしまい、ベッドから出て、キッチンでコーヒーをいれて、ああでもない、こうでもない、と考えてみた。

そして思いついて、彼女にこう言ってみた。

「わかった。ウサギがお餅をつくじゃない。そのお餅をかぐや姫が食べると地球のことを思い出して、泣いてしまうんだ。そしてその涙が月の川になるってどうかな。ちょっとロマンティックじゃない?」

すると彼女からは返事がない。見るとまた眠りに戻ったみたいだ。

窓の外を見ると、まだ満月はそこにあった。そして、月にいるウサギが僕に「彼女の寝顔、可愛いね」と嫉妬しているような気がした。

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この記事は投げ銭制です。この後、オマケでこの話を考えた経緯をすごく短く書いています。

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