セフレの彼

理恵さんが来店してこんな話を始めた。

「祐二、私のことはセフレだと思っているんです」

「そう言われたんですか?」

「もちろんそんなひどいことは言わないんですけど、お昼のデートって一回も行ったことないし、クリスマスやヴァレンタインは一緒に過ごしたことないし、お互いの誕生日も教えたことないんです」

「でも、セックスはするというわけなんですね」

「はい。たまに祐二から『今日、メシでもどう?』ってLINEが来たら、ちょっと飲みに行って、その後、近くのラブホテルに行って、終電前に別れるんです」

「なるほど。それはいわゆるセフレってやつなのかもしれないですね」

「でも、私、祐二のこと大好きなんです。でも、そんなことは絶対に伝えないって決めてるんです」

「え? そうなんですか? 試しに伝えてみるのもアリじゃないんですか?」

「そんなことを言ってしまったら、関係は終わるってわかってるんです。だから私、セフレでも良い。祐二が私のことを欲しいと思っているだけで良い。祐二が私におおいかぶさってキスしてくるあの瞬間の幸せな気持ちだけで良い。祐二が一生懸命私の上で動いているそれだけで良い。これ以上のことを求めるのなんて贅沢だって思ってるんです」

「そうなんですね。切ないですね」

「そしてこの間、祐二が『理恵、俺、好きな子が出来ちゃった』って言うから、『ああ、もうこの関係は終わりだ』って思ったら、私の友達の幸子のことが好きだって言うんです。林さんが私ならどうします?」

「うーん、友達の幸子さんの悪口を言うってのはどうでしょうか?」

「それが幸子、すごく良い子だし、今、ちょうど付き合っている男性いないし、祐二と幸子、結構お似合いな感じがするんです」

「どうしたんですか?」

「それで私、祐二にこう言ったんです。

『祐二は幸子と絶対にお似合いだと思うから、私がくっつけてあげる。でもお願いがあって、幸子と付き合い始めても、たまに私とセックスして。私、祐二のセックスがすごく好きなの』

祐二、しばらく悩んだんですけど、『わかった。その契約にのった』って言って、私はその場で幸子にLINEしました」

「二人はどうなったんですか?」

「結構あっさりと付き合うことになりました。祐二、『幸子に悪いよ』って言いながら、私が『契約だから』って言うと、たまに会って、ラブホテルでセックスをしました。そして私、祐二の子供を妊娠してしまったんです」

「祐二さんはどう言いました?」

「こう言いました。

『ええ?! 理恵、今日は大丈夫って言ってたじゃん。じゃあさ。俺が堕ろす手術代全部出すから。もうこれで二人は会わないようにしよう。やっぱりこういうのが良くなかったんだよ』

『あ、良いよ良いよ。私が日にちの計算間違えたんだから。私のミスだから。私が手術代も出すし、祐二、病院にも来なくて良いよ。私、他にもセフレいるから。その人に病院来てもらう』

『そうなの? 他にもセフレいたの? じゃあそいつの可能性もあるよね。良かったあ。じゃあごめん。お願いするわ。そのセフレの男が何か言ってきたら、俺、お金出す用意あるから。じゃあ今日でもう会うの終わりね』

という言葉が最後でした。林さん、でも私、祐二のことが好きで好きで、祐二の子供をこっそり産んで一人で育てようかなって思ってるんです」

「やめた方が良いと思いますよ。これからまた新しい出会いってたくさんあると思うし、お子さんも『お父さんに会いたい』っていつか言い出しますよ」

「私、東京は離れて、お父さんは死んだことにします。祐二には迷惑をかけないって最初から決めています。たぶん、祐二の子供、すごく可愛いと思うんです。まだ男の子か女の子かわからないけど、祐二の子供と二人でこれから一生暮らせていけたら、たぶん私、すごく幸せだと思うんです」

「そんなものなんですかね…」

と僕が言うと、

「林さん、お腹の赤ちゃんのためにノン・アルコールカクテルお願いします」と理恵さんが言った。

#小説 #超短編小説

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林伸次

渋谷でボサノヴァとワインのバーをやってます。http://www.barbossa.com/  『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』https://goo.gl/u2Guu1 韓国人ジノンさんとのブログhttps://goo.gl/B9MH6n

超短編恋愛小説

コメント5件

つばめ食堂さん ありがとうございます!
ホラー小説デビューですね 笑
さおりさん ありがとうございます。たぶんPVいかないだろうなと思っていたので、そう言われると嬉しいです!
Masatoさん 確かに男性からだとホラーですね!
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