エイプリル・フール

#小説 #超短編小説

あ、彼女がまた自分の写真をインスタグラムにアップした。ああ、なんて可愛いんだろう。

あ、もう12時過ぎかあ。彼女、今、寝る前に自分の部屋でスマホをさわってるんだろうなあ。そして、可愛く撮れたからアップしたんだろうなあ。彼女に気軽に【今インスタグラムにあげた写真、可愛いね】ってLINEを送りたいなあ。もちろんそんなこと無理だけど。

僕はただの仕事上の知り合いで、もちろんたまに業務連絡をLINEではするけど、その向こう側に行けないんだよなあ。

みんなこういうとき、どうしてるんだろう。どうやってこの現状を打破しているんだろう。

やっぱり告白?

よし、もう決心した。とにかく彼女にこの僕の恋心を伝えるんだ。まずそこからだ。だってこのままだと何の進展もないんだから。

どうやって伝えたら良いんだろう? だって彼女と仕事の話をしているときに「僕、好きなんですけど」なんてどう考えても変だし。どうしよう。

LINEで告白だ。まあ仕方ない。

こういうのはさっさと伝えよう。「す・き・で・す」とよし、「送信」。

ああ、送ってしまった。

あ、既読になってる。あ、返事戻ってきた。

【こんばんは。突然何かと思ってびっくりしました。ちょうど今4月1日になったばかりですよね。これ、エイプリルフールですか?】

あ、そうか。今日、というかたった今、4月1日になったばかりなんだ。

ちょっと待て。彼女、どうして「エイプリルフール」ということにしたいんだろう。普通に考えて「OK」だったら、「え!? 本当ですか? 私も好きです」って返ってくるはずだし。

でも「エイプリルフールですか?」ということは、これは「この告白、嘘だったっていうことにしませんか」という彼女からの提案だよな。うん、この後、仕事とかで微妙だもんなあ。よしわかった。

【そうなんです。エイプリルフールです。ひっかかっちゃいましたか?】

これで良い。これで僕のこの恋は終わりだ。「送信」と。

【なーんだ。一瞬、本気かと思っちゃいました。やっぱり嘘だったんですね。残念】

え? 残念? ということは… じゃあやっぱり告白しなきゃ。

【嘘というのも嘘です。本気で好きです。本当です】

【もう、どっちなんですか?】

【あの、本気です。嘘ではありません。大好きです。ええと、あの、僕のことどう思いますか?】

【好きとかそういう気持ちはありません。ただのお仕事上の知り合いです】

【そうですか…。あ、ごめんなさい。僕、仕事上のお付き合いなのにこんな気持ちを持ってしまって…。あの、これから仕事しづらいですね。あの、今まで通りにちゃんと仕事を… あの…】

【嘘ですよ。エイプリルフール、ひっかかっちゃいましたね】

【え? エイプリルフール?】

【私も好きですよ。これも嘘ではないです】

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この記事は投げ銭制です。この後、オマケでこの話を書いた経緯をすごく短く書いています。

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