今夜は鏡になった男が来店した。

男はブルゴーニュのマールを注文した。

私が「なぜ鏡になったんですか？」と質問するとこう話し始めた。

「あるとき、テレビを見ていたら、ある高齢の女性が『長生きの秘訣は？』と質問されて、『毎日、鏡を見ること』と答えていました。

どう思いますか？　女の人が鏡を見ることの意味と効果。

女の人は鏡を見ます。思春期の時は朝から晩までずっと自分の部屋で鏡を見ています。

鏡を見ても、何も変わらないのに何を見ているのでしょう。

男からの視線を自分の中で再生しているのでしょうか。それとも自分の中の自分と話しているのでしょうか。

もしかして、結構自分って可愛いと思いながら見ているのでしょうか。自分が可愛いと、鏡を見るの、楽しいはずですよね。

あるいは、１時間もずっと鏡を見ていると、自分の顔は色んな風に心の中で修正されて、可愛く見えてくるのかもしれません。

鏡の中の自分より、誰かに不意打ちに撮られた写真の中の自分の方が可愛くないですから。

鏡を見て、笑顔を作ってみるのも見かけるのですが、あれはやっぱり男からの視線を考えているのでしょうか。それとも、やはり笑顔を見ると心地良いのでしょうか。

そんなことを知りたくて、僕は鏡になりました。

女の人が僕を見て、ちょっと笑った顔を見せます。

女の人が僕を見て、目を二重にしたり大きくしたり、前髪を上げたり、頬骨を隠してみたりします。

そしてため息をつきます。

女の人って、僕から見ると同じ顔なのに、その日の気分によって『すごく可愛い私』のときもあれば、『もう最低なブス』のときもあるんです。

そしてデートに出かける前の彼女たちに僕はこう話しかけます。

『大丈夫。あなたはとても綺麗だから』」

そういうと、鏡になった男はマールに少し口をつけた。

#小説

bar bossaに行ってみたいと思ってくれている方に「bar bossaってこんなお店です」という文章を書きました。 

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