飲食店で「美味しい」と感じる理由と、『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』について

外で食事をしていて一番つらいのは「BGMがイマヒトツ」な時です。僕はまだ結構我慢できるのですが、妻が「もう私ダメ」と言って、早々とお店を出てしまうことがたまにあります。

思うに「スタッフが聞きたい音楽」をかけているお店ってやっぱりつらいんですよね。

こんな話はご存知でしょうか。

ある広告代理店が「美味しいって何だろう」と調査したそうなんですね。

例えばワインで考えると、「本当に味のことだけで感じる美味しさは『人の美味しい全体の3割』」なのだそうです。

で、「このワインはフランスの自然派の作り手で、ブドウのうまみを凝縮させるために…」といった解説や「ロマネコンティ」というブランドイメージで「美味しく感じるのが『人の美味しい全体の3割』」です。情報や記号や物語ですね。

そして残りの4割の「美味しさの理由」はそれを飲んでいるときの「雰囲気」なんだそうです。

例えば、お店がとても清潔感があるとか、スタッフが感じが良いとか、一緒に飲んでいる人が好きでとても楽しいとか、そういった「雰囲気」が人の美味しさの4割をしめているのだそうです。

だから逆に、一緒にテーブルをはさんでいる人と喧嘩をしていたり、「お店にあってないBGM」がかかっているのは料理や飲み物を不味くさせるんです。

ちなみに「そんなにお客さまは音楽なんて聴いてないよ」と思いますよね。

以前、山本のりこさんにbar bossaで演奏していただいた時、ちょっと騒がしくてライブを聴いていないお客さまがいたんですね。

で、後でのりこさんに「ごめんなさいね」って言ったら、「林さん、そんなことないんですよ。お客さんって話したりしてても実は音楽は聞こえてるんです。楽しい音楽を演奏したら楽しい気持ちになるし、穏やかな音楽を演奏したらゆったりした気持ちになるんです」と教えてくれました。なるほど、確かにそうかもしれません。

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今の東京の若手の選曲家でツートップはHMVの山本勇樹さんと雨と休日の寺田俊彦さんだと僕は思っているのですが、僕は彼ら二人にタッグを組んでもらって、日本中のお店のBGMを選んでほしいなあといつも思っています。

彼らの選ぶ音楽は決して派手だったり、主張が強い音楽だったりするわけではないのですが、じんわりと心に語りかける音楽を選んでくれます。

彼らが選ぶ音楽をバックに友人たちと食事やお酒やコーヒーを楽しむと、音はそんなには耳に入ってこないのに、時々「あれ、この曲、良いなあ。誰が演奏しているんだろう」って気持ちになります。

そしてそのくらいの距離の音楽だと、僕は食事を「美味しい」と感じます。

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その山本勇樹さんが、「クワイエット・コーナー 心を静める音楽集」という本を出しました。

「ジャンル分け」や「アーティストのプロフィールやディスコグラフィ」や「年表や地図」といった音楽ガイドに不可欠な要素には全くふれず、ただひたすら山本さんの美学にあったアルバムのジャケットを並べ、その下に山本さんが「このアルバムにはこの人の文章」と決めた文章がついているだけです。

例えばサティが提唱した「家具のような音楽」へのオマージュという章があるのですが、トップは中島ノブユキの音楽について2ページがさかれ、その後のアルバムは「クラウス・オガーマンとビル・エヴァンスのシンフォニー」や「クロノス・カルテットのビル・エヴァンス集」、もちろんブライアン・イーノやロバート・ワイアット、そしてベンジャミン・タウブキンやディエゴ・スキッシなんかが並べられています。

あるいは「In a mellow tone」という章では、「ここ数年のジャズというフォーマットを進化させたあらゆるジャンルの音楽家たちの中で、最も動きを加速させたアーティストと作品。そのうちの一人がグレッチェン・パーラトであり、この『Lost and found』と『Live in NYC』であることは間違いないだろう」と言い切ってしまい、タルマ・ジ・フレイタスやニュー・ザイオン・トリオ、あるいはカエターノ・ヴェローゾやカサンドラ・ウイルソンを紹介しています。

そしてその章の最後に、突然バカラックの「アルフィー」のハル・デイヴィッドの歌詞を2ページさいて、紹介しているんです。音楽が好きな人ならこの「アルフィーの歌詞」の箇所で、あのメロディが流れてきて、頭の中で一緒に歌って、確実に山本さんのセンスにノック・アウトされます。

そして、この本の目玉は山本さんと寺田さんの対談です。詳しくはここに書かずに、是非、お買いいただいて(笑)、読んでほしいのですが、「この二人がいるから日本の音楽ソフトビジネスはまだまだ大丈夫」と思うはずです。

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ところでもし僕がラジオ局の人間なら、山本さんと寺田さんの二人に番組を作ってもらいます。たぶんその番組は21世紀初頭の日本を象徴する伝説的な内容になると思います。

あ、そうだ。この本、僕もコラムひとつ書いています。山本さんの要望で「バーの音楽と恋愛」みたいな内容です。もしご興味あれば。

  ※

音楽にあまり詳しくない方には、途中カタカナばっかりの羅列の僕の解説になってしまいましたが、一冊通してたくさんのジャケットをながめていると「今ってこんな感じなんだなあ」ってつかめると思いますよ。「昔はよくジャズやボサノヴァを買ってたけど、最近のは全然わかんないなあ」なんて方も是非→ http://goo.gl/ZTRMLH

#コラム

これ、2年前に書いた記事なのですが、今度HMVでの西崎憲さんとの対談で山本さんにお世話になるので再掲です。対談はこちらです。→ http://www.hmv.co.jp/st/event/26839/

飲食店って本当に面白いなあって感じの本を出しました。『バーのマスターは「おかわり」をすすめない 飲食店経営がいつだってこんなに楽しい理由』 https://goo.gl/oACxGp

11月16日に僕が選曲したCDが出ます。Happiness Played In The Bar -バーで聴く幸せ- compiled by bar bossa → https://goo.gl/tOKcGu

bar bossaに行ってみたいと思ってくれている方に「bar bossaってこんなお店です」という文章を書きました。→ https://note.mu/bar_bossa/n/n1fd988c2dfeb

この記事は投げ銭制です。この後、オマケで僕のちょっとした個人的なことをすごく短く書いています(大したこと書いてません)。今日は「昨日、某飲食店大手チェーン社長に」です。

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飲食店で「美味しい」と感じる理由と、『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』について

林伸次

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渋谷でボサノヴァとワインのバーをやってます。http://www.barbossa.com/  『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』https://goo.gl/u2Guu1 韓国人ジノンさんとのブログhttps://goo.gl/B9MH6n

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