音楽について書くこと

※土曜日は読む人が激減することが判明したので個人的な話を。

cakesの連載が始まったばかりの頃、まだ今みたいに「恋愛のことを軽い雰囲気で」という方向性は決まっていなかったので、担当編集者と「どんなネタを書くのが良いでしょうかね」なんて感じの打ち合わせをしたことがありました。

そのとき僕が「音楽のことを書いてみたいんですけど。僕、結構音楽のことを書くの上手いんですよ」って提案してみたんですね。

そしたら担当編集者が表情を曇らせて「うーん、音楽の話ってそんなに読まれないんですよねえ」って答えたんです。

今となっては「そんなの当然だろ」ってわかっているのですが、当時は「え、そうなんだ。音楽ってみんなが興味あることじゃないんだ」と思って結構ショックでした。

でも確かに音楽の話って読まれないんです。

「音楽そのもの」ではなくて「音楽ソフトの売り方」とか「音楽の聴かれ方」みたいなことでしたら多少は読んでくれる人数は増えるのですが、「音楽そのもの」について書いた文章って本当に読まれないんです。

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ところで僕は「音楽」について書かれた文章を読むのがすごく好きなんですね。

食べ物や飲食店について書いた文章や、本や書店や図書館について書いた文章と同様に、音楽や演奏家やレコード店について書いた文章が好きなんです。

で、bar bossaを開店したとき、僕はいわゆる「オタク的にレーベルやプロデューサーといった情報が詳しいタイプ」じゃないのですが、「音楽の文章を書きたい一心」で意識的にボサノヴァは学んだんです。

それでまあ書き始めたのですが、いくつか決めてあることがあります。

例えばこのコラムのような「誰が読むか全く予想できない場所」の場合は「固有名詞は出来るだけ少なく」と決めています。

出来ることなら「固有名詞は最後まで一切出てこない」くらいが一番だと思っています。

そして音楽専門誌で書くときは、もうおもいっきり固有名詞は書き放題にしています。

おそらく音楽専門誌を今の時代に読むということは「そうとう音楽ファン」でしょうから、出来る限り「音楽情報」を詰め込んだら、読者は気になってその場で検索すると思うんです。

一般誌はもちろん編集者と話して「この辺かな」という落としどころを探します。

さて、CDのライナーですが、みなさんはCDのライナーってどういうのを求めていますか?

普通は家に帰って、ステレオ装置の前でそのCDをトレーにのせて、コーヒーなんかを飲みながら読むんですね。

で、僕は「出来る限り読んでて楽しいもの」というのを心がけています。

ときには僕の個人的なことも書いたり、そのアーティストの抱えていた夢や希望や挫折についても書いたりします。

あるいは僕は主にボサノヴァを書いているので、ブラジルの海辺の近くのバールで出会った人たちの話や、そこで飲んだコーヒーのことなんかも書きます。

そして「近所のちょっと音楽が詳しいお兄さん」的な感覚で「このCDが気に入ったら、こういうのも試してみた方がいいよ」なんてこともたまに書きます。

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ところで先日、bar bossa常連の町田和宏さんに「村上春樹がライナーを書いたLP」をお借りしました。(町田さんは僕がやっているJJAZZのブログに出演してもらっています→ http://www.jjazz.net/jjazznet_blog/2015/09/bar-bossa-vol49.php )

スタン・ゲッツの「チルドレン・オブ・ザ・ワールド」(1979年発売)とソニー・クリスの「アップ・アップ・アンド・アウェイ」(1980年発売)なのですが、これがすごく上手いんです。

常々思うのですが、村上春樹はこういうちょっとした「音楽の話」や「近所の美味しいお店のこと」なんかがすごく上手いんですよね。

例えばどちらも「すごく固有名詞が出すぎ」なのですが、どの固有名詞にも必然性があって、「あはは、上手いこと言うなあ」って表現ばかりです。

こういう村上春樹の文章をもう少し読みたいのですが、たぶん「音楽について書かれた文章」ってそんなに人気はないんでしょうね。

まあ僕も「麻雀」とか「競馬」とか「車」について熱く書かれた本は「面白い人には面白いんだろうなあ」とは思うのですが、まず読まないですしね。

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さて、たまに「林さんがライナーを書いたCDでオススメあります?」と聞かれることがあるので、いくつか「内容も本気でオススメで、かつ入手しやすいの」を紹介しますね。

singers unlimited/a capella http://goo.gl/uNTh6f アメリカのジャズ・コーラス・グループです。ボサノヴァではないのですが、僕が常々「好きだ。好きだ」と言ってたら担当の方が僕にライナーを回してくれました。

rosa passos/rosa http://goo.gl/IQah2m 現在進行形のボサノヴァ女性シンガーの最高峰です。これはライナーが自分ながら気にいってます。浜田山のバーで妻と飲んでいたらこのCDがかかって、嬉しくてついつい「このCDのライナー書きました」と言ってしまいました。

joao gilberto/三月の水 http://goo.gl/dRdRlD ボサノヴァの最終到達点の世界的名盤です。初めてボサノヴァを聴く人には難しいかもですが、音楽好きなら是非です。

joao donato/sambou sambou http://goo.gl/A7BLY8 ボサノヴァ前夜に渡米してしまってボサノヴァ誕生に立ち会えなかった伝説のピアニストです。これ字数が少なくてもっともっと書きたかったです。

わたしとボサノバ http://goo.gl/e9wpfu これコンピレーションCDなのですが、僕が超短編小説を書いています。その小説のイメージでずっと雨が降っている曲ばかり集めました。でもこれ今、中古市場で高いんですね。普通に中古CD屋さんで安くみつけれらると思います。

BOSSA NOVA http://goo.gl/M8Mg8e この選曲は実はかなり気にいっています。自分ながら「うわあ、良い選曲だなあ」と感じてしまいます。

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音楽エッセイ、例えば毎回ボサノヴァのレコードを1枚とりあげて、それについてちょっとした話を書くなんて感じの、いつでもやりますのでお声をかけてくださいね。まあ「恋愛エッセイ」よりはPV数いかないとは思いますが…

#コラム

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林伸次

Rogha / 撰んだ話

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