クリスマスのジャズ・アルバムを見つけて色々と考えたこと
先日、ある中古レコード屋でこんなレコードを見つけました。
THE ROY BUDD TRIO/Have a Jazzy Christmas
値段は確か1800円くらいです。
ちなみに僕は、中古レコードは1500円から2000円の間なら、「そこそこ良い内容」ってわかってないと買いません。
ええと、僕のこと、すごくケチと感じたかと思います。
でも中古レコードって「何か基準」を設定しないと、どんどん増えていって、妻にすごく叱られるので、自分なりに値段で基準を決めているというわけです。
ところでこのジャケット、ご覧になって「良い内容」だと思いますか?
僕はこういうイラストってすごく好きなのですが、でも一目で「音はイマヒトツだろうなあ」と思いました。
こういう「それっぽい雰囲気のイラスト・ジャケット」って、要するに制作サイドがそんなにお金とか時間をかけていないということなんです。
「お金と時間をかけないと悪いアルバムなのか?」という反論が来そうですが、レコードをよく買う一消費者としては、やっぱりたっぷりと時間とお金がかかったアルバムは「良い場合が多い」と感じます。(ちなみにお金の箇所はスタッフのアイディアと情熱に代替可能です)
そして「クリスマス・アルバム」です。ご存知かどうか、クリスマス・アルバムって「すごく良いか、全然ダメか」その2種類しかないんです。
例えば「ビートルズのカヴァー」ってすごく難しいんです。元のオリジナルが一番良いって決まっているのに、それをあえてカヴァーするっていうことは、「ビートルズ本人たちをこえたすごいアイディア」で演奏しなきゃいけないので、最初からハードルが高すぎるんです。
同じようにクリスマス曲ってもういくつか「有名ヴァージョン」が存在するので、それをさらにこえるアイディアってちょっと出てこないんです。
それで、まあ表ジャケを見ると、ピアノ・トリオでクリスマスをジャズアレンジで演奏してるんだなってことがわかります。
裏ジャケを見ますと、「ホワイト・クリスマス」とか「ママがサンタにキッスした」とかいわゆるスタンダードが並んでいます。
そしてメンバーはROY BUDD PIANO/PETE MORGAN BASS/CHRIS KARAN DRUMSとクレジットされているだけです。
ここに、曲によっては「アコーディオン」や「ヴィブラフォン」が入っていたり、「子供のコーラス」が入っていたり、「笑い声」や「シャンパーニュを抜く音」が入っていたら、これは企画からしてスタッフがアイディアを詰め込んで、時間をかけて凝っているので、「結構良いアルバム」の可能性があります。
でも、どうやらそんな録音ではなさそうです。ただトリオで1枚分、さらっと演奏しているだけのようです。
こういう時は「どこで何年に演奏したのか」がすごく大きいのですが、その「何年か」のクレジットもありません。
ちなみに裏ジャケ右上にバーコードが印刷されています。ということは、80年代半ば以降ということがわかります。
さらにレコードのプレスに関しては一般的には90年くらいからCDのみのプレスに移行しています。
ということはこのレコードは80年代後半に発売されたということがわかります。
そしてMade in Englandという文字も見えます。
80年代後半のイギリスの音楽シーンを思い出してみましょう。
80年代前半のネオアコ・ムーブメントが落ち着き、アシッド・ジャズが大流行しています。マッシヴ・アタックやソウルⅡソウルなんかもいます。
どうでしょう。普通に想像して、こういう感じのピアノ・トリオのアルバムが良いとは思えない状況です。
さて、どんどん「このアルバム、イマヒトツだろうなあ」が確信的になってきました。
裏ジャケにはROY BUDDのプロフィールも簡単に紹介されているのですが、「映画音楽をたくさん書いた人」ということだけが強調されています(後で検索したら実際映画音楽界で有名な人のようです)。
これはますます「ジャズとしての演奏の面白さ」のようなものも期待できなさそうです。
僕の感触では「95%の確率でたぶんダメなアルバム」です。
でももしかして、すごく良かったら、これからbar bossaでかけるちょうど良い季節になっています。
「あれ、クリスマスをピアノ・トリオでやってるんですね。演奏は誰なんですか?」ってこれから冬までの間、何十人にも聞かれそうです。
でも、たぶんこのアルバム、イマヒトツなんです。それはもう自分の中古レコード屋さんを回ってきた長い人生の勘でわかっているんです。
しかし5%にかけてみたくなるんですよねえ。大体、1800円なんだし。
さらに言ってしまうと「やっぱりダメだった。自分のレコードを見る目は全然衰えていない」っていうのを確認したいっていう気持ちもあるんです。
ところで、「試聴させて下さい」ってお店の人にお願いすれば良いのにと思いますよね。
「試聴」って僕は、「恋をしている女性の、その友達に、僕のことを好きかどうか聞いてもらって、好きってわかってから告白する」のと同じで「違反」だと思っているんですね。
そういう安全な橋を渡るのが好きな人はいるとは思うのですが、僕は「恋とレコード」にはそんな態度でのぞみたくないんです。
というわけで、買いました。やっぱり予想通り、普通の演奏のジャズ・クリスマスでした。
さらに考えてみると、これ、悪いのは演奏家じゃないような気もします。
本人たちは真面目に良い演奏を試みています。
イラストを描いた人も素敵だと思います。だいたい、30年後の地球の裏側の列島の黄色人種の僕が、「何だろう?」って思って手にとってしまいましたから。
たぶん、いろんな状況がこのアルバムを不幸にしているのでしょう。
※
こういう「レコードのようなモノ」っていろんなところにべったりと「物語」が染み着いているんです。
そしてその物語を一枚づつ剥がしとりながら読みとるのが好きなんですよねえ。
そして、やっぱり「買わないと」わからないんです。
中古レコード屋ってホント、面白いんですよねえ。
※
ちなみにこのレコード、ロンパーチッチの齋藤さんが「良いですね」と言ってくれたので、さしあげました。ロンパーチッチに行けば聞けますよ。
飲食店って本当に面白いなあって感じの本を出しました。『バーのマスターは「おかわり」をすすめない 飲食店経営がいつだってこんなに楽しい理由』 https://goo.gl/oACxGp
bar bossaに行ってみたいと思ってくれている方に「bar bossaってこんなお店です」という文章を書きました。→ https://note.mu/bar_bossa/n/n1fd988c2dfeb
この記事は投げ銭制です。この後、オマケで僕のちょっとした個人的なことをすごく短く書いています(大したこと書いてません)。今日は「ポールオースターの闇の中の男を読んで」です。
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