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芥川賞をとれなかったセルジオ・メンデス

※日曜日は読む人が激減するので音楽のことを。

セルジオ・メンデスってご存じですよね。この曲が世界的に大ヒットして有名になったブラジル人ピアニストです。

この女性コーラスが入って、ロック調でボサノヴァをやるってスタイル、革命的なアイディアだなあ、セルメンってすごい才能だなってずっと思ってたんですね。

そしたらセルメン、このスタイルでやるの、すごくイヤだったそうなんです。アメリカ人女性コーラスが入るのとかイヤだったそうなんです。

その事実を知ったとき、本当に驚きました。というのは、僕の中でセルメンって、「マーケティング大好き、リサーチ大好きで、これから流行りそうな音楽を早すぎも遅くもなく、絶妙なタイミングでキャッチーに表現できる天才ミュージシャン」だと思ってたからなんです。

そういうミュージシャンってたまにいまして、代表的なのがクインシー・ジョーンズです。

クインシーってこんな音楽や

こんな音楽をやりつつ、

マイケル・ジャクソンとかもやってるんですね。

すごいですよね。「時代」とか「こういうのが大衆には受ける」とか、そういうのを確実につかみとれるし、それをずっと長い間、最前線でやれる人なんです。

セルメンもそのタイプだと思ってたんですね。

だって、最近はこういうのやってるし、

80年代はこういうのやってるし、もうずっと最前線で、「ブラジル出身のポップ・マスター」って位置をキープしてるんです。

それが、実は本来はそういう「大衆受けする大ヒット曲を量産するタイプ」ではなかったようなんです。

セルメンって元々はホレス・シルヴァーの大ファンで、こういうゴリゴリのジャズを志向していたそうなんですね。

そう言われてみれば、初期はセルメンなりにゴリゴリなんです。ヴォーカルなんて入らないし、「アメリカでブラジル出身のジャズ・ピアニスト」としてどう表現すべきかっていうのを模索しています。

でも、思ったより売れなかったんですね。

セルメンってすごく上昇志向があるから、色々と「自分が考えるところのジャズとブラジルの融合」みたいなのにトライするんです。でも売れないんです。

そしてついに、「ボサノヴァ」を始めるんです。これ、僕の勝手な想像ですが、「本当はジャズをやりたかったんだけど仕方ないからヴォーカル入りのボサノヴァでもやろうか」って感じだったと思います。

それがこういうサウンドなんです。

これも、たぶんセルメンが想像してたよりは売れなかったんだと思います。というのは、このスタイルは1度限り(ライブアルバムもあります)で、そのまま続けてないですから。

それで、冒頭のセルジオ・メンデス&ブラジル66の結成になるんですね。これ、売れるためにイヤイヤやったそうなんです。でも、爆発ヒットしたんです。その後、日本にまで来るくらい売れたんです。

この売れた時、セルメン、どういう気持ちだったんだろうとよく考えます。

純文学が大好きで、いつか芥川賞をとって、そして充実した作品を重ね、いずれはノーベル文学賞をと思っていたのに、出版社に用意されたアイディアで「これが売れるから」って説得されて、その作品が大ヒットした状況です。その小説は映像化されて、セルメンはたまにテレビなんかにも出てる状況です。

これ、僕の全くの想像ですが、セルメン、おもいっきり吹っ切れたと思います。

世の中の表現活動をする人たちにはいろんな目的、モチベーションがあります。

1.草間彌生やゴッホのように、もうひたすら自分の表現のために表現する人。

2.もちろん売れたらいいと思ってるけど、でも自分が目指す作品は基本的に世の中ではそんなに売れないタイプの作品だとわかっているから、あまり時代や周りの意見に左右されずに、自分の美意識の中で完結した作品を作る人。

3.世間をアッと言わせたい、世界中で有名になりたい、世界の歴史に残りたい、という人。

セルジオ・メンデスはやっぱり、最後の「有名になりたい、アッと言わせたい」という人なんだと思います。

芥川賞路線は「自分はそっちじゃなかった」と早々と気がついて、自分の才能は自分ではわからないものなんだな、あのとき、レコード会社の人たちのアドバイスを受け入れられたのも「自分の才能」かな、と思っているはずです。

 ※

ちなみに、その後、セルメンは大ヒット作品ばかりリリースするのですが、たまにこういう純文学作品や

こういう前衛作品なんかも発表します。

そして、そういうことをすると、あまり売り上げにはつながらないようです。

でもセルメンが、そういう「もうひとつの自分」をたまに見せてくれると、僕はいつも嬉しくなります。

#コラム #音楽

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