部下の女性との恋

田村さんが来店してこんな話を始めた。

「会社の部下ですごく可愛い女性がいるんです。僕今48歳なんですけど、彼女、12歳下で36歳なんですね。

彼女が24歳の時にうちの部署に入ってきたので、もう10年以上も一緒に働いているんです。

彼女と初めて会ったときには既に僕は結婚していましたから、ずっと彼女の恋愛の相談相手になってまして、『今度はこういう男なんだけど、どう思いますか?』とか『失恋したんです。一緒に朝まで飲みましょう』とか、そういう話ばっかり聞かされてたんです。

もちろん彼女のそんな話に付き合うのは、彼女がすごく可愛くて、僕は大好きだからなんです。

でももちろんそんな素振り、これっぽっちも見せませんよ。

たぶん彼女の中で僕は『奥様や息子のことをすごく愛している理想的な男性像』なんです。

僕が妻のことを話したり、息子が学校で好きな女の子が出来た話なんかをしたらすごく喜ぶんです。

『いいなあ。私も田村さんみたいな男性と結婚したいなあ』っていうのが彼女の口癖でした。

居酒屋で一緒に飲んでるときも、僕のiPhoneを勝手に開けて、僕の妻や息子の写真を見て、『いいなあ。いいなあ』ってずっと言うんです。

『奥様と今でもキスとかするんですか?』とか『息子さんが修学旅行でいないときとかお婆ちゃんの家に行ってるときとかに奥様とセックスはするんですか?』とかそういう際どい話ばかりするんです」

「面白いですね」

「はい。もう僕は彼女のお兄ちゃんみたいな存在になってしまって。でも正直に言うと、僕としてはもうはっきり言って、男と女として彼女のことが大好きなんです。

でも、そういう風なことをちょっとでも見せたら、彼女、僕が妻や家庭を愛しているって信じているから、人間不信になってしまうだろうなってずっと気持ちは抑えていました。

僕としては早く彼女、結婚してくれないかなあ、って変な複雑な気持ちになってしまってて」

「ああ、でも彼女、36歳でしたら、そろそろ結婚を考えるお年頃ですよね」

「そうなんです。最近はすごくあせっているみたいで、とにかくいろんな男と会って、もうその中から誰かに決めてしまって結婚しようと思っているみたいでした。

彼女、すごく可愛いからじゅうぶんモテてまして、結構何人か良い感じの男性はいるみたいで、『選びすぎだよ。早く結婚してしまいなよ。決めないと』ってずっとずっと言ってたんです。

そしたら、『わかりました。田村さんがそんなに言うんだったら今度そういう男性が現れたらその人と結婚します』って突然宣言して、そしてそれから1ヶ月後に【田村さん、私結婚決めましたよ~。私の結婚祝ってほしいんで明日飲みに行きましょう。朝まで飲み、付き合ってもらいますよ~!】ってLINEが来たんです。

それで僕も【おめでとう! よ~し、じゃあ明日は金曜だからお祝いで飲むぞ~!】ってLINEを返しました。

で、次の日、妻には仕事で遅くまで飲まなきゃいけないからって伝えて、彼女と飲みに行きました。

2件目のバーを出たのが真夜中の1時過ぎでした。酔い覚ましに二人で歩いていたら彼女が突然こう言ったんです。

『田村さん、私、ずっと田村さんのこと好きだったんです。でも田村さん奥様や家庭のことを愛しているからずっと言えなくて。私、結婚する前に一度で良いから抱いてください』

もう絶対にそんなことダメだって思ったんです。でも彼女が突然僕に抱きついてきて、それで僕も抱きしめてキスしてしまいました。

それで、その日はそのままホテルに行ってしまったんです」

「ああ。そうですか。それでどうしたんですか?」

「それから、また2回、3回と彼女と寝ることになりました。彼女との3回目の時に、僕も正直に、実は10年前からずっと好きだったって言ってしまいました。

その僕の言葉で彼女が泣き出してしまって。それで、彼女、その次の日、LINEで【今の彼とは結婚の約束は破棄しました】って連絡が来ました。

僕は【そんなダメだよ。相手の人、すごく良さそうな人だったじゃない。ちゃんとその人と幸せにならなきゃ】ってLINEしたんだけど、【田村さん、最低です。奥様に私、言います】って戻ってきて、それでとりあえず【それだけはやめてくれ】って送りました」

「それでどうなったんですか?」

「僕も彼女のこと、元々すごく好きだったんで、やっぱり会えると嬉しくて、ついつい寝てしまうんです。

そして僕の妻が気づいてしまいました。

妻には隠してもダメだと思って、彼女との経緯を全部正直に言いました。

そしたら妻は『あなた、その子にハメられてるのよ。わかってるの? 早く別れないと大変なことになっちゃうわよ』って言いました。

それで、やっぱりそうだ、もう彼女とは別れよう。ちゃんと妻とやり直そうって思って、次の日、彼女の部屋に行って、『ごめん。やっぱりちゃんと別れよう。君はちゃんと結婚した方が良いよ』って言ったんです。

そしたら彼女、『わかりました。別れましょう。私、もう田村さんなしでは生きていく意味がありません。田村さんが私の部屋を出たら、その後で自殺します』って言うんです。

それからもうずっと2ヶ月も彼女部屋で暮らしているんです。彼女、本当に自殺しそうで怖いんです。林さん、もう僕、人生、どうしたら良いのかわからないんです。妻は弁護士の話を始めました。息子にも会いたいんです。でも、彼女も心配なんです」

そう言うと田村さんはボウモアのストレートを流し込んだ。

僕のcakesの連載をまとめた恋愛本でてます。「ワイングラスのむこう側」http://goo.gl/P2k1VA

#小説 #超短編小説


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林伸次

超短編恋愛小説

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