とある男の話

ある村に心優しい医者がいたがいた。
彼の家は、大太刀【斎斬(トキギリ)】という刀を奉る家系の出で代々、白い髪の嫡男継ぐのだそうだが、心優しい彼には指南という人を叱ることが苦手だった為、妹に譲って医者になったそうだ。
老若男女、人や動物に優しく、まるで仏よのうな人だと皆、口々にそういった。

ある時その医者が死んだと噂が流れた。
皆、その医者が何処で死んだか分からず遺体も見つからなかった為、天に感謝をするように、祈ったそうだ。
その噂が流れた同時期に【死神】が現れたという噂も流れた。
なんでもその【死神】は[フードを深く被った骨で、大鎌を持つ男]ではなく[縦横無尽に伸びた白い髪にボロボロの大太刀を持つ無精髭の大男]なのだそうだ 、【死神】はフラフラと練り歩いては老い先短い人々を残忍に殺し、何処かへ去っていくのだそうだ。
まるで、それを使命かのように、それが救済であるかのように。
その【死神】はこう呟くのだそうだ。

“その人は愛しかろう?
その愛は尊かろう?
その命は儚かろう?

成ればこそ、成ればこそ……大切であろう?
…………成らば何故、奪い、殺した?

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