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甘味とケムリとカクテルと。

昨今、ずいぶんとスイーツは市民権を得たと思う。昔は男性で甘いものが好きだと公言する人はそんなに多くなかった気がするけど、“スイーツ男子”なるワードが登場してそのハードルが一気に下がったのか、公言する人は多くなった。ような気がする。
女性が好むのは今も昔も変わらないと思うのだけどどうだろうか。

「酒飲みは甘いものを好まない」とはよく聞く言葉だけど、スイーツの地位向上(?)のせいか割と好む方が増えた気がする。好んではいたけど言わなかっただけかも知れない。
かく言う僕もチョコレートにはいち時期、浅ハマりして、自ら探したり人に聞いたりしてショコラトリーのものを食べていたし、“飲むcake”(当店ではケーキを再構築してカクテルにしている。あまり他のお店では見ないものだと思う)を作るにあたってパティスリーのケーキもそれなりに食べていた。

しかし、甘いものが好きなのか?と問われると別にそんなことはない。嫌いではないという程度。
ただ、この状況で食べるのは好きだ、と言える瞬間がある。

それはシガーを燻らせている時。

「シガーにスイーツ?」と思う方もいるかもしれないが、相性はとても良い。白眉は中盤後半からだ。
火口と吸い口が近くなればなるほどシガーは辛くなる。これを仲立ちして、柔らかくしてくれるのがスイーツなのだ。
この時ばかりは欲しくなる。それも間違いなく美味しいヤツが。
実際はコンビニのものでもそれなりに満足できるけど、そこはやはり釣り合いというものがある。せっかく美味しいものを愉しんでいるのにわざわざジャンクなもので壊す必要がどこにあろう?…まあ、時と場合によってはそっちの方が好みの時もあるのだけど、やはり良いものには良いもので合わせたいと思うのがひとつの人情だと思うのだ。

だからと言って当店で燻らせる方に買ってきたものをなんの芸もなく皿に載せてひょいと出すのはさすがに思うところがあるので、自家製で少し用意をしている。

自家製チョコレート(クーベルチュールのタブレットに生クリームを加える程度を自家製と名乗っていいのか疑問はあるけど、さすがにカカオの焼成からやるほどの知識も技術もやる気もないし、なにより設備がない)と何かしらの焼き菓子。

チョコレートは開店当初から作っていたけど、焼き菓子はシガー普及にひと役買ってくれるのではないかと始めたのがきっかけである。たぶん2、3年くらい前からじゃないだろうか。

当初は“月イチsweets”と称してやっていたのがいつの間にか常備体制に変わっていた。

安定して動き始めたのがきっかけだったのか、動いているかどうかそれ自体より作ること自体にハマって作り続けたのか。
性格的には後者の可能性は高いけど、もうひとつあったのを書いていて思い出した。

それは“スイーツ側からカクテルにアプローチできるように作れる”というやつだ。
こうなってくるとシガーの事は完全に頭にない。が、コレは自分の中で大発見だったのである。

経験を積んでいくとレシピから味の重い/軽いをある程度予測してコントロールできるようになる。
そうすると合わせたいお酒にフォーカスして作る、BARサイドからのアプローチもできるのだ。

パティスリーの作ったものだとどうやっても重心をスイーツ側に寄せないとバランスが取れない。しかしその重心の置き方を調整できるとなると幅は一気に拡がるから作る面白みも増していく。素材や分量の変更、焼成時の温度・時間の調整とか試せることが多い。しかも思い通りにならないことなんてザラなので仮説→検証という流れができる。たぶんそれが面白くて繰り返していたのだろうな。これがいちばん可能性が高い気がする(つまりシガーの事は置き去りにしてしまったのだ…)。
そしたら割と途切れることなく今日まで自然に続いたのだろう。

おかげで始めた当初に比べて、使う素材の特性や作るコツも少しはわかるようになった(気がする)し、クオリティも少しは上がっていると思う。たぶん。

出来上がれば試食をしながら自己批評や想定したお酒との相性を見る。加えて、より相性の良さそうな新しいカクテルを考えるきっかけ、その他お酒の提案探しにもなるので一石二鳥以上だと気づいた。良い意味で強制的にクリエイションさせられる。故にアタマも使う。

良いことずくめである。
マイナス面があるとすれば、作るたびに自分の粗探しが増していく所だろう。
自己研鑽という意味で悪くない。けど所詮はバーテンダー。パティシエではないということを忘れてはいけない。
自己領域の補正はすべきだけど、それ以上なんてやれるわけもないのでその先には手を出さない方が賢明…と、偉そうに書いてみたけど、そんな奥まで行けている感覚はまったくない。せいぜい入り口少し入ったところではしゃいでいるくらいだ。でも、これでちょうどいいと思っている。楽しめているし。

戻って肝心のシガーの動きはどうなのかと言うと…こちらはさっぱり。

途中から方向性がカクテルとどう合わせるか?に変わった時点でこの結果は見えていたようなものだけど、こうやって書いてみるまでそれに気づかなかったのは間が抜けているとしか言いようがない。失笑ものである。
やっぱり文章化するのは大事だ。

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