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真夏と読書

真夏の照りつける太陽。青い空。白くてもくもくとした雲。波の音と海。砂浜。
そんな場所にパラソルで日陰を作ってグラスの表面にたっぷりと汗をかいたモヒートをちびちび飲みながら読書をするというのはオツなもの…と言いたいけれどそれは妄想だけで十分だろう。
やるなら少なくとも日本から抜け出したいところだ。
アタマの中まで沸騰しそうなこの気温・気候にまとわりつく湿度の中で、そんな行為は狂気の沙汰だけど、エアコンの効いた室内でハーゲンダッツ(世代的にはレディ・ボーデンだ)でも食べながら好きな本を読み耽るというのはなかなか魅力的である。

日頃、仕事やすべきことに追われ、読む時間の作れない人もこの夏休みにそんな時間を持ってみるのもいいのではないだろうか。
せっかくの休みだからと、どこへ行っても人しか見えない場所へ行って疲弊するなら脳内旅行の方がはるかに贅沢に思えたりする。もっとも夏休みなど当店には無いのだが。

個人的にはこの時季の読書に長編は好まない。読んで中編がいいところだ。
ニッポンの真夏において本の厚みと複雑な人物相関図、ストーリーの展開、それに加えて情景を脳内に描くという読書条件を付けられると涼しい室内でもアタマが煮える。
自分の感性にぴったりとハマってしまえば気にもならないけど、そういう可能性はそんなに高くない。となると中編くらいまでのボリュームが無難かついい落とし所だと思う。保守的思考かもしれないけど。

せっかくなので何冊かこの時季に向いていそうだと僕が思う作品を紹介したいと思います。

路上 / ジャック・ケルアック
波の上の甲虫 / いとうせいこう
クラウド・コレクター / クラフト・エヴィング商會
異邦人 / カミュ
ミスター・ヴァーティゴ / ポール・オースター
夢十夜 / 夏目 漱石
裸のランチ / ウイリアム・バロウズ
遠い太鼓 / 村上 春樹
砂の女 / 安部 公房
エレンディラ / ガブリエル・ガルシア=マルケス

軽いあらすじも添えようかと思ったけど、今の時代、5分もスマホを使えばあっさり出てくるだろうから割愛…というのは言い訳で、調べたものと書いたものを照合してみたらだいぶ捻じ曲がっており、誤解を与えかねないので書くのをやめた。
そんなにメジャーではないけどマイナー過ぎないチョイスだと自分では思うのだがどうだろうか。偏りがあるのは認める(そもそもバランスの良い選書というものの定義とはなんだろう?)。

あまり考えずに思いつくままの羅列に近いのだけど、やはり夏=旅というのが頭にあったのか、そういうニュアンスの作品ばかりになってしまった気がする。
加えて自分がここ最近、本当に小説を読んでいない事を痛感した。挙げたものはだいぶ前に読んだものばかりだ。
今は仕事兼趣味のための学術系か文化・社会史がメインで息抜きにエッセイというのがほとんど。稀に再読する小説はあっても、その殆どは読み切るには至らず、好きなところをつまみ読みする程度。

お客様で「物語に没入するのが面倒で小説を読まなくなった」と言っていた方がいたけどその気持ちはよくわかる。
しばらく読まないでいて読もうとするとけっこうな集中力と想像力を遣うし、それに時間を割かないと楽しめないのだ。
まとまった時間がないとやれない、贅沢な愉しみであるとも言える。
だから本読みは減っていき、そういう”慣らし”のいらないインスタントなものが席巻してくるのかもしれない。
…これはいろんなことに通じるな…。

本題に戻ろう。
中編までがせいぜいだと書いたにも関わらず、ボリュームで言えば紹介した作品のうち2、3冊は長編である。
どこまでを中編でどこからを長編とするかは人次第だけど。
内容的なものも含めて考えると、短編だけど重みは長編、またはその逆となり得るのもあるかと思う。

特にオススメしたいのは「路上」、「波の上の甲虫」、「異邦人」だろうか。
ちなみに「路上」は中でも一番の長編である上、読み手はかなり選ぶと思う(この意味においては「裸のランチ」がダントツ)。

もし、これがきっかけで読んでくれて、それらが良き出会いとなってくれれば幸いです。
その時は感想のひとつでも書き残してくれればさらに嬉しい。

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