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いつも彼らはどこかに

平成25年5月に新潮社から刊行され、平成28年1月に文庫化された小川洋子氏の作品を読みました。

たっぷりとたてがみをたたえ、じっとディープインパクトに寄り添う帯同馬のように。深い森の中、小さな歯で大木と格闘するビーバーのように。絶滅させられた今も、村のシンボルである兎のように。滑らかな背中を、いつまでも撫でさせてくれるブロンズ製の犬のように。―動物も、そして人も、自分の役割を全うし生きている。気がつけば傍に在る彼らの温もりに満ちた、8つの物語。(「BOOK」データベースより)


スター競走馬のため帯同馬。ビーバーの頭骨。村の象徴だった兎 空き缶から頭が抜けなくなった鷺。「生きる」銅製の犬。静かに生息する動物園の動物たち。水槽で飼われる蝸牛たち。幼稚園のシンボルマークの竜の落とし子。

そんな動物たちが出てくる8つの物語ですが、主人公は人間で、彼らは人の生きざまの中に静かに、時として残酷に存在します。

動物たちやそれを取り巻く世界の表現力は素晴らしくて、解説で江國香織氏が書いているとおり著者と同じ視点で世界を描ける人はいないとさえ思います。

また本作では中年女性を主人公に置いた作品が多く、彼女たちはとても控え目な性格で周囲の人々との関わりに消極的です。

けれど 一見つまらない女性と見せておいて、その心の動きは繊細な筆致で描いているところにシニアの私は共感を持ちました。

著者の作品でいつも感じることですが、この短編集もとても美しい文章で静謐な世界観を充分に満喫できます。

人生に疲れた時、孤独感を味わった時に特にお勧めの作品かと思います。



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