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「『ばら色の人生』は何色なのだろうか?」――高校時代の2人の遊びの延長がレーベルとなった「ばら色」主宰者インタビュー

「ジャンルやフォーマットにとらわれることなく良質な音楽を提供する」ことをモットーに2021年に発足したレーベル「ばら色」。同レーベルはゲスの極み乙女。やindigo la Endのフロントマンである川谷絵音がパーソナリティを務めるラジオ「川谷絵音の約30分我慢してくれませんか」主催のイベント「ENO-TUBE LIVE」に出演したHamabeなどの作品を発表している。そのほかにも、今注目のアーティストたちを売り出している彼らは一体、なにを企んでいるのだろうか? 主宰者である伊藤羊と塚本雄司の両氏に話を聞いた。(聞き手:千駄木雄大)


Interview

ばら色(L:伊藤羊、R:塚本雄司) 撮影:Setter

■自分の好きなバンドの音楽だけを集めてリリースができたらいい

――Hamabe、Setter & The Teammates、シュガーダンス、ふたたびなど、今、東京のインディーズ・シーンで注目されているアーティストたちの作品をレコードやカセットテープ、デジタル配信で発表してきた「ばら色」。まずは、このレーベルの立ち上げの経緯を教えてください。

伊藤羊(以下、伊藤) 僕たちは高校の同級生で、当時は一緒にバンドを組んでいました。ただ、高校卒業と同時に僕は東京、塚本君は静岡の大学に進学することになり、バンドは解散というか自然消滅してしまいます。

塚本雄司(以下、塚本) 出会いは同じ吹奏楽部ですが、意識し合ったのは林間学校からです。彼はローリング・ストーンズの襟だけ色の違うラグランTシャツを着ていたんですよ(笑)。

伊藤 あまり聴いたことなかったんだけどね(笑)。そこから月日が経って、大学を卒業する頃、僕はサークルの仲間たちと新たなバンドを組んでいました。そこそこ本気でやっていたのですが、3〜4年で解散してしまいます。そこで、「もうこれから音楽は聴くだけでいいや」という気持ちになってたんですね。今でこそ、2つもバンドを掛け持ちしていますが、僕自身はもともとデザインなどの裏方作業が気質的に好きということもあって、そこまでステージに立つことにこだわりはなかったんです。そして、そのリスナー気質と裏方気質の両方が合わさって「自分の好きなバンドの音楽だけを集めてリリースができたらいいな」ということを、考えるようになりました。

――ビートルズの『リボルバー』のジャケット描きながら、ジョン・レノンのソロ作品やプラスティック・オノ・バンドに参加していたクラウス・フォアマンみたいですね。

伊藤 そんなときに、塚本君が所属しているHamabeというバンドが、たまたま大学のサークルの後輩たちのバンドと、当時あった下北沢Garageというライブハウスで対バンをするという話を聞いたんです。そこで、見に行ったところ、思いのほか僕の後輩たちと塚本君が意気投合していて、「妙なつながりができたな」と感じました。

塚本 偶然にも仲良くなるバンドのメンバーのほとんどが、伊藤君と同じ大学のサークル出身者ばかりだったんですよ。

伊藤 それがきっかけで、これまで物理的に距離も離れていたことで、頻繁に会うことのなかった塚本君とまた会うようになります。

――社会人になってから、大学時代に所属していた集団を経由して、高校時代の同級生と交流を再開させるのも珍しいですね。

伊藤 そうですね。そして、話を聞いていくうちにHamabeはコンスタントに音源を出し続けていたこともあり、塚本君には自主で作品を制作・流通させるノウハウを持っていることを知ったんです。それを生かしたいと思って声をかけて、2021年にレーベルを立ち上げました。

塚本 ノウハウというほどかはわかりませんが、当時のHamabeはどのレーベルにも所属していなかったため、基本的にCDの流通から配信、プレスリリースまですべてをバンド内で完結できるようにしてきただけです。ただ、そこから「Hamabeでも出せたんだから、ほかのアーティストの手伝いもできるかな」と強く思うようになったのは確かです。

――立ち上げの1年後の22年には、Hamabe『手綱/トリップ』、Setter & The Teammate『スロウダウン』、シュガーダンス「サイダー」も配信・発売されました。Hamabe以外のバンドの音源もレーベルから出すことになったきっかけは?

塚本 最近は私と同じように人に頼まないで、すべてを自分自身でやっているバンドが増えています。そうやって、セルフプロデュースに長けたアーティストがいる一方で、音楽はとてもいいのに人に売り込むことが苦手だったり、恥ずかしいという人もいるんです。そのようなバンドが埋もれてしまうことが、非常にもったいないなと思ったんですね。

――今の時代だとSpotifyなどで簡単に配信できる気もしますが、それで完結するわけではないのですね。

塚本 これまで「バンドのオリジナルCDを作る」というのは、非常に大変な作業でした。それが今は配信サイトのおかげで、簡単に配信してもらえる時代になっています。ただ、この時代の流れも「レーベルを発足させよう」と思ったひとつのきっかけです。というのも、配信で自分たちの音楽を出すのは簡単ですが、CD・レコード・カセットなどのフィジカルを作り出すことは今でも難しい。そして、いずれは配信ばかりが増えていき、当然ながらフィジカルは少なくなってしまいます。配信でみんなに聴いてもらえることはもちろんいいことですが、CDやレコードで音楽を聴いてもらう良さもある……。そこから、配信はもちろんできて、フィジカルも出していけるレーベルを作りたいと思うようになりました。

■レーベル名は直感的ではない曖昧な言葉にしたかった

――みんな気になっていると思うのですが、「ばら色」というレーベル名の由来と意味はなんでしょうか?

伊藤 はっきりとした言葉をつけるというのが、しっくり来なかったんですよね。「〇〇レコード」と名乗ればサマになると思うのですが、それよりも「曖昧な言葉」にさせたい気持ちがありました。あまりジャンルにとらわれたくなくて、ふわっとさせたかったんです。そこで、「ばら色」という言葉はばらの花の色を指しますが、ばらにもたくさん種類があります。そして、「ばら色の人生」という言葉もありますが、その「ばら色の人生」は何色なのだろうか――。これは感覚的にしかわからないですよね。この「ばら色の人生とは、どんな色なのか?」ということを、レーベルのアーティストたちに表現してほしいという願いも込められています。

塚本 私も「〇〇レコード」という名前にはしたくない気持ちはありました。そして、伊藤君から送られてくる名前の候補の中にも「〇〇レコード」みたいなものはなかったんです。いくつか候補はありましたが、その中でも「ばら色」が一番いいとは思っていました。もう、覚えていないのですが、ほかにもいろいろな候補が送られたのですが、とてもレーベル名とは思えない言葉ばかりだったのは確かです(笑)

伊藤 僕は「ばら色」を推していたので、最初に書いてあとは適当な単語を並べていました。ある意味、誘導に近かったのかもしれないですね(笑)。

――運営するうえで参考にしているレーベルはありますか?

伊藤 経営や運営上のロールモデルというのは特にないですね。なにかあるたびに、塚本君とぶつかって試行錯誤を繰り返しています。

塚本 ロールモデルがなさすぎて、伊藤君とずっと会議です。ただ、このレーベルの強みのひとつは「2人いる」ということですね。多くのインディーズのレーベルはひとりでやられている人が多くて、それはそれでかなり固まった真っ直ぐな意見が出ると思うのですが、2人でやっているとアイデアも倍出てくるわけです。それに、例えば「デザインは伊藤君、流通は私」というように作業を補い合えるというのも大きいですね。

伊藤 そもそも、塚本君とはだいぶ付き合いも長くて、ずっと友達のままですが、僕たちは音楽の話しかしないんです。2人で話していても、お互いの近況にはまったく興味がない。だから、レーベルに付き合ってもらっているバンドには申し訳ないのですが、これは僕たちの遊びの延長。塚本君とずっと遊ぶために作ったのが「ばら色」なんです。

■「日本的(民俗的)」という意味で「フォーキー」な音楽

――現在、ばら色からリリースされている音源は、Hamabe、Setter & The Teammates、シュガーダンス、ふたたびという4つのバンドによるものになります。それぞれのバンドに伊藤さんか塚本さん、もしくは伊藤さんの大学の後輩が所属していますが、今後は身内以外の新たなアーティストの作品を、レーベルから出す可能性も当然あるのでしょうか?

伊藤 今、大阪のとあるバンドの作品をリリースしようとしています。これが初めて知り合いではないアーティストの作品になりますね。

塚本 それだけではなく「音源が良かったな」と思ったアーティストのライブに2人で行って、声をかけるようにしています。

――2人の中での「いい音楽」の共通項はあるんですか?

伊藤 これが、とても難しいんですよね。でも、お互いに「このバンドがいいよ」と紹介しながら過ごしてきたから、なんとなく擦り合ってきているのかな?

塚本 レーベルを始める前から、伊藤君からオススメの音楽を教えてもらったり、「最近、なにを聴いているの?」という話はずっとしてきました。だから、共通項はわからないですが、趣味がそんなにズレていることはない。強いて言うなら「フォーキー(folky)」ですかね。

伊藤 うちから作品を出しているアーティストたちは、いい歌詞と、それを生かすようなメロディで、そのうえでバンドのアレンジも面白い……。僕は洋楽も好きなのですが、英語を聴いても僕は日本語しかわからないので、やっぱり心に刺さってくるのは日本語の曲です。ただ、日本語を使っているというだけでなく、「日本的(民俗的)」という意味で「フォーキー」な音楽。どことなく、土着的な雰囲気を持っているバンドが好きなんですよね。

塚本 確かに。今、ばら色から音源を出しているバンドは、どれも日本語の歌詞を重視しています。それが、共通項というよりも「主軸」になっていると思います。すぐ、体に染みるというか……。言い表すのが難しいですね(笑)。

伊藤 でも、こうやってハッキリと「ここが素晴らしい」ということを言えないような音楽が僕たちは好きなのだと思います。だからといって、そういうバンドだけに狙いを絞りたいわけでもありません。今、音源を出しているバンドたちを今後も「ばら色ファミリー」として縛るつもりはないですね。

■自分の好きなアーティストだけが出ているイベントは絶対に楽しい

――そんなばら色による初めてのレーベルイベント「ばら色 presents『#1』」が3月20日(水・祝)に下北沢のTHREEで開催されます。このイベントにはこれまでレーベルで作品を出してきた4つのバンドのすべてが出演する予定です。

伊藤 僕はもともとレーベルイベントを積極的には考えていなかったんです。というのも、レーベルの内輪ノリないし、ファミリー感が強まってしまうのではないかという懸念があったからです。でも、レーベルとして2年間活動してきて、ひとつの区切りになるかなと思うようになったので、今回は「まとめ」を行う感じですね。

塚本 私はずっとイベントをやりたいなって思っていました。というのも、私は仲間を集めて弾き語りのイベントなどを開催しているのですが、それは自分の好きなアーティストだけが出ているイベントというのは、出演するだけではなく、見ていても楽しいんですよね。今回のイベントもばら色という自分たちのレーベルから出している音楽のバンドが勢揃いするので、「これは自分自身が楽しめるな」と思っているんですよ(笑)。

伊藤 いいね(笑)。それと、これまでレーベルとしていくつかフィジカルでのリリースもやってきました。CDやカセットテープなどは僕たちのウェブサイトで購入してもらうことはできるのですが、僕たちは実店舗を持ってないため、直接お客さんに売るタイミングというのがないんですね。各々のバンドが自身のライブの物販で買ってもらうことはできますが、「レーベルとして」売ることは今までありませんでした。ここで実際にお客さんに手に取ってもらえるというのは、非常にいいことだと思っているので、そこも楽しんでほしいですね。

――それでは、2人が抱いている次のビジョンはどういったものになるのでしょうか?

伊藤 とにかく地道に積み重ねていって、活動を広げていきたいです。日本中に素晴らしい音楽をやっているアーティストたちはたくさんいるはずで、僕たちがまだ聴けていない音源も山ほどあると思うんです。今はそこにアンテナを張って情報をキャッチしているところなので、いろんな人たちと交流を持てたらいいなと思っていますね。そして、将来的にはすでに解散しているバンドがかつて出していた音源、今は埋もれている作品を再発して、陽の目を浴びさせたいんですよね。音源だけで考えればそのバンドが今も活動しているかどうかというのは関係ないので、そういったいい音楽をピックアップしていくということは突き進めていきたいと思っています。

塚本 私はいい音楽をコンスタントに出していきたいとは思っています。

伊藤 そうですね。今年はさらに忙しくなると思います。

塚本 なんだか、大きな野望というものがないね(笑)。


『ばら色』について

ばら色ロゴ(BRIR-000)

2021年発足の音楽レーベル。
フォーマットやジャンルにとらわれず、良質な音楽を提供し続けることを目指している。

*X(Twitter)
https://twitter.com/barairo_records
*Instagram
https://www.instagram.com/barairo_records/
*Playlist
https://lit.link/barairorecords 
*Online Shop
https://barairorec.base.shop 

ばら色のあゆみ

ばら色主催イベント「ばら色presents"#1"」

2024年3月20日(水・祝)東京・Shimokitazawa THREE
開場/開演:12:00/12:30
前売り/当日:2,000円/2,500円

■出演者
LIVE:Hamabe/Setter & The Teammates/シュガーダンス/ふたたび
DRINK:イワヲ・コーヒー

予約フォーム(ばら色):https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSenubXzg6sKTZ5dk3xHE30TEznjeetZVIq6ktwxlpvKfJ7qNA/viewform?usp=pp_url


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