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47才の男性がイメージコンサルを都合3回受けたお話。その2

 パーソナルカラー診断を受け、冬カラーと分かった。
 なるほど、ビビッドな色使い。黒ならソリッドな黒。白ならピュアホワイト。
 うんうん、なるほど。
 その後、僕はそういう事を意識して服を選ぶようになった。
「黒、似合うねー」
「シルバーの腕時計いいね」
 などなど、褒められることも増えてきた。
 気が付けば40を過ぎていた。
 その頃から、いやそれまでに時々、服選びでムムム? となることがあった。
 
「のび太っぽい」

 のび太の呪縛が復活することがあったのだ。
 いや、のび太くんは悪くない。彼は大人になって環境保護局の自然調査員になり、静ちゃんと結婚した。映画ではスラッとしたイケメンだったし。
 つまり、なんとなく頼りない感じ、病弱とはいわないが軽く見える時が有るのだ。
 ネイビーのパーカー。
 レモン色のTシャツ。
 黒いニット。
 どれもパーソナルカラーを外していないはずなのに、なーんだか合わない。
 カジュアルが似合わないのかなぁと思ったりもした。
 こんな事があった。
 ある飲み会に出たときのこと。ちょっと年上の方や、それなりの地位のある人が集まる会だったので、アンミカ先生の教えの通り、ピュアホワイトのYシャツに紺のストライプネクタイを締めて出向いた。
 出かける前の姿見チェックでも問題無いな、と思ったはずなのに
「キミ、なんだか銀行の新入社員みたいだなぁ」
 みぞおちにドデカいのを一発食らった。
 物怖じせず思った事をストレートに口に出す方からの言葉だったので、余計にダメージがあった。
 そ、それ、なんとなく思ってました〜。
 そうなのだ! フォーマルに寄せても、時々、のび太になる。
 フレッシュさではない青い感じ? 成熟してない感じが漂うのだ。40過ぎてるのに!
 なんでだ? 若作りに見られるのか?
 いや若作りなら『銀行の』という枕詞は付かないだろう。
 なんで銀行の新入社員っぽいのか。
 打ちひしがれた矢吹ジョーの様に家に帰って、改めて姿見の前に立つ。
 トラッドなダークネイビーのジャケット。白いシャツ。同じく紺のストライプ幅広ネクタイに銀のタイピン。スラックスはオーソドックスなストレートにダブルの裾上げ。
 すごーくマジメそうな、恐らく殆どの人に不快感を与えないスタイル……の筈なのに、正直、胡散臭い。
 そう、胡散臭いのだ。
 なんて言うのだろう。こんな人に大金や資産を任せられない。ヘタしたらちょろまかされるんじゃないか? って雰囲気がある。もしくはポカミスで株券をシュレッダーにかけてしまいそうな感じ?
 『銀行の新入社員』と言われたときは、なんて事言うんだ、このオヤジ! と思ったが、言い得て妙だと納得するしかない。
 でも、なんでこうなった? 誰か教えてくれー!
 僕はその幅広のネクタイをそっとクローゼットの奥に仕舞い込んだ。

 僕が初めてパーソナルカラー診断を受けてから10年近く経ち、ファッション雑誌はもとよりTwitterなんかでも、イエベ、ブルベという単語を目にする機会が増えた。
 インターネットではカラーのセルフ診断できるサイトもあるし、美容室などでもそれを加味してカラーリングをしてくれるサロンも増えてきた。 
 そんな中で、TwitterのフォロワーさんであるLさんが「パーソナルデザインを受けてきました」と呟いていた。
 パーソナル……でじゃいん? なんじゃそりゃ?
 Lさんはとても上品な方で、いつも素敵な装いをされている方だった。
 彼女の呟きを見てみると、どうやらパーソナルデザインとは、色だけを判断するパーソナルカラーとは違い、その人の容姿、雰囲気などから「似合うスタイル」を診断してくれるというものだった。
 そんな便利な物があるのか! 
 もちろん僕は速攻でグーグル検索をした。
 パーソナルデザインには6つ(男性は5つ)のカテゴリがある。
 
・ファッショナブル 
 迫力があり華やかな印象がある
 江角マキコさん アンミカさん 阿部寛さん など

・ナチュラル
 気さくな感じ。すっきりとしたスポーティな印象がある。
 山口智子さん 織田裕二さん

・グレース
 きっちりと上品で都会的な雰囲気
 黒木瞳さん 西島秀俊さん 堺雅人さん

・フェミニン(女性のみ)
 優しいお嬢様、グレースとは違う優しい上品さ
 沢口靖子さん 檀れいさん

・ロマンス
 甘くてセクシーな印象がある。独特の雰囲気。
 藤原紀香さん 及川光博さん 玉木宏さん

・キュート(男性の場合はハイスタイル)
 可愛らしく、小粋な印象
 小泉今日子さん 中居正広さん

 (ザッとしか説明してません。詳しくはプロのコンサルタントのサイトなどをご覧下さい)

 ふむふむ! 言われてみればそういう分け方も出来るな! 
 持って生まれた顔や体格の印象に合う服を着れば、間違いは起こりにくいんだな。
 Lさん曰く、その人のデザインに合った服を着ればより素敵に見えるのは当然で、問題は外した時で「馬鹿な子に見える」し「雑に扱われる」そうだ。
 な、なんだって!? そんなことってあるのか!?
 一瞬、まさかーと思ったけれど、振り返ればなんとなく思い当たる節がある。
 似合ってない訳じゃないけど、なんとなくしっくりこない。
 どうもチャラく見える。
 そして、胡散臭いのび太……。
 胡散臭いのび太問題解決の鍵はここにあるのでは無いだろうか!?
 早速Lさんが誰のコンサルタントを受けたのか伺ったのだった。
 →男性のみのコンサルを受け付けてくれるコンサルタントは割と少なめです。女性同伴ならばと限定しているところが多いです。

 向かったのは瀟洒な住宅地の一軒家。
 ラブラドールとか飼っていそうな家が並んでる中に、H先生の家はあった。
「こんにちはー。ようこそー」
 可愛らしい先生だ。あとで聞いたら先生のPD(パーソナルデザインの略、以下PDと記載)はキュートタイプだそう。なるほどYOUさんに似ている。(以下YOU先生)
 案内されてリビングに。
 今日の流れをざっくり説明して貰う。
 PC診断の後にPD診断。そして具体的なフッションスタイルの提案と質疑応答。合計2時間の内容だ。
 PD診断は、それだけでやることはなくパーソナルカラー(以下PC)とセットで行われる。
 つまり似合う色が分かってからこそ、デザインの意味があるというわけだ。
 フムフム。
「ではさっそくやっちゃいましょー」
 そう言ってYOU先生が隣の部屋のドアを開けると、中にはPC診断でお馴染みのドレープと、凄い数のメイク道具が置かれていた。
 PCもPDも女性が受けるときはメイクアドバイスも付くことが多いのだ。
「じゃあ、ドレープを当てていきますね」
 来た来た来た。もの凄い数の色が僕の胸元を踊ってゆく。
「そうですね。ブルーベースですね」
 こっくりとしたボルドーのドレープを当てながらYOU先生は言った。
 10年前初めて受けたときより幾らか日焼けしたけれど、PCはほぼ一生変わらないというのは本当なんだな。
 カーキー色を当てられると僕の肌はくすみ、そもそもオシャレなカーキー色が、国防色というか、煮すぎたほうれん草の色になってしまう。
 やっぱり冬カラーなんだなぁ。
 そう思っていると、YOU先生は意外なことを告げた。
「でも、冬と夏がほぼ同点ですね」
 なんですと!?
「オフホワイトとかは避けた方が良いかもしれませんが、淡いラベンダーブルーとか桜色も似合いますね」
 そう言って、ドレープを胸元に広げて貰った。
 うん、確かにスッキリして見える。
 これは良い新発見だった。
 Yシャツは白ばかりってのもなぁと思っていたし、桜色は大好きだし!
「では、色が分かったところで、デザインの判断にいきましょうね」
 そうして僕たちは再びリビングに戻った。
 PDの診断はドレープなどは使わない。
 目鼻立ちや、その人がもつ雰囲気などを総合的に判断する。
 ちなみにその日は、いつもの習い性で、紺のスーツに白Yシャツ、そして幅広ネクタイというの嘘臭のび太ルックだった。
「そうですねぇ」
 とYOU先生は暫く考え込み
「ナチュラルではないですね。あとハイスタイルも」
 納得である。
 そもそもスナチュラルならスポーティーな服が似合う。
 白Tにデニムなんて、どれだけ厚手のTシャツにしても「肌着感」がしてしまうし、ブルゾンなんて悪い意味で用務員のおじさんっぽくなってしまう。
 派手で可愛らしい服も、ますますのび太になる。それは身に沁みて分かっていた。
 残るはファッショナブル、グレース、ロマンだ。
 もちろん、今回の診断を受ける前に、あれこれ前情報を仕入れていた。
 ——グレースかなぁ、それともファッショナブルかなぁ。
 仕事柄人前に出ることが多く、スーツ似合いますね、と言われてきていたし、冬カラーは目鼻立ちがハッキリしているというから、ファッショナブル?
 診断結果や合否判定を待つ間というのは、あれこれ考えてしまうし、脳内経過時間は、現実の10倍くらい速い気がする。
 そんな僕にYOU先生は
「グレースでもないですね」
「え!?」
「グレースじゃないですよ。グレースなら先ほどお話しになってた『銀行の新入社員』って言われることはありませんよ」
 そ、そうか〜ッ。
 確かにグレースならスッキリとした都会的、かつシンプルなスーツがビシッと決まる。堺雅人さんが銀行員を演じていたあのドラマを見れば一目瞭然だ。
「てことは、ファッショナブルですか?」
「ファッショナブルでも、ないですね」
 オイオイオイオイ、YOU先生、何を言い出すんだい?!
「例えば、こういうスーツを着ているところ、想像出来ますか?」
 そう言って差し出してきたファイルには、太いストライプのスーツに身を包んだ男性のスナップだった。ダブルのスーツに幅広ネクタイが似合っていて貫禄がある。
「む、無理です。服に着られちゃいます」
「そうかもしれませんね」
「ってことは」
「はい。ロマンスです」
 なんだってー!!!!
 ロマンス!? 及川光博さん!? ミッチー!? 堂本光一君!? 
 待って待って待って。あんな王子様と同じPDなんてあり得ないから!
 もう僕、帰る!
 目を白黒させる僕にYOU先生は
「ネクタイも、そういうオーソドックスなストライプではなく、細いナロータイプ。もしくはいっそ外して、第二ボタンまで開けてください」
 ちょ、な、何を言い出すのこの人は!
「そんなことしたらムラムンムンかグダグタの所帯やつれになりますよ!」
「どうでしょう。試してみないと分かりませんよ」
「あぅぅ」
 あたふたしながらも、言われるがままに、僕はジャケットを脱ぎ、ネクタイを外してみた。もちろんシャツのボタンも第二ボタンまで外して。
「どうですか?」
「首がスースーします」
「ではなくって、鏡の中を見てくださいね」
 ……
 …………
 ………………
「どうですか? のび太っぽいですか?」
「い、いいえ」
「ムンムンですか?」
「いえ、そんなことはないです」
「だらしないですか?」
「いえそれも、ない、です」
「そうなんです。それがロマンスの人の特徴です。ロマンスの人が肌を見せてもいやらしくならないんです。かえって上品に見えるんです」
 YOU先生曰く、ムンムンの過剰な色気はPDを外すと出てしまうそうだ。
 例えばグラビアアイドルさんたちにはロマンスはあまり居ないらしい。
 ロマンスの人が水着になっても却って色気が上品に漂うので、ああいう仕事の目的とは異なってしまう。グレースやフェミニンの人が脱ぐからムンムンになるのだそう。
 ってことは、僕がのび太になったのは、グレースの持ち味であるキッチリスーツ風に纏めちゃったからか!
 ナチュラルが第二ボタンまで開けたら、確かに運動の後ですか? になるし、グレースなら徹夜明けですか? 大変ですね、だし、ファッショナブルだと、これから勝負デートですか? になるかもしれない。
「胡散臭さはどうですか?」
「そりゃ、サラリーマンには見えませんけど、詐欺師には見えません」
 YOU先生はおかしそうに笑った。 
「じゃあ、ボタンシャツを着るときは第二ボタンまで開けて。Tシャツとかは?」
「Tシャツとかカジュアルはロマンスタイプさんには難しいんですよ。特に日本のカジュアルはナチュラルな人たちに似合うタイプが多いので」
「ああ、そう言えば」
 欧州に通うようになって、いわゆる大人の遊び着という販売層が日本は薄いことに何となく気付いていた。ビジネススタイルとカジュアルスタイルの間が皆無に近い。
 日本人がスマートカジュアルに弱いのは、センスの問題と言うより、着る機会と買う場所の少なさが原因なのかも知れない。
 じゃあ、ボタンシャツが制服ですね。
 と思っていると、YOU先生が一筋の光明を指し示してくれた。
「でも、Vネック。浅いVではなく、シッカリとしたVネック。そしてダボダボやピチピチではなく、スリムフィットなものであれば素敵に似合います。それに同じく細身のジャケットを羽織れば問題ありません」
 あ、想像出来る。それなら着ている自分がスッと頭に浮かぶ。
「ロマンスさんは、ちょっと手間をかけないといけないことが多いですが、男性の場合は、まずはキレイめカジュアルを目標にしてみてください。シャツは白よりもカラーシャツ。黒とか紺の光沢のある生地とか似合います。パンツはスキニーか細身。そしてシャツはインした方が良いです」
「……それなら出来そうです」
 なんとなく服選びに迷いがなくなりそうな僕にYOU先生はお茶目に笑って続けた。
「身長があるので、殆どの服はそれなりにお似合いになると思います。でも、1番ハマって、素敵に見えるのはキレイめ。それを意識してみてください」
 YOU先生。
 黙ってましたけど、実は、Yシャツボタン開け。大好きなんです。でも、自信がなくて。
 心の中で、ホッとしつつ、よっしゃ! とガッツポーズした。
 後日、VネックのロングスリーブTシャツをグレーと黒の色違いを2枚、そしてカラーシャツを購入した。
 第二ボタンまで外したカラーシャツに光沢のあるジャケットを羽織った僕を見て、長年の友人は
「似合うわ〜、似合ってて嫌味だわー」
 と褒めてくれたのだった。

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