大阪都構想について考える〜前回①の補足

②を投稿するつもりでしたが、先に前回 note「①高すぎる二元行政のコスト」にいただいた疑問点・ご指摘にお答えします。

(1) なぜ 8倍なのか? (合意形成・意思決定を単純に確率で表現できるのか?)

 コインを投げて「表が出るか、裏が出るか」というような、結果が 1/2 かつ毎回独立した試行を「ベルヌーイ試行」と言います (中学高校の数学で習いましたよね)。前回 note における根元事象は、住民・官僚・政治家のアクターが賛成で一致することです (以下の樹形図で青色で囲った部分)。これは二項分布で考えると 1枚のコインを 3回投げて全て表が出る確率と同じということになります。

樹形図

 前回 note では、一元行政のアクターが 3者、二元行政は 6者という仮定 (付記に記載の Kingdon (1984)「政策の窓モデル」の理論枠組みの援用) のもと、一元行政の全事象は 8、二元行政は 64 とし、根元事象の起こる確率は 1/8 と 1/64 である、したがって 8倍であると説明しました。
 しかし、 アクターが 3者・6者であるというのはあくまで仮定です。例えば首長と議会の方向性が大きく異なるということであれば、政治家アクターを 2つに分けることで全アクターは 4者と 8者となり、その場合の全事象は 16 と 256 になります。もちろん住民アクターも地理的条件や産業構造などの違いから選好が大きく異なっていれば、集合的利益ごとにいくつかのアクターに分けることができるでしょう。

一元・二元行政の違い

 このモデルは実際に合意形成・意思決定が成立する確率を導き出そうとしているのではなく、また期待利得や貨幣換算した交渉・調整コストを試算するためのものでもありません。
 合意形成・意思決定に関わるアクターが増えたとき、かかる交渉・調整コストは「加算的」にではなく「乗算的」に増加することを、極めて単純化して述べているものです (上図)。
 もし確率だけをみるなら、実際はもっと高くなるかもしれないし、低くなるかもしれない。まず、それぞれのアクターにおける合意形成・意思決定は独立した偶然の事象ではなく、外部の影響を受けるし、本来は動態的なものです。また、全者が賛成で一致しないと利得が発生しないと仮定しましたが、現実の施政者は利得の減少を伴う政策案の変更を受忍してでも、賛成を得ようと行動することは十分あり得るでしょう。

 大事なことは、一元行政に比べて二元行政は交渉・調整コストが乗算的に増加することを先験的に知っている施政者は、合意形成・意思決定の過程を省略しようとする、あるいは政策に取り掛からないインセンティブを持ち得るという点です。

(2) 大阪市廃止→特別区設置でコストは上がる。一元行政の方がコストが低いというのは誤りでは?

 自治体運営のコストの概念にはさまざまなものがあり、ご指摘の前段はそのうち「生産効率性 (いわゆるスケールメリット=規模の経済)」を指しています。この説明は簡単ではないのでまた別途 (時間が許せばですが) 行いたいと思いますが、とりあえず以下に、現在の大阪府・大阪市体制における効率性と、都構想後の大阪府・特別区 ( および一部事務組合 ) 体制による効率性の違いを概念化した図を示しておきます。

画像2

 上図のうち、「合意形成・意思決定 (調整費用) の効率性」と記したものが、前回 note でお話しした交渉・調整コストに該当します。ただこの部分のコストはあくまで定性的であり、レトロスペクティブ (現在から過去に遡って) またはプロスペクティブ (現在から将来に渡って) にそのコストを定量化するのは困難でしょう。
 したがって広域行政の一元化によって低下する交渉・調整コストとは、その効果額がいくらで、それをどの財源に充当できる、という捉え方をするものではありません。
 都構想後の大阪府において、エビデンスに基づく政策立案や効果検証、ガバナンス機能強化等に、より多くの資源を投入してもよい理由として、広域一元化によって交渉・調整コストが低下したという仮説上の見込みを採用すべきだと主張するものです。

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