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行政機関の出した命令が法律の委任の範囲を逸脱していないかについての考え方の説明および判例の紹介

考え方の説明

 行政機関が法規命令(国民の権利義務に関係する一般的抽象的な定め、政令等の形式を有する。)を有効に制定するためには、国会の定めた法律の委任がなければなりません。
 何を言っているのか、以下説明いたします。

 国民の権利義務に関する一般的抽象的な定め(このような内容を持つ定めを「法規」と言います。)は、国会により国民の代表者によって審理されたうえで制定されなければならないと考えられています。
 憲法41条が

国会は・・・国の唯一の立法機関である。

と定めているのはこのことを指しています(この点に関連しては、学説上も国会中心立法の原則(主に憲法学)や法律の法規創造力の原則(主に行政法学)等と呼んで研究していますので調べものの際に参考にされてください。)。

 ところが、マンパワー的にも技術的にも、国会が、法律という形式で、「法規」を制定しきることは不可能です。そこで、最初に述べた通り、法律が行政機関が出す政令等(行政機関の出す定めのことを「命令」と言います。)に委任をして、「命令」をもって国民の権利義務に関係する一般的抽象的な定め(「法規」)を定めさせることがあります(「法規」の性質(実質)を持つ行政機関の出した「命令」(形式)だから、このような定めのことを「法規命令」と呼びます。)。
 このような法律から命令への委任は、
    憲法73条6号ただし書が

政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

    としていることからも許されると解されています。

 もっとも、当然のことながら、委任先の命令は、委任元の法律の委任の範囲を超えることはできません。
 行政手続法38条1項が

命令等を定める機関・・・は、命令等を定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない。

 と述べているのは、このことを確認しているのです。
 なお委任の範囲を超えているか否かについては、規制の対象となる私人の権利利益の性質も重要な考慮要素として勘案すべきと議論がされております(塩野宏『行政法Ⅰ』107頁、有斐閣、2015年)。

判例の紹介

 命令が法律の委任の範囲を超えているのではないかとして争いになった最高裁判例がいくつかございます。以下紹介いたします。

 旧監獄法50条が、被勾留者の接見に関する制限を法務省令に委任していたところ、同法施行規則120条が14歳未満の者には一律接見を許さない旨規程していた点について、最判平成3年7月9日は、被勾留者には一般市民としての自由が保障されることを考慮して、監獄法は被勾留者と外部の者との接見は原則としてこれを許すものとし、例外的に、これを許すと支障を来す場合に限って合理的な制約を許容したものにすぎないと読んで、委任の範囲を超えているとしました。

 婚姻外懐胎児童のうち、父から認知されたものを児童扶養手当の支給外としていた児童扶養手当法施行令1条の2台3号かっこ書の規定について、最判平成14年1月31日は、児童扶養手当法は「世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童,すなわち,児童の母と婚姻関係にあるような父が存在しない状態,あるいは児童の扶養の観点からこれと同視することができる状態にある児童を支給対象児童として」と評価したうえで、父から認知されただけでは現実の扶養を期待することはできないとして、委任の範囲を超えているとしました(反対意見あり)。

 その他、地方自治法施行令に関する最大判平成21年11月18日(委任の範囲を超えると判断)、薬事法施行規則に関する最判25年1月11日(委任の範囲を超えると判断)、銃砲刀剣類登録規則に関する最判平成2年2月1日(委任の範囲を越えないと判断)があります。
 ※これらの判例についても、時間をみて随時内容をまとめようと思っております。

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