昔話「エグい起業で生きていく」


俺が生まれたのは田舎と都会の間。そんな悪くねー町だが、俺の周りはバカばっかだった。

俺が暮らしていたのはいわゆるアパートで、親父の会社が借り上げていたところだった。

途中でそのアパートを潰すってんで、1回引越しをしたが、同じ地域だった。そこで生まれ育った。

俺の親父はいわゆるサラリーマンだったが、まあなんつーかな、中流には届かない下流ってところだな。

多分家には借金はなかったと思うが、それでもいわゆる贅沢ってものはしたことがなかった。

誕生日に高価なものをもらうこともないし、クリスマスはケーキが食えれば上出来。

友達の家にはサンタが来て、夜中にプレゼントを置いていってくれる話を聞いたから親に話したところ、不審者が家に入ったら警察に通報するわとか言われて、泣いたことを覚えている。

そんなわけで貧乏ではあるが、別に飯は食えるし、アパートだから周りにも似た年齢の子供がいて、遊ぶのには困ってなかった。

今は知らないが、当時は公園とかで遊んでいると中学生とかにカツアゲされるから、金を持って出歩いた記憶がない。

今はコンビニとかで小学生がジュースを買っていると、すげー時代だと思うよ。
もちろん地域差はあるだろうが。

そんな俺の家庭でも問題はあった。

親父が基本的にクズだったんだな。

大した給料も稼がず、大体毎日飲んで帰る。
土日はパチンコだけ。
家族旅行なんて行ったこともねえ。

記憶にあるのは母親の実家に毎年帰省することくらいだ。

ただ、他の子供が旅行に行ってる話を聞いても、そもそも旅行の楽しさとかもわからないし、うちには無縁なものだと思ってたから、大して羨ましいと思ったこともない。

羨ましかったのは、ステーキを食ったとか、おもちゃを買ってもらっただの、そんなことだな。

とは言っても、俺と同じようなやつも結構いて、貧乏な子供は貧乏なりに金のかからない遊びをしていたし、中学校に行ったら部活をやるから、貧乏も気にならなかった。

俺は中学で部活をやるにあたり、金のかからない部活にした。

この頃親父のクズ加減が増してきて、母親がパートに出始めた。

夜中親が喧嘩しているのを聞いて、子供の俺でもわかってしまった。

親父は浮気をしていた。

それで家に金を入れなくなり、家庭がひもじいからパートしてたんだな。

どうせ大した仕事もしてねーくせに、親父が帰ってくる回数が減った。

母親は出張だとか言っていたが、嘘なのは分かったし、親父を憎み、呪っていた。

だから、部活は金がかからないものを選んだ。

勉強も大してできないから部活を頑張っていたが、ちょっとしたことで俺は怪我をしてしまう。

怪我と言っても1カ月で治るようなものだが、猛烈にひまになった。友達はみんな部活をやってるからな。

だから変な時間に家に帰って、かといってやることもねーから、その辺ぶらぶらしたり、アパートの小さい子供と遊んでた。

その時に出会ったのがFだ。

Fは金持ちだった。
親が社長だか役員だかで、うちの近くの立派な家に住んでいた。

だが、本人は結構グレていてよく教師と揉めたり、当時は体罰を受けていることもあった。

ほとんど友達はいなくて、別の学校のやつらとつるんでいるみたいだった。

俺がガキたちと遊んでいたら、オメー何してんだよ、と声をかけてかけられた。

怪我をして、部活ができないことを伝えたら、「俺の家来る?」って誘われた。

家の場所はもちろん知ってるし、そんな金持ちの家なんて行ったことがねーから、喜んで遊びに行った。

予想を全く裏切らず、Fの家はなかなか広かったし、置いてあるもの全部高級品に見えた。

Fの部屋で喋っていたが、自分の部屋があること自体、夢みたいなことだと思った。

Fは突っ張っていたキャラだったが、案外話してみると普通で、さらに当時はインターネットなんてないし、パソコンもないから写真がメインなんだが、エロ写真の切抜きとかを持ってて、めちゃくちゃ興奮した。

それで怪我をしている間、かなりFの家に行って仲良くなり、学校でもクラスは違うが、喋ったり一緒に帰ったりするようになった。

Fは生活態度、つまり髪型とか服装が校則違反をしていて度々教師に怒られていた。

俺は一応ルールを守っていたから、直接何か言われることはなかったが、仲が良いと思われ出して、俺も部活に復帰した頃からは、Fが学校をサボると、
あいつはどこだとか聞かれるようになった。

部活に復帰したものの、怪我のせいもあって思ったように部活ができなかった俺は、部活じゃないやつで話し相手がほしくてFの家に入り浸っていた。

夕飯を食わせてもらったこともあるが、Fの家も寂しい感じだったな。

Fと妹、お手伝いのおばさんしかいなくて、両親がいなかったな。たまたまかもしれないが。

それである日、俺とFとを関係づける出来事が起こる。

それがバイクだ。

俺の家は金もないし、バイクなんて想像したこともなかったが、Fの知り合いとかいう明らかにヤンキーな高校生な集まりに連れていかれた。

今でも暴走族とヤンキーの違いがあんまり分からないが、俺としては暴走族よりのヤンキーだな。

暴走族的に暴走するというよりは、バイクを自慢し合ったり、たむろしたり、たまに走ったりしていた。

でもそれなら暴走族な気もする。
まーどっちでも良い。

そいつらの集まりで、Fは結構可愛がられていた。
中学生は俺らしかいないし、下手に出まくっていたら何かされることもなかった。

ただ、問題はそれが夜だということだった。

当たり前だが、夜に中学生や高校生が出歩いていれば補導される。

バイクで走りのやつらは逃げられるが、こちとらチャリンコ、捕まるわな。

そんで学校に連絡が行く。

それが2回くらいあって、俺も教師からかなり目をつけられてしまった。

俺は何も変わっていないのに、部活の友達から避けられたり距離を置かれたりした。

自分の中では、ちょっと悪いことしたな、程度の感覚だったが、教師からは俺やFと関わるなと言われていたみたいだ。

部活でも扱いが変わり、なぜかベンチ的な扱いになったり、顧問から雑用をやらされることが増えた。

それでも黙々とやっていれば良かったのだが、何で自分だけ。って言う気持ちが湧いてきて、顧問に直談判しに行ったら、

「お前みたいなクズ、そしてそのクズの周りにいるクズ、厄介なんだよ。」

と言われた。

ブチ切れて、顧問を殴りかけ、やめた。
そして部活も辞めた。

そこからは当たり前のようにFとつるんだ。

Fはヤンキーの高校生に金を払ってバイクを借りていた。

夜は乗せてもらったり、ちょっとした場所で運転したこともある。

俺も猛烈にバイクが欲しいと思った。もちろん金なんかなくて買えるわけがない。

だから高校に行ってバイトをして、金を貯めたいということばかり考えていた。

高校を受けるにあたり、俺が行く高校はなんとなく決まっていた。

最近は東京だと高校受験だとか行って、私立がどーだとか言ってるが、地域によっては選択肢があまりない。

俺の場合も、賢いやつはここ、普通はここ、バカはここ、その他変なやつはここ、みたいな3〜4つしかなかった。

俺は普通もしくはバカ高校という感じだったが、Fが完全にバカ高校一本だったもんで、大した理由もなく、俺もバカ高校に進学した。

高校生になるとバイトができるってことでバイトを始めた。

大した金にはならねーが、それでもたまに家の飯代にはなる。そうやって家計を助けていたらバイクは結局憧れで終わり、一時的に先輩やFが貸してくれていたことを除けば、自分の単車を買うことはできなかった。

クソ親父は、酒とパチンコは相変わらずだったが、ある日なぜかボコボコに怪我して帰ってきた。

そして浮気的な両親の喧嘩はなくなった。

今ならわかるが、浮気相手にバレたんだろうな。

そんでもって、俺が夜な夜な不良と絡んでいること以外、平穏だった。

不良といっても、ゴリゴリに悪いことはしてなくて、無免許運転とか、二人乗りとか、タバコや酒、深夜に出歩くとかそんなもんだ。

ガチの暴走族には俺らもビビるし、かと言ってマジメくんには睨みをきかすみたいな、クソしょーもないバランスの集まりだった。

ただ、そこにくる女の先輩がめっちゃタイプだったことと、Fとの馴れ合いで、顔を出してた感じだな。

ちなみにその先輩は、別の先輩の彼女だったからオレにチャンスはなかったが。

そして高校3年の途中、進路どうするみたいな話になるわけだ。

多分賢いやつらだと、進路以前に大学受験前提だろうが、俺らは就職が基本だった。

Fは父親の知り合いの会社に行こうと思ってて、俺も誘われた。

先輩たちも大学なんて無理だわ、勉強とかありえねーって感じで就職していった。

もちろんそれもありだなーと思ったけど、大学行ったらどうなるか知りたくて、一応大人に聞いてみることにした。

うちの親は高卒だから無理。

バイト先に大学に行った人がいた。

あと好きなれねーが、教師も大学を出ていた。

バイト先の社員に聞いたところ、大学に行っても東大から底辺まであるわけで、人それぞれだと聞いた。

でも都会の学校に行けば、都会に就職できるとも聞いた。

学校の教師は、俺に聞かれて驚いていたが、仕事の幅が広がる、応援してやるとか言われた。

悪い気はしなかった。

ただ、問題は学費だった。奨学金のことを考えると借金してまで、俺の脳みそで大学に行く意味、そして一人暮らしするだけの生活費の意味を見出せなかった。

そのままなんとなく過ごしていく中、親ととうとう話すことになった。

親としてはどこの会社に行くんだ、みたいな話になっていたが、俺が大学も考えてるみたいなことを言うと、かなり驚いていた。

もちろん、勉強していないバカが大学行ってどーする?
って言われると思ったが、なぜか応援された。

単純に、大卒と高卒の生涯賃金が違うみたいな三文記事を見て、信用していたらしいことが後からわかったが。

ただ、金がないということで、母親の結婚前だかの貯金、親父の親戚から親父が借金することで学費の工面をつけてもらった。

正確には、すでにあったのは学費2年半くらいの分で、入学以降、残りを俺と親でそれぞれ半分ずつ貯めるって話になった。

もちろん、一人暮らしの生活費は自分でバイトし、学費も社会人になったら親に返すという話だ。

今思えば不思議だよな。

普通なら勉強を頑張ってるやつが、どの大学に行こうか考えて、後から金の工面をする。

しかし俺らは金の工面をした後に、俺の学力で入れて、学費も払える大学を探した。

つまりバカのやることだ。

仕方ない、家族3人全員バカだからな。

で、学校の教師に大学に行きたいことを伝えて、俺は勉強を始めた。

大体こういうのって漫画だと不良グループから抜けるから妨害されるとか、リンチとかあると思うが、全く何もなかった。

Fが応援してくれたってのもあるし、何より不良とはいえ中途半端な不良だから、リンチとかできる根性がない。

無理じゃね、とか、バカ大学行ってどーする?みたいな冗談を飛ばされるくらいだ。

当然勉強を始めても、成績は伸びなかった。バカ過ぎて、英語がちょっと難しいとすぐわからん。
古典も外国語。
日本史は暗記すれば行けそう。

ってことで、俺は現代文と日本史で稼ぐ作戦に出た。

今思えばバカのやることの典型だな。

結局その後成績は伸びなかったが、わけのわからん大学に合格した。
難関大学とか、有名大学もちょっと受験したが、英語がまるでわからなかった。

某大学の受験の時は、わからなすぎて吐き気がしたのをよくネタで話すわ。

というわけで、大学生に、俺はなったわけだ。



最近燃えているどっかのお偉いさんは15で起業したらしいが、俺が15の時は女とバイクのことしか頭になかったし、そんなわけで、たまたま警察の世話にもならず、そして親がバカだから勉強してねーのに大学に行った。


その理由を今振り返れば、結局地方に残って高卒で働くより、都会で遊びてーじゃん。都会で就活してキラキラしたいだろ?そんだけの理由。

でも結局、勉強なんかしないで、バイトするわけ。めっちゃ。学費も必要だし、何しろ生活費がかかる。

なるべくボロアパートに住んで、食費も無駄なくとは思うけど、バカだから金使って遊んじまうし、どうやっても毎月10万以上必要で、それだけバイトをしまくっていた。

で、バイトするならコスパ良く稼ぎたいじゃん?
だから色々やったよ。はじめのころは日雇とか、飲食とか。
バカなのに塾講もやったことあるぞw雇うヤツマジバカだろ。

英語ができない俺が何故か中学生に英語を教えていてマジで笑ったよ。子供から質問を受けてもわからねーから、トイレに行くふりして辞書と文法書で調べてたわ。

相手中学生だぞ?

なんで応募したか今でも不思議だわ。

その中でも一番面白かったのは清掃のバイトかな。面白いフリーターの先輩がいて、ずっとくっちゃべってた。建物に夜中入って、仕事しねーでタバコ吸ってたよ。

その会社がバカだから、3回に1回ちゃんとやっとけば全然バレなかったw


そんなこんなでフツーのバカな学生やってたんだけど、人生の転機が女だったわけよ。

当時付き合ってた女が、かわいいけど今で言うメンヘラっつーか。めんどいやつでさ。

で、そいつも大概バカだから留年したんだな。俺だけ進級した。

それに嫉妬したのかなんなのか、俺の大学生活を妨害し始めたわけよ。基本的には泣いたり喚いたり、女の武器を使ってよ。

今思えば、俺にも留年してほしかったんだろーよ。

でも俺もバカだから女に振られたくないとかで、結構相手して結局俺も留年しそうになったり、友達と遊べなくなったり、バイトに行けなくなったり、生活に支障が出てきたわけ。

だからさすがに別れようと思ったんだが、そいつがとんでもねーやつで、俺の友達とか固めてんのよ。なんか俺が悪いみたいになってて。

友達に色々相談を持ちかけても、女のことを知らない奴には別れた方が良いとしか言われないし、共通の知り合いは俺が女を追い込んでるみたいに吹聴されてて、誤解を解くのもかなり難しくて結構諦めてしまった。

そっから俺の生活がおかしくなってく。
まあ想像できると思うが、そっからはひたすら地獄の同棲生活。

一応2人の生活費のためにバイトには行くけど、俺と女が生活したら学費も払えない。節約とかもバカだからわかんねーしな。

結局俺も留年して、親を頼ったけど金なんてねーから遠い親戚から学費を借りたよ。多分100万くらいじゃねーかな。


まあそれで就職しちまえば良かったんだが、結局その女がメンヘラ行き過ぎて自◯しちまったわけ。

しかも同棲してる俺の家で。

あん時が一番焦ったね。人生で。

もう全てが終わったと思ったよ。

テンパり過ぎて119も110も押せないんだな、人間ってさ。

でもよ、そっからが本当の地獄だった。

当然、女の親と話してたんだけどさ。
やっぱり親にも嘘を言っていたみたいで、俺が娘を追い込んだみたいに責められたんだよ。

本人はいないから疑いは晴らせないし、相手の親も相当バカだから慰謝料だなんだ相当言われて、俺は追いかけられる立場になった。

バカな俺は弁護士とかそういうことが頭に浮かばず、逃げなきゃと思った。

地元の友達、バイトの先輩、大学の友達に頼み込んで30万円くらい借りて引越し。

探られるのが怖くて親にすら住んでるところを言ってなかった。

後をつけられていないか毎日ビビりながら、なんとか大学を卒業しようとしてた。


それが悪かったんだな。

相手の親が俺の実家に怒鳴り込んで来た。まあよくわからない奴らを連れて。本職ではないとは思うが。

そして俺の居場所もわからない中、うちの親はよくわからない金を払ってしまったんだな。

そして俺は親から絶縁された。というか親自身が俺の知らないところへ引っ越した。当然親も金なんてねーから、恐らく消費者金融とか、親戚を回ったんだと思う。

俺が脅されたときは300だか500だかと言われたが、実際親がいくら出したかは知らない。


その後、俺は卒業した。失意のままに。

もう、何をしたら良いかわからなかった。
とはいえ日々を暮らすために、アルバイトを続けた。


そのバイト先にいた先輩がちょっと変わったやつだった。Aとしよう。

Aは早稲田の学生だった。
俺の業界に関わるから詳しくは言えねーが、あんま高学歴なやつらが来るようなバイトじゃねーんだが、Aはいた。

大学に行ってんのかよくわかんねーやつで、ある日気づいたらバイト先で契約社員みたいになってた。

俺も長い時間働いているし、Aより経験は浅いけど大学も卒業しちまったから、せめて契約社員にしてもらえないかと思っていた。

だからAに相談してみたんだ。ちょっと飯に誘って。

俺はあの一件以来ほとんど誰とも交流せず、バイト代から30万の借金を返す生活を送っていたから、そうやって人と飯に行くのもかなり久しぶりだった。

そんなこともあって、色々Aに話したんだよな。女の件は、振られたみたいな感じでごまかしたけど、俺がツラい状況であることはわかってくれて、社員にも俺の契約を話してくれることになった。


で、話は思ったよりとんとん進み、俺は契約社員になれた。

卒業して半年くらいか?

まあ元々Fランだし、契約社員でも普通の生活が送れていたから俺は満足していた。

結局1年くらいはそのまま働いたんだ。
仕事的にホワイトカラーじゃねーよ?でも金もらえれば生きていける。
だから俺はサラリーマン反対じゃねーのよ。まあその話は今はいい。


そんでもって1年くらいたったとき、急に社員にならないかと声をかけられた。

普通ならAからだろ?って気がするが、Aはたまーに欠勤することがあって、まじめにやってた俺に順番が回ってきたんだとよ。

まー社員の仕事も見てるし、できねーことはない。給料もクソ雑魚だがちょっとは上がるってことで引き受けた。

その条件が、別の場所で働くならって話だった。
簡単に言えば別の店舗だと思ってもらって構わない。

家から通えるし、二つ返事で了承した。
その新しい店で出会った社員がBだった。俺の上司だ。


Bは10個くらい上だったが、クソ頭が良いやつで、めっちゃ仕事をこなしてた。

ただ、全然ルールは守らないやつで職場まで自分の車で来たり、遅刻や早退しつつ俺にタイムカードを切らせていた。

しかも何故か知らないが金持ちだった。うちの社員の給料では買えるかわからないようなバッグとか、時計とかを持ってて、例の車もベンツだったな。

本人曰く中古で事故車だから安かったとかフカシてやがった。

まあ別に悪いやつじゃないし、俺に危害も加えてこないし、たまに遅刻しても許してくれるから気にもしてなかった。親が金持ちなのかな、くらいだった。

だが、結果的にこのBが相当ヤバいやつだった。


俺が社員になって半年後、人手が足りないとかでまた異動になった。

なぜか本社の経理。

こんなバカに数字の計算させんなよボケと思ったが、その理由が明らかになった。

経理にAがいたのだ。

俺がBと働いている間、Aも社員の誘いを受けたらしい。もちろん快諾。

でもその条件が本社勤務だった。まあ多分中退とはいえ早稲田だからな、気持ちもわかる。現場が好きなAも安定には勝てず、本社で人事とか経理の下っ端作業をしていたらしい。

で、色々経理のことを勉強しながら働いたA。早稲田だし頭が良いし、飲み込みが早いから色々任されるようになった。


そんなとき見つけたのがBの店舗だ。
厳密には店舗ではないが。

俺らの業界は基本的に本社から送られてくるものを売ることもあるし、自分たちで売り物を見つけることもある。

だから経費や仕入を立て替えて精算することがあるんだが、要はBはそれをごまかして金を得ていたらしい。

しかも、俺の社員番号も利用されていて最悪俺も巻き添えみたいな状況だったらしい。

それに気づいたAが、俺を熱心に経理に推薦してくれて俺は経理配属になった。


しかし問題は俺がバカということだった。

高校、大学で数学なんてやってねーし、レポートだってロクなもんかいたことないからワード、エクセルすらよくわからん。

当たり前だが経理ソフトもパッパラパー。

これじゃあ仕事できないのも当たり前だよな。
1週間くらいで上司に呼ばれて説教された。Aからは熱心なやつだと聞いていたのに、なんでやる気出さないの?的なね。

でも、いや俺バカなんですとは言えねーよな。仕方なく謝って、Aを睨んだ。


その日から俺は1カ月間Aの家に住んだ。

なんでかって?仕事を覚えるためだ。
今までロクに勉強してねーから、Aが風俗とパチンコいってる時間以外はずっと経理を教わった。

でもありがてーことに意外とできたんだな、これが。

経理だと暗算出来なくても電卓使って構わねーし、仕事中もおんなじことやってるから勉強効率も2倍。

本屋に行きゃあ大抵本があるから、それ読んで実際の会社の事例でAに教えてもらって質問してノートに書いて。

仕事もノートみながらやればなんとかなる。

じきにパソコンも慣れた。

Aと1カ月くらい暮らして、パートだか派遣だかのおばちゃんよりもできるようになった。


ただ、その頃には勉強が楽しくなってて仕事に必要以上のことも学んでいた。
そして仕事でも求められる以上のことを俺は知るようになった。会社の裏側とかな。


俺が経理に異動してからも、Bは金を使い込んでいた。

見て見ぬ振りをしつつ、俺とAは証拠をためた。
今思えばBなんてどーでも良いし、会社の金もどーでも良い。
ただ、Bをネタに酒を飲みたかっただけだ。

この頃が一番楽しかったかもな。

家族も女もいねーが、まあまあ仕事で活躍して、同僚と酒飲んでたまにクソハゲのジジイからキレられるんだが、タバコ吸って気分ごまかして。
悪くなかったあの頃だな。



さて、そんな良い感じの人生にまた風が吹く。それが税務調査だ。

俺は税務調査がはじめてだったのでかなり緊張したが、結局社長と税理士のセンセーが対応するための資料を印刷しているだけで、大変なことはなかった。

ただ、とある費目でちょっと揉めた。今思えば、しょーもない税務署の揚げ足取りだな。

しかしその費目の扱いがちょうど年度によって変わっていたりして、社長と税理士では答えきれず、上司が呼ばれて話しているのを聞いていた。

しかし、その費目はたしかに上司の担当だが、最近は俺が細かくチェックしていたところだった。

上司は悪いやつではないが、ミスをするのでAと俺とで分担してチェックをしていたんだな。普段から。
お人好しではなく、締め処理つまり後からの作業が大変になるから、普段からチェックしているだけだ。

だから、俺は助けてやろうと思い応接スペースに行って、あのー、、という感じで話に入った。
社長にはなんだお前?とか言われたけど、説明したら話をさせてくれた。


それまでAとずっとお互い勉強してきたこと。そして普段からAと経理の話をしまくっていること。

そのおかげでスムーズに対応できたんだ。俺は震えたよ。

税理士の先生も、優秀な若手の方がいますね。
なんて褒めてくれて。あれも忘れられねーな。

そしてその税務調査の結果、社長に目をかけてもらった。

何度か飲みに連れていかれ、たまにAも呼んで良いといわれ、3人で行ったこともある。
金持ちと遊ぶなんてはじめてでよ、回らねー寿司とか、ねーちゃんがいる店、色々連れてってもらった。


そしていつからか俺は社長の腰巾着みたいになり、会社外で社長のプライベートカンパニーの経理もやってあげて、お小遣いをもらうようになった。

すると土日にも社長に会うから、ゴルフの運転手をしたり、買い物に付き合ったり、家の掃除をさせられたり、まあ使いやすい若者だったんだろうよ。


そんな生活を数年していたら、案外顔も広くなってきて、社長の集まりでも可愛がってもらえるようになった。

その集まりで、はじめて引き抜きみたいなものを経験する。
酔った勢いで、他の社長が、バルデスうちに来れば〜円やるぞ!みたいなことを言い出して、うちの社長とちょっと揉めた。

次の日社長に呼び出され、お前は給料不満なのか!みたいな勘違いな説教を受けた。

ただ、普通の社員+社長の腰巾着で働いているし、もらえるお小遣いも少ないから、もう少し欲しいなと思った。

だから、もらえるならありがたいですが。みたいなチキンな受け答えをしたんだな。

それがまた良くなくて火に油だったんだわ。

けど、その説教がなぜか異常に長くて、俺もイライラしてさ、
じゃあどうすれば給料上がるんですか?
って聞いて
「儲けを出しやがれこのヤロー」的な返しをされて、トボトボと家に帰った。

実際経理で儲けを出すのは難しい。俺はもう給料上がんねーのかなと思うと、強烈に寂しくなったんだ。


今までならAと遊んでりゃー楽しかったが、腰巾着を続けたせいで、金持ちの世界を見て、少し味わっちまった。

キレイな女をホテルに連れてく社長の運転手。

高級焼肉やら寿司やらに、また別の女を連れて行く運転手。

土日に家族で買い物に行く運転手と、奥さんの荷物持ち係。

今となりゃクソみたいな話だが、当時は憧れたね。


そしてその頃俺とAには距離があった。

Aも悪い評価は受けていないが、俺みたいに腰巾着でもない。
変に俺がAを抜いてしまった感じ。

そして中退とはいえ早稲田だから、他の会社から普通に話があって、普通に転職しちまったよ。

家も近いしこれからも飲もうと話していたが、結局だんだん時間が合わなくなり疎遠になってしまった。
Bのデータを俺のパソコンに残したまま。


社長に説教されて半年後くらいに、俺もAみたいに転職活動を始めた。

悪くない話は多いが経理である以上、めっちゃ給料が上がるということはない。良くて年収で50万上がりそうな感じだ。


ここが俺の分かれ道だった。

この人生も悪くない。

普通に生きていける。


学生時代のクソ底辺な俺と比べ、今は相当まともにやってる。

このままいけば結婚してガキ1人くらい養えるかも。

だが。


聞く相手もおらず、はじめて有給使って1週間まるまる自問自答した。



俺は上を目指すことにした。

俺が向かったのは、以前俺を引き抜こうと声をかけてくれた社長のところだ。

当たり前だが、それでそのまま雇ってもらうわけには行かない。

社長同士知り合いだしな。俺だって気まずい。

だが、あの場で俺に声をかけてきたということは、この人が何かヒントをくれるかもしれないと思ったんだ。

この人もまーざっくりいえば店舗型の仕事をやってた。

どの店舗に何曜日行くかは大体知ってたが、時間を知らなかったから、家からちょっと遠い店舗の近くで待ち伏せして、偶然を装って出会った。
言い訳は近くに友達の家があるとかなんとか。

世間話をして、そして店で1分ほど話すチャンスができたのだ。

何かを察したのか、外で話そうかと言われて店の裏に行った。


「何?俺のところで働きたいの?」

「いえ、たまたま寄らせていただいただけで。」


数秒の間


「テメー何考えてんだコラ。舐めんなよ」

怖かった。

何もかも見透かされた気がした。


詳しくは書けないが、要は俺が社長のプライベートカンパニーの経理をしていたとか、その辺も知っていたから、個人的に俺とその社長が会ったとなると、社長同士の関係もあんまり良くない。

それくらい俺も分かるわけで、それでも来たってことは何かしら重大な案件があるということだ。
なのに煮え切らない俺に喝を入れたんだな。


俺は泣いてしまった。
結局、俺は今の心境を話した。
もちろん言える範囲でだが。

結局「とりあえずきちんとお前の社長と話せ。ちゃんと話せ。お前のことは何となく良いと思ってるから、困ったら電話しろ。」と言われて電話番号をもらった。

名刺に書いてあるのとは違う番号だった。


次の日、俺は出社して社長と話した。

いいから利益出せって言われたことがずっと脳裏にあり、何か利益を出せないかと思って捻り出した結果が、Bの使い込み案件だった。

やり方はエグいがBの使い込みをやめさせれば、月にまあまあの数字が浮く。

だったらその成果を認めてもらえるんじゃないかと思った。

そして俺は社長に打ち明けた。

今思えば、ここがビジネスマンとしての転機だった。

俺はAと作った資料の一部を社長に見せた。内心ドヤ的な気持ちもあった。


しかし、社長に言われた言葉は意外だった。


「お前、すぐ消えろ。明日から来んな。どっかへ飛べ。さもないとこっちも本気になるぞ。」
言葉と同時に10万くらい渡された。


俺は訳がわからなかった。言われたことも意味不明だった。

その後言われた言葉は、混乱してきちんと覚えていないが、

要は、Bは社長の親戚か何かの関係者で、使い込みも知っていた。むしろ小遣いということで、社長はBと毎月いくら使ったか連絡も取り合っていた。

今までの経理社員はバカだから気づかなかったり、気づきかけても面倒だから知らないふりをしていたが、俺はその禁忌に触れてしまったというわけだ。


おそらく社長と話していたのは15分足らずだが、最後出て行くまでの5分は人生で最も頭が回転したかもしれない。


こんなところで終わりたくない、

成功したい、

金が欲しい。



最後の5分で出した結論は、コイツと戦う、ということだった。もちろん物理的にではない。

数分の思考の後、

もう自分のデスクにも帰れず、私物を少し待ってきてもらい、俺は会社を後にした。クビってヤツだ。

ホントならもう1カ月分後払いの給料が出るはずだが、当然支払われなかったな。そういや。

帰りにカバンを漁られ、会社の情報を持っていないことを確認され、会社を出た俺は、まずそのまま不動産屋に行った。


会社を出たのが昼前だったから、夕方までに手続きを終わらせて、引越し先が決まった。

そして一回家に戻り、命より大切なパソコンを持ってホテルに泊まった。

電話が鳴り止まないって、比喩的に使われるけど、文字通り鳴り止まなかったな、あの日は。


次の日の朝から俺は色んなところ回って身辺整理をした。

新しい携帯、新しい銀行口座を用意した。引越しもリスクがあると思い、家財道具は捨てた。

実質無職だが、これらの手続きはスムーズに進んだ。

なぜならこの時点で俺は退職していないからだ。

追い出された次の日の早朝に上司に電話した。
当然めちゃくちゃ焦っていた。

何しろ経理のコアは俺とAが担っていたんだ。異動でやってきてロクに勉強してないおじさんには経理なんてできない。

しかも当たり前だがBの事案もしらねーから、俺が社長に生意気を言って追い出されたくらいに思っている。

バルデス君、いいから土下座でも何でもしようよ!?俺もするからさ!

てな感じで必死だったな。

ひとまず俺は、週末まで頭を冷やして、社長に謝るから待ってほしいと言って、所属を残してもらったんだ。これが功を奏した。

そして同時並行で俺は例の引き抜き社長に電話した。今更だが名前はCとしておこう。

とりあえず時間をもらえて、夜中にとある飲み屋に会いに行った。


そこで俺はBの件を含め、全てを話した。俺の過去も。

リスクはあった。社長とCが繋がっていたら危険だった。

だから俺はBのデータ、社長のプライベートカンパニーのデータ、勤めていた会社のデータをいくつかに分散し、1つはAに渡した。


俺が最悪な結果になったケース、俺が生きた証を残すためだ。


改めて言っておくが、俺が勤めていたのはホワイトカラーでもなければホワイト企業でもない。

ドロドロのオーナー企業だ。

経営者なら分かるだろうが、突かれたら嫌なことなんて、無限にあるんだよ。まーそれはいい。

いずれにせよ俺はCと会って話した。
その時に言われた言葉を覚えている。

「おめーがヤル気なのは分かる。協力してやってもいい。でもお前は俺に何を差し出すんだ?明日答えを見せろ。」

俺は悩んだ。



俺の結論は、全部差し出すと言うことだった。

家族もいない。女もいない。友達はほとんど連絡も取っていない数人だけ。

俺がどうなろうとそこまで悲しむやつはいない。

俺はAに例のデータのコピー一式と、現金30万円を預かってもらい、通帳の金を全て引き出した。親戚に借りた学費がちょっとだけ残っていたから、それだけは返した気がする。

そしてその夜、Cに全てを見せた。
金は多分300万に多少届かないくらいだったと思う。

返された言葉は、

「で?いくら隠し持ってんだよ、残り」

やっぱコイツ怖いわって思った。
俺はAの名前は出さず、30万の話をした。



「合格だ」

返ってきたのは意外な言葉だった。

「俺とお前の距離感で100万も持ってこられないヤツはクズだ。話にならんから、社長に売り渡すつもりだった。
だが、経営者になるのにリスクヘッジを何もできないヤツもクズだ。その中で30万残したのは妥当だ。
それがお前のリスクの許容量だ。覚えておけ。」

俺はいきなり経営者という言葉に面食らったが、とりあえず命を繋いだことに安心した。


そして次に選択を迫られた。
「1、その金を持って俺の前から消える。普通に生きろ。
2、知り合いの地方の会社を紹介してやるから、その金を持っていけ。就職祝いに10万やる。
3、その金と、残り300万ちょっとを俺が貸し付ける。それで会社をやれ。借金が俺の指導料だ。それを2倍にして返せ。
どれがいい?」

俺の心は決まっていた。3だ。

心臓を自分の手のひらで握りしめるような痛みを感じながら、俺は食い気味に3だと言った。


「また合格だ。2倍は嘘だ。そのまま500万返せばいい。」

その後Cからルールを伝えられた。

要は決まった期間ごとに目標を与えられ、軌道にのるまではそれを守ることと、相談がある場合は電話や飲みに誘っても良いというものだった。

そして最初に告げられたのは
・その500万で事業を始める。
・働ける男を3人集める。
・事業内容は前の会社と同じ
だった。

前の会社と同じことをやったら睨まれるとか、Bの話や社長への復讐はどうなったか心配だったが、聞くのは野暮だ。

言われた通りにした。
色々と大変だったが、俺は事業を始める準備を整えた。

本当は人集めにもドラマがあるんだが、特定につながるから話せない。ごめんな。

しかし問題となったのが、仕入れだった。
前の会社で使っていたところとか、仕入れの方法はわかっていたものの、連絡を取っていいものか悩んだ。

Cに相談すると一蹴され、前の会社にバレることを気にしないで稼ぎまくれと言われた。

俺を含めて4人の会社だ。俺は無給としても1人20万だとしたら、最初から月60万の粗利を出すのはかなりきつかった。

しかしCに稼げと言われた手前、元々知っていた仕入先や取引先に声をかけまくった。

大抵断られるが、仕入れは先払い、取引先には前の会社の1割引〜2割引で持って行ってもらうなど、死にものぐるいで会社を回した。

初月、気づいたら100万残った。



泣いた。

社員も泣いた。

俺は無給のまま、社員に全部配った。

金なんて要らない、コイツらのおかげだと思った。俺も働いたが、みんな徹夜してた。

だからみんなの初任給でなぜか俺が奢ってもらった。クソ安い飲み屋で。わけわかんねーよな。



そんなこんなで、だんだんと事業が軌道に乗って来た。

Cへの借金も1年くらいでおおよそ返せた。


貯金は全くなかったが、会社は初年度から黒字だ。

やっぱり泣いた。

トラブルもあった。人の出入りが一番きつかった。その度にみんなで徹夜した。今でいえばクソブラック企業だな。


そしてその頃、俺の身元が前の会社にバレ始めた。

今までは何とか隠していたが、仕入先や取引先からどうしても漏れたみたいだ。仕方ないよな。

そしてCと相談し、作戦を練った。

この頃は、俺もCに対してビビりまくるだけではなく、普通の会話ができるようになっていた。


そして来るべき日が来た。
まずは電話への嫌がらせ。
店舗への嫌がらせ。
取引先や仕入先の嫌がらせ。


俺は社長の家に、Bのデータのコピーをはじめとするデータのコピー一式を送りつけた。方法は秘密。

1週間後、全てが普通に戻った。

ここでBのデータが役に立ったことに感動した。

Cに言わせれば「切り札は最後に切るものであって、こちらから見せるな」
これも金言だな。

そして俺らの計画は次のステージに向かっていた。


俺はCに言われ、社員を明確に差別していた。

初期にいてくれた幹部。
途中から来た社員やアルバイト。

それぞれは給料は平等だが、俺は当時残っていた2人の幹部としか、深い会話はしなかった。途中幹部は増えてるがな。

社長はそういうものかと思っていたが、Cの狙いは違うところにあった。


そもそも俺がいた業界は俺がいた会社以外にもデカい会社はいっぱいあった。

しかし、地域とかである程度棲み分けしていて、何となく取引先が被ったり、顧客の取り合いがあっても、ガチの戦いにはならなかった。

しかし俺らは数年かけて店舗を増やしていく中で、そのエリアの切り分けをむちゃくちゃにして行った。

普通ならエリアを固めて広げるものを、拠点を離して展開した。

数は一応秘密な。でも別に超デカいわけじゃない。

3年目が終わり、経営もまあまあ安定してきて、俺も普通よりは稼げるし、死ぬほど働くこともなくなった。
Cとも連絡を取る回数が減っていた。


しかしある日、いきなりCから呼び出された。
「そろそろだ。」

その掛け声で、俺と幹部は一気に動いた。


簡単に言えば、会社を売りに出したんだ。

事業としても3年、株式会社としてはそれ以下しかやってねーから、はっきり言って大したM&Aにはならない。流行りの2〜3桁億円ではなかったな。

しかし、話はいくつかで進んだ。

変なところでエリア展開しているから、要は目の上のちっちゃなタンコブだった俺ら。要求も高くしなかったから、買いたいというやつはまーまーいた。

しかし、Cの狙いはなんと前の会社に売り付けることだった。

まず、いくつかの会社と話す中で口頭ベースで感覚値を把握した。

そして前の会社にその1.5倍をふっかけたわけだ。


でも、ただぼったくるわけじゃねえ。

経理にいて、社長のプライベートも分かっていた。全部払わせてもヤツが苦しまないことは知っていた。

つまりここでも例のデータが役に立ったんだな。


もちろん、言葉で言うのはクソ簡単だが、裏には大量の仕込みがある。

普通に交渉なんてありえないから、色々な仕込みをしていた。そもそも交渉のテーブルにつくのすら、普通に考えたら困難だからな。

結果的に、会社は売れた。

なぜか。

それは前の会社と全く同じオペレーション、経理の流れ、報告フォーマットなどを踏襲しており、彼らにとったもただ例のデータで脅されるわけでもなければ、多少のメリットもあった。

そして筋書きもあった。

簡単に言えば、俺と幹部が仲たがいしていてもう辞めたいから、売りたいという話だった。

交渉の場では、俺は売りたくない姿勢を貫き、他の幹部に説得される演技までしたよ。

そういうわけで俺と幹部は大量の金を得た。


さっき一部の幹部以外と話をしなかったとあったが、このためだったんだ。変に社員と仲良くなると、逆に恨まれるからな。

とは言っても恨まれたよ。

変な電話とか、ここには書けない色々な目にあった。



そして俺らは予定通り新たな会社を作った。

もちろんこの業界も言えないが、やっぱり最初から金があるのはありがたいことだった。


金が金を呼び、金を生む。

これはギャグじゃねえ。

最初の起業より何十倍も簡単に軌道に乗った。

もちろん今までのコネクションも、しがらみなく最大限利用できたからな。


しかしそんな中、俺と幹部の中で意見が割れ始めた。

・もっと会社をデカくし、単純に儲ける。
・この程度で安定して稼ぐ。
・また会社を売って、新しいことをやりたい。
という感じだ。

ぶっちゃけ俺はどれも楽しいと思ったが、どれにも100%賛同できなかった。

つまり目標とかなかったんだな。

そこで俺は会社を分けることにした。
分けると言っても、分割とかではないのだが、ややこしいから分割と思ってもらっても構わない。

ガンガン会社を伸ばすやつら、安定したいやつら、新しいことをやるやつらに分けた。


そしてガンガン会社を伸ばすやつらには金を残し、俺は去った。去ると言っても株を持ってるからな。株はその幹部、C、そしてCが連れてきたやつに売った。

安定させる会社は名目的に俺が社長だったが、実質全て副社長に任せて引退した。
俺はほとんど出社しないことにした。

そして、株で得た金で会社を複数作った。


それで新しいことをしたいやつらに色々やらせたわけよ。

まあ、大半ダメだったな。
でもそのいくつかは結構伸びて、今でも存在している。

その後俺は偉そうにコンサルっぽいことをしたり、わけわからんセミナーをやったが、結局同じことの繰り返しでつまらないから、他のやつに任せた。これもすぐダメになったな。笑うわ。

そして2005年くらいか?

資本金のルールが変わってからは会社が更に作りやすくなって、俺は大量に会社を作った。

そして部下をどんどん独立させ、いわゆる資本家チックなこともやった。

不動産とか株にも手を出して、何だかんだ儲かったような儲かってないような感じだったが、色々勉強させてもらった。


最終的に、俺は人生で使えるであろう金は大体稼いだ。

まあ個人資産になっていたり、会社名義になっていたり色々だが、これ以上稼いでも、と思う段階にやってきた。


俺の心残りは家族とAだった。


家族は金で探した。



親父は死んでいた。母親はもう死にかけてた。


泣いた。




俺は勝ち組か?負け組か?


母親と再会して、クソ高い病院に入れた。1泊15万とかだったかな。

せめてもの親孝行だったが、3ヶ月後、母親も死んだよ。



Aとも再会した。

金を渡そうと思ったが断られた。

その代わり、一生飲み代奢りますという文を、渡した名刺の裏に書いた。


実はAは転職を何度かして、みんなも絶対知っている会社にいた。それは喜ばしい出世だった。


しかし俺は結局1人になっちまった。

Aみたいに毎日遊んでられる友達が欲しかったが、俺の年になって話しが合うのは、同じような社長だけだ。



だから最近はゲームと女遊び、飲み会。あとは恥ずかしいが英語をちょっと勉強してるわ。




最後に俺からのメッセージだ。


サラリーマンのヤツら。

独立も良いが、安易にすんな。

それだけは言っておく。

社畜だか家畜だか知らんが、餌を貰えるのは野垂れ死ぬよりも、かなり上の身分だ。

金を追う者は他人に追われ、他人を追いかけて生きなければならない。

そして最後に待つのは孤独だ。

雇われである限り、
生涯年収ですら俺の年収以下かもしれないが、
決まった時間に働き、必ず給料がもらえて、嫌なら転職もできる。

同僚や友達と飲みに言って、しょーもない愚痴も言える。

嫁や子供と暮らし、喧嘩もできる。

最高とは言わないが、生きていける。

深淵の先に見えるものはただの闇かもしれない。