2019年の西武ライオンズのドラフトは90点。十分に満足できる指名が出来た。特に期待したいのは6位の井上広輝と8位の岸潤一郎。

2019年のプロ野球のドラフト会議は10月17日(木)に行われた。注目を集めたのは大船渡高の佐々木朗希と星稜高の奥川恭伸の2人だったが前者は千葉ロッテマリーンズ、後者はヤクルトスワローズが交渉権を獲得した。近年、異常なほどくじ運に強いロッテがまたしても逸材を獲得したことになるがどういう風に育てていくのか?は興味深い。また、奥川恭伸には即戦力の期待がかかるがプロ1年目にどんな成績を残せるだろうか?

各球団が指名した選手の顔ぶれを見ると阪神タイガース・千葉ロッテ・広島東洋カープ・横浜DeNAベイスターズ・ヤクルトスワローズなどは「良い指名が出来た。」と言える。オリックスバファローズやソフトバンクホークスなどもまずまずの指名が出来たと言える。中日ドラゴンズは1位で大砲候補の石川昂弥を獲得できたのが大きい。最終的には3球団が石川昂弥を1位指名しているので彼に対する各球団の評価は高かった。

一方、東北楽天ゴールデンイーグルスは明らかな負け組となった。「12球団の中で楽天の指名がワースト」というのは衆目の一致するところだろう。1位の小深田大翔は悪い選手ではないが「1位の器」ではない。2位以下の指名も「おっ!」と思える指名が全くなかった。2度クジを外した読売ジャイアンツ、例年とは違って即戦力中心の指名になった北海道日本ハムファイターズも良い指名はできなかったと言える。

西武ライオンズが指名した選手は以下の9名になる。

 1位:宮川 哲(みやがわ てつ)
 2位:浜屋 将太(はまや しょうた)
 3位:松岡 洸希(まつおか こうき)
 4位:川野 涼多(かわの りょうた)
 5位:柘植 世那(つげ せな)
 6位:井上 広輝(いのうえ ひろき)
 7位:上間 永遠(うえま とわ)
 8位:岸 潤一郎(きし じゅんいちろう)
 育成1位:出井 敏博(いでい としひろ)

投手中心の補強になったが「まずまず良い指名が出来た。」と言える。最初は大船渡高の佐々木朗希にアタックしたが4球団競合となると外れるのも仕方がない。「外れ1位をどうするのか?」が注目点だったが社会人ナンバー1とも言われる宮川哲を指名。巨人との競合になったが今度は辻監督が引き当てた。今の台所事情を考えると「1軍に出てくるまでに数年かかる可能性が高い佐々木朗希よりもむしろ良かった。」と言えるのかもしれない。

点数を付けると90点くらいだろう。「使えそうな投手をたくさん確保する。」というのが今ドラフトのテーマになったが2位の浜屋将太も即戦力の左投手になる。3位の松岡洸希と7位の上間永遠はともに独立リーグの投手になるがどちらも高卒1年目。去年のドラフトで2位指名された渡邉勇太朗と同じ学年になる。切磋琢磨して育っていってほしいところである。佐々木朗希は逃したが面白い選手をたくさん獲得できた。

1位の宮川哲はリリーフタイプか。MAXは154キロと言われているが重そうなストレートを投げる。変化球はパワーカーブが威力十分。三振の取れるボールになる。7回もしくは8回を安心して任せられるようだとやり繰りは楽になる。2位の浜屋将太は先発でもリリーフでもいけそうな投手である。145キロ前後のキレのあるストレートを投げる。175センチなのでスケール感はあまりないが今の西武にはあまりいないタイプの左投手になる。

3位の松岡洸希は独立リーグ出身。本格派のサイドスローになる。ヤクルトや韓国代表で活躍した林昌勇を意識しており、投げ方はよく似ている。MAXは149キロになるが投手歴が浅いことを考えると将来的には155キロに到達しても不思議はない。コントロールは課題に挙げられるがスライダーは必殺の決め球になり得る。即戦力になれるかどうかは分からないが将来性の高い投手を獲得できた。

9名の中で会心の指名と言えるのは6位の井上広輝(日本大学第三高)だろう。肘の怪我の影響で3年生になってからは結果を出せずに評価を下げてしまったが1年ほど前の段階では「上位候補」に挙げられていた選手である。良いフォームから良いストレートを投げることが出来る。肘の具合は気になるが「このクラスの選手を6位で指名できたのはラッキー」というしかない。6位なので下位指名になるが「エース候補の1人」として期待したい。

7位の上間永遠は「独立リーグの中ではナンバー1の投手」とも言われていた。同学年になる3位の松岡洸希よりもかなり下の順位になったのは不本意だと思うが悔しい気持ちをバネにしてほしい。育成1位の出井敏博は素材型の投手になる。西武の育成出身の選手はまだ1軍で大きな戦力になれていないが去年の育成1位の東野葵は終盤にファームで2勝を挙げるなどいい投球を見せた。育成出身の選手の台頭も期待される。

野手は3名の指名にとどまった。「西武の野手陣は12球団最強で、西武の投手陣は12球団最低レベル」というのは間違いではないと思うが若い世代に有望株がたくさんいるのは明らかに投手陣になる。今井達也や高橋光成や松本航や平良海馬はすでに1軍で重要な戦力になっており、渡邉勇太朗や伊藤翔や與座海人や粟津凱士など楽しみな若手は多い。何だかんだで中塚駿太もファームでは防御率が2.45なので少しずつ成長している。

逆に野手陣は愛斗と鈴木将平が1軍で初安打を放って2軍では3割をクリアしたが戸川大輔や綱島龍生や高木渉は伸び悩み気味。高卒2年目の西川愛也は秋以降に覚醒の予感を感じさせる打撃を見せたが2軍でも.242なのでまだまだである。どの選手も守備面の不安が大きいことを考えると2020年に1軍の戦力として活躍できそうなファームの若手は山野辺翔くらい。「近年の投手偏重のドラフトのツケが回ってきた。」という見方も出来る。

なので、世間一般で言われるほど西武の野手陣は層が厚くない。野手陣の未来は安泰ではない。特に大砲候補の若手がほぼいないことを考えるとスラッガー系の選手が欲しかったがそういうタイプの選手は今ドラフトにもほとんどいなかった。若手の中で最も長打が期待できる愛斗が覚醒して1軍で15本くらいのホームランを打ってくれるようになると未来は明るくなるがなかなか1軍では結果を残せていない。

野手の中での最上位指名は4位の川野涼多になるが「スイッチヒッターでショート」なので松井稼頭央2軍監督とイメージが重なる。走力があってスローイングが安定しているのはセールスポイントになる。「第3捕手がいない。」という問題点を解消すべく獲得された柘植世那には即戦力の期待がかかる。最初は第3捕手という立ち位置からのスタートになると思うが守備面での評価が高い選手である。5位指名になったが優秀な捕手を獲得することが出来た。

1位の宮川哲よりもはるかに野球ファンの注目が集まっているのが8位の岸潤一郎になる。言わずと知れた高校野球界の元・スーパースターで明徳義塾高のときは下級生の頃から甲子園で大活躍をした。投打に評価が高かったが紆余曲折ありながらもようやくプロの世界にたどり着いた。経歴やポジションやプレースタイルを考えると熊代聖人によく似ているが「ロッテの荻野クラス」とも言われる俊足は大きな武器になるだろう。

打撃は独立リーグでも際立つ数字を残しているわけではない。最初は戸惑うと思うがまずは足でアピールしたい。守備面も課題になる。もともとは投手なので守備はまだまだ。「内野もこなせる。」と言われているが「プロレベルでセカンドやショートが守れる。」とは現時点では考えにくい。ただ、野球センスがあって身体的な能力は高くてハングリー精神もあるので守備面での成長は期待できる。外野だけでなくセカンドやショートも1軍レベルで守れるようになると価値は一気に高まる。

「FAでの流出の可能性がある秋山翔吾の代わりになれそうな選手を獲得できなかったこと」を批判する声もあるが「即戦力の外野手」がドラフト候補にほとんどいなかったことを考えると無理な要求である。法政大の宇草孔基は広島が2位で指名したが指名の順番を考えると西武が宇草孔基を獲得しようとするならば1位指名しかチャンスはなかった。

100点満点の指名が出来たとは言えないが十分に満足できる指名が出来たと言える。今回のドラフトで指名された9人全員がプロ野球選手として成功するのは確率的にかなり難しいが9人全員が現役生活を退くときに「プロ野球選手になって良かった。」、「西武に入って良かった。」、「あのとき西武に指名されて良かった。」と思えような充実したプロ野球人生を過ごせることを期待したい。

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