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誰がハチワレを、責めれるだろうか

反語です。

何となくは、わかっていたことだ。
ちいさくてか弱い存在が、デカくて強い力を手に入れたら狂うことは分かっていたが、今まで主人公サイドでそれが描かれることはあまりなかった。

主人公サイドでなくても、直接的にはほとんど書かれてこなかった。むしろ、モモンガは小さくてかわいい存在になってかわい子ぶって楽しんでいるし、モモンガの中の人(でかつよになった子)も、デカくて強い力を手に入れたのに、終始中身が変わった印象はない。ビビって小さくてかわいいままの中身である印象が強い。

この角の生えた子(”あのこ”という名称で呼ばれる存在)の方は、ちいかわ族を虐めて楽しんでいる。一応、あくまでも”憶測”として、『こいつは元々ちいかわ族だった』として語られているが、それはどこまで行っても憶測の粋を出ない。
つまりは、今までちゃんとストーリーで明示している話として、『小さくてかわいい(弱い)存在が、でかくて強い体(あるいは力)を手に入れたらどうなるか』について、そこまで明確には描かれてこなかったのである。
つまり、逆に言えばそこは良くも悪くも無視出来た。
”あのこ”の考察において、”あのこ”は元々小さくてかわいい存在だったはずなのに、小さくてかわいい存在をいたぶることに快感を得ている……という話はたくさんあったが、それはあくまでも”憶測”に過ぎない、と言えた。
かつ、それが確固たるものだったとしても、主人公サイドとは関係ない、あくまでも別のキャラクターたちである。だから、主人公サイドが『ちいかわ』である(小さくてかわいい存在である)としても、その問題から目を背けることが出来た。
そういった状況下で、今回改めて
『主人公サイドがデカくて強い力を手に入れたら』ということをいきなり突き付けてきた。
ナガノ先生の癖は、もぐらコロッケ以前から追いかけている自分としては知っていたはずだが、ここまでやるかナガノ先生、と思って筆を取った。


・『リボンがない』ことの重要性

ハチワレは、終始”見かけ”に大きく振り回されてしまっている話だと思う。

『もしかして…この世界のほうが「良い」…の?』

そんな訳はない

なぜなら、ちいかわも、ウサギも、見た目が似ているだけで全くの別生物だ。ちいかぶも平和に暮らしていて、草むしり免許も持っていて、討伐ランキングもちいかわは上の方で。
全く別物である。今まで過ごしてきたちいかわとこの世界のちいかわは、あまりにも別物だ。

しかし、それを象徴する一番大きな要素は、上記のような見かけ上大きく違う要素ではない。自分がポイントだと考える要素は『リボン』だ。
リボン編の全編はまとめをいったん読んでほしい。

ここではその一部を抜粋して話す。
ほめられリボンの話では、花瓶にちいかわからもらったリボンを結び付けていた。これはハチワレが草むしり検定に受かった時にあげたプレゼントについていたリボンだった。

だが、ハチワレはこれを鳥に奪われてしまい、なくしてしまう。
しかしそれが言い出せず、しばらく言いよどんで気まずくなる形で話は進むが、最終的にハチワレはなくしたことを打ち明ける。

それを受けて、ちいかわはハチワレを慰めようと、ハチワレに以前買ったものと同じものを持っていこうとする。だが、ハチワレは『お祝いにあの時もらったリボン』をどうしても取り戻したかったのだ。同じ青いリボンがただ欲しいわけではない。あの時、ちいかわがお祝いの想いを込めて選んでくれたクッキーとそのリボン。それこそが欲しかったのである。
それに気づいたちいかわは、急いでクッキーを食べ、リボンを落として、さもその辺りに落ちていたかのように見せかけ、ごまかす。
それにハチワレも気づくが、
『思い出が重なったみたいっ』
と言う。あの時の思い出の品は帰ってこないかもしれないが、ここで新たな、ちいかわが最大限ハチワレに気を遣ってくれたという思い出が生まれた。そう、ここにあるものは、全て何物にも代えがたい物、代替不可能なものなのである。それはこの架空の世界には絶対に存在しない。

それが”ない”と言うことは、今までハチワレが過ごして来て、ちいかわと積み上げた重要な思い出も出来事もここにはない(あるいは違う形でしかない)し、その時点で絶対に今まで来た世界とは違う世界だし、ちいかわ自身も『全く別の生物』なのである。この思い出を根拠に、ハチワレはこの架空の世界を否定しなければならない。
自分が体験した思い出を共有していないということは、ここにいるちいかわとハチワレは、元の世界と全く同じ関係性を結ぶことはできない。関係性とは、今まで過ごしてきた時間の共有によって生まれるものだ。その大事なものが抜け落ちているし、違うものなのである。だから、この世界は決して『良い世界』=『代替可能な上位互換の世界』ではない。『代替可能のように見える別の何か』なのである。
仮にここでずっと過ごしていたとしても、必ずこの世界のちいかわはこのハチワレに違和感を抱くし、逆も同様だ。そこはハチワレがここのちいかわを『全くの別生き物』として絶対に交わることはない。
だから、『こっちの世界のほうが「良い」』とは、言ってはいけない、ハチワレちゃん。これは、違う世界だ。全く別の世界なのだ。元の世界とはなんにも繋がっていない。いや、仮に繋がっていようが、この世界を否定して、思い出を共有したあの世界に戻らないといけない。あの時のリボンのように、何かしら似たものをもらえたら満足なのか。似てるけどちょっと強くてかしこいちいかわと仲良くなれればいいのか。そうではない。
もらいたいのはそこらで買ってきたリボンではないだろう。
もらいたいのは、思い出だろう。

だからこそ、『元の世界に戻りたい』と強く思うシーンで思い出されたものもリボンとクッキーだったのだと思う。

そういう意味では、ここでハチワレはちゃんと思い出したはずなのだ。元の世界の大事さを。そして畳みかけるように、この後で慌てているハチワレちゃんをよそにちいかわにのんきな反応をされてしまう。ここで、ハチワレちゃんはおそらく『元の世界と違うし、これはちいかわじゃない』とはっきりと認識したと思う。自分がピンチであると何となく気づいて、その面で手伝ってくれるのが、ハチワレちゃんの思うちいかわだと思うから。
むしろ、普段はハチワレちゃんがのんきにしているところをちいかわが幾度も助けてくれた場面のほうが多くて、だからこそハチワレちゃんは気づいたのだと思う。

・身に合わぬ力を手に入れた時

そしてここで本題に入る。
ここまで、良かった。何の問題もなかった。
見かけ上の”良さ”に流されそうになったハチワレちゃんが、本質を捉え、元の世界に戻ろうとする。この世界のちいかわは、自分の知ってるちいかわではないと気づく。ここまではよかった。
だが、思わぬ力を手に入れてしまう。

ここで、何故この世界のちいかわは刃を向けたのだろうか?
ちいかわはここで『こいつはハチワレじゃない』と気づいたのだ。
大事なのは、このデカくて強い力を手に入れるまでは、この世界のちいかわは『ハチワレ』と認識していたことである。
ここで先ほどの議論を一部崩すようなことを言うが、いくら元の世界と違う別生物であるといっても、本質的に近いところは必ずあったはずで、それで言う本質は”ここ”だと思う。
Twitter(現X)でも「簡単ッッ簡単ッッ」がトレンド入りするなどしたが、それはハチワレちゃんは普段こんなことは言わないからである。
今まで私は、この世界は『全くの別物』だと語った。ならば、全くの別世界のちいかわから、『お前は別物だ』と言われるのは当たり前だし、そう言われてなにの問題があるだろうか?と思われるかもしれない。
ただ、ハチワレが今までこの世界のことについて悩んでいたのは、そう悩ませるほどに似ている世界だったからだ。逆に言えば、向こうから見たちいかわにとっても、先ほどまでいたハチワレは『ここにいた別のハチワレと似ている存在』だったのである。少なくとも、一緒に遊んだり、お茶したりできるぐらいには似ている存在だった。たぶんこの世界のちいかわは、逆にこのハチワレのことを疑っていなかったと思う。
しかし、ここでデカくて強い力を手に入れたとき、ハチワレは全く別物になってしまったし、元々この世界にいたハチワレと似ても似つかないものになってしまった。
先ほどハチワレちゃんが『この世界は違う』と確信を得たように、この世界のちいかわも、『こいつは絶対にこの世界のハチワレじゃない』と確信を得たのだ。

・落とした、大事なもの

もちろん先ほども述べたように、『別の世界のちいかわから、お前は違う存在だ』と言われるのは当たり前と言えば当たり前であり、仕方ない話なのかもしれない。
だが、それで果たして刃を向けられることがあるだろうか。
ハチワレちゃんは、この世界のちいかわに違和感を持ったが、やはり似ている存在であるから大きく否定できなかった。逆に言えば、こちらのちいかわに『お前は違う存在だ!』と思われたとしても、『違うけど似てる何か』の形を保っていれば、もう少し穏やかな解決になったはずだ。
このちいかわが刃を向けたと言うこと。
それは『この世界のハチワレと全く似ても似つかないデカくて強いやつになった』と思われたと言うことだと思う。
そして、それに気付かぬまま、ハチワレちゃんは「ただ強くなっただけだよっ」と言う。そうではない。
たぶん、本当に体が変わっただけなら、「すごーい!キャハハ!」という感じで終わるはずだし、刃を向けられた時ももっと戸惑って「どうしたのっ!?何もしないよ!?」と、もう少し気を遣うそぶりを見せるはずである。しかし、ここではそれに動揺したそぶりを見せぬまま、
今までちいかわだと思っていた相手に対して”怒鳴りつけて”しまう。
これは、おんなじ目線なら絶対にしなかったこと。いくら相手が元の世界と全く違う存在だとしても、この世界のちいかわは、まだ”少し似ている存在”なのだ。ハチワレは、その子に刃を向けられた意味を理解しきっていない。僕が一番ショックだったのは、”刃を向けた相手に高圧的に怒鳴りつける”という、自分の力の強さを完全に意識し、見せつけるようなことをしてしまったということが、本当にショックだった。
かなり冒頭で触れたように、でかつよ(モモンガと入れ替わった子、中身はモモンガの見た目強い生物)は、精神性はそのままちいさくてかわいい存在だった。しゃべり方も、”あのこ”に弱い者いじめをやめるように言ったり、”あのこ”に怯える姿も。
だが、ここでハチワレちゃんは”あのこ”のように、見た目に釣られて大事なものを見失ったままになってしまった。

・元々強い者と、弱い者が力を手に入れた時

冒頭で触れた”あのこ”は、いったん”憶測”とは言っていたが、一般的な考察通り『元々ちいかわ族だったがでかくてつよい存在になってしまった生物』と考える。
そうした場合に考えると見えてくるものがある。
以前『島編』では、元々強い者としてセイレーンが現れる。
しかしこのセイレーンは、強い力にそもそもの自覚はないし、誇示することもない。ただ好き勝手ふるまってたら勝手に恨まれて、それの仕返しをしているというだけだ。

セイレーンはただ遊んでいただけだが、その遊びに振り回された結果、ちいかわ族の一匹が死にかけてしまい、怨みを買うきっかけとなってしまう。
力を誇示していたわけでもなんでもないし、なんならその強大さに自覚がないことを表す一面でもあると思う。

他方で、”あのこ”はどうか。常にちいさくてかわいい存在を虐めることを楽しんでいるし、なんならちょっと遊んだりしている。

このシーンでは、おそらく回想シーンである。中央右側の2コマに注目してほしい。ここでは、上のコマでは『ちいかわ族の時に楽しかった思い出』を思い出し、眉が下がっている。しかし、次のコマでは『ちいかわ族の時に大変だった思い出』を思い出し、眉が上がる。
そして、自分がちいかわ族をいたぶったことを思い出し、満足そうに寝る。

これこそが、『弱者が強い力を得たこと』に他ならないと思う。

先ほどもセイレーンのところで述べたように、元々強い者は、そもそも元々強いので、強さを再認識する必要がなく、誇示する必要がない。強さを誇示したり威嚇する生き物は、弱いから威嚇するのだ。
元々の中身が弱いからこそ、威嚇し、叫び、弱きを虐め自分の立ち位置を確認しないと安心できないのだ。

だからこそ、先の話に戻ると、ここでのハチワレはまさに『弱き存在が強い力を手に入れてそれに振り回される』シーンなのである。

このシーンのハチワレは、全く『でかつよ』ではない。
むしろ、弱い。威嚇をしなければ、こんなに弱弱しいちいかわに対抗できないほど、弱い。
けれども、弱いのにその強さを振り回すような真似をしてしまっている。
その時、ハチワレはとても大事なものを落としてしまったと思う。弱いまま、強い力を持ってしまった。強い者になり切ることもできず、元のハチワレを維持することもできず、ちいかわのようなものに刃を向けられる。そのちいかわのようなものに、こちらも刃を返す。
たぶん、ハチワレちゃんはショックだったんだと思う。ちいかわに似ている存在に刃を向けられて。少なくとも、ここに来て元の世界のちいかわと似た交流を取っていた相手に刃を向けられて。
そこに、ハチワレちゃんの弱さがある。その弱さを、弱い心をごまかすかのように、何事もないように、動揺したそぶりも見せずに、怒鳴りつける。
それは弱さだよ、ハチワレちゃん。

・終わりに:誰が、責められようか

しかし、それを誰が責められようか。
自分にとって分不相応なものを手にした時、人は必ず舞い上がるし、調子に乗る。その時、まるで自分じゃなくなるような感覚がある。そして同時に、”確固たる自分”として大事なものも失いかける。
思わぬ金を博打で得た時、人は普段しない贅沢をするだろう。
ある日いきなり有名人になった凡人は、その知名度を誇示するだろう。
あるいは、有名人になれない凡人は、必死に会えた有名人を自慢し、自分もその知名度に並ぼうと誇示するだろう。

人は、必ず調子に乗る。
人は、必ずその弱さを、自信のなさを、隠すように『デカくて強い存在のように見せかける』だろう。

そうならないもの、自分が真の、生まれながらにしての強者であると言えるもの。あるいは、大きな力を得ても、でかつよちゃんのように確固たる精神性を持ち続けるものだけが、このハチワレちゃんを責めれる。

大半の人間はそうではない。
だから、ハチワレちゃんを責めれない。
責めれないが、責めれないが、我々はハチワレちゃんを信じていたかった。
そういう、我々のような愚かな人間と一緒でいてほしくなかった。

あくまでもちいさくてかわいい存在。けど、ちゃんとちいかわちゃんに気を遣ったり、大事なリボンを探したり、ちいかわちゃんを助けようとするいい存在。愚かな我々とは違う。違う存在。
そうだと思いたかった。
なのに、その似たような断片が見えてしまった。
それがとても悲しい話であった。
どうかこの後の話で、ハチワレちゃんがそれとは違うんだと言うことを示してほしいと祈るばかりである。


最後に。

元のコンセプトこれだったはずの漫画になんで俺はここまで狂わされてるんですか?????????

今人魚の煮付けの同人誌書いてます ちいかわ関係ないジャンルのだからここには貼らないけど マジで 永遠にくるってる、俺は。

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